E674 – 今後の「大学図書館」のあり方は?<文献紹介>

カレントアウェアネス-E

No.110 2007.07.11

 

 E674

今後の「大学図書館」のあり方は?<文献紹介>

 

筑波大学. 今後の「大学像」の在り方に関する調査研究(図書館)報告書:教育と情報の基盤としての図書館. 2007. 139p.  http://www.kc.tsukuba.ac.jp/div-comm/spons_report/future-library.pdf(参照2007-07-11).

 2007年3月,筑波大学が先導的大学改革推進委託事業『今後の「大学像」の在り方に関する調査研究(図書館)報告書−教育と情報の基盤としての図書館−』を公表した。この報告書は,2005年から2006年にかけて実施した調査に基づき,大学コミュニティに価値をもたらす図書館,情報基盤のあり方を論じたものである。

 第1章では,大学図書館をめぐる状況を把握した上で,大学の中で図書館が教育基盤,情報基盤の役割を果たす位置にあることを再確認し,それを踏まえて,いかに新しいサービスを創出するかについて論点を整理している。

 第2章では,教育基盤としての図書館を,教育プログラムに対応したコレクション構築,学習環境の構築,情報リテラシー教育の支援という3つの視点から論じている。いずれの視点からのアプローチにとっても,大学の教育プログラム,教員,図書館員の効果的な連携が不可欠であることが強調されている。

 第3章では,情報産業との比較から,図書館の使命を知の多様性を支援するサービス機関であると位置づけるとともに,基盤となる情報資源管理システムの方向性を,(1)短期的には国内外を問わず,情報資源をシームレスに接続する仕組みを整備すること,(2)中期的には情報資源を仲介するモジュールを増やし,アウトプットを起点として知的環境を構築すること,(3)長期的にはネットワーク・ライブラリーに移行し,知の伝達を図書館の集合体で 司ることの3点にまとめている。

 第4章では,時間,場所,空間の側面から図書館のサービス展開の方向性を模索している。場所の問題では,図書館へと利用者を導く導線として,ポータル(玄関)を取り上げ,ウェブポータルが各種図書館サービスへと誘導する窓口機能を果たしていることを指摘するとともに,スチューデントポータルから直接図書館サービスへとたどり着ける「通り道」の設定を提言している。また,空間の問題では「場としての図書館」(CA1580参照)を利用者が期待していると分析し,図書館機能,コンピュータやネットワーク資源,学習や研究のために長時間滞在できる空間という3つの機能を統合した,インフォーメーション/ラーニング・コモンズ(CA1603参照)導入の有効性が指摘されている。

 第5章では,図書館の組織と人的資源管理の問題が取り上げられている。財政の逼迫という状況の下で,図書館が求められた機能を効率的に発揮するためにはどのような組織体制と人材が必要か,また,今持っている人材のキャリア・ディベロップメントはどのような研修体系によって実現可能かについて,述べられている。

 巻末には付録として,「大学図書館の経営に関する調査」の集計結果と米国大学図書館協会(ACRL)の2つの基準文書がつけられている。ただしACRLの基準文書については,著作権許諾を得るまでの間,ウェブ上での公開が留保されている。

 各章には,論説に加え,実例や最近のトレンドを豊富に含んだ資料がついており,昨今の大学図書館の実情をよく理解できる報告書となっている。

Ref:
CA1580
CA1603