カレントアウェアネス-E
No.115 2007.10.17
E704
総務省,ネットワークの中立性に関する報告書を発表
米国,EUなどでは近年,「ネットワークの中立性」をめぐる議論が盛んになっている。特に米国では,米国図書館協会(ALA)が積極的に擁護活動を行うなど,図書館界にも関わりのあるテーマとして認識されている。日本でも,総務省が「ネットワークの中立性に関する懇談会」を設置し,2006年11月から2007年9月まで8回に渡って会合を開き,議論を重ねてきた。この懇談会には「新しい競争ルールの在り方に関する作業部会」と「P2Pネットワークの在り方に関する作業部会」の2つの作業部会が置かれており,より具体的な議論が交わされてきた。このほど,これらの一連の会合での議論が報告書としてまとめられ,公表された。
本報告書ではまず,海外における議論も踏まえ,ネットワークの中立性を論じるための基本的な視点についてまとめている。ネットワークの中立性が保持されているとは,(1)消費者がネットワーク(IP網)を柔軟に利用して,コンテンツ・アプリケーションレイヤーに自由にアクセス可能であること,(2)消費者が法令に定める技術基準に合致した端末をネットワーク(IP網)に自由に接続し,端末間の通信を柔軟に行うことが可能であること,(3)消費者が通信レイヤー及びプラットフォームレイヤーを適正な対価で公平に利用可能であることという3つの要件を満たしたネットワークが,関係する事業者により維持・運営されている状態であるとし,この状態の確保のためには,「ネットワークのコスト負担の公平性」と「ネットワーク利用の公平性」の2つの視点から課題の検討を行う必要があることを確認している。さらに,検討の際には,依然としてボトルネック設備(あるサービスを供給するのに不可欠だが,投資額が大きいなどの理由で,整備が一部の事業者に限られてしまうような設備)を有するドミナント事業者が存在しているという市場特性を十分意識する必要があるとしている。
以上のようにネットワークの中立性を論じるに当たっての基本を押さえたうえで,報告書は各論の論点をまとめている。まず,ネットワークのコスト負担の公平性が取り上げられている。具体的には,インターネットサービスプロバイダ等による帯域制御のあり方や,リッチコンテンツを配信するコンテンツプロバイダ・帯域を占有しているヘビーユーザー等への追加課金の是非について課題を整理している。次に,ネットワーク利用の公平性に関する論点を取り上げている。特に,ドミナント事業者が次世代ネットワークの構築を推進している現状において,こうした事業者等による市場支配力の濫用を防止するためのドミナント規制(指定電気通信設備制度)は,どのようなあり方が望ましいのか検討を加えている。なおドミナント規制に関わる議論については,補論を設けてさらに具体的に検討を加えている。最後にこれまでの論点を踏まえ,ネットワークの中立性を確保するための検討ロードマップを提示し,望ましい政策展開の方向性についてまとめている。
ネットワークの中立性についての議論は,日本では諸についたばかりである。本報告書でも,活動の第2フェーズへの速やかな移行が必要であると述べられている。今後の展開に引き続き注目していく必要があるだろう。
Ref:
http://www.soumu.go.jp/s-news/2007/070920_6.html
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/policyreports/chousa/network_churitsu/index.html