カレントアウェアネス-E
No.89 2006.08.23
E530
大学図書館における資料収集費の推移は?(英国)
英国の大学で年間費やされる図書・雑誌購入費は増加を示しているのか,また諸外国と比較すると多いのか,それとも少ないのか,英国の出版社協会(Publishers Association: PA)は,英国の大学図書館における資料購入費の推移を調査した報告書“University Library Spending Report”を毎年刊行しており,このたび,2006年版が公表された。
英国の大学図書館では近年,総購入費が以前よりも大幅に増加しており,2002〜2003年と比較すると,2003〜2004年では前年比で約7.4%の増加率を示している,と報告書は指摘する。図書費と雑誌費の割合は,35:65となっており, 1994〜1995年の45:55と比較して,雑誌費の割合が相対的に高まっている。図書費は対前年比で約5.4%の増加,雑誌は同じく約6%の増加を示しており,雑誌費の増加率は図書費のそれを上回っている。また雑誌の契約タイトル数は,ビッグディール化の進展により,過去6年間で約95.4%の増加となっているが,この1年では4.2%と,伸びは鈍化している。このうち冊子体のみの契約は約40%で,2001〜2002年の約47%から減少している。一方,電子ジャーナルを除いた電子リソースは約25億ポンド(約5,500億円)にすぎないが,対前年度増加比は約18.1%という高い割合を示していて,電子リソースの存在感が以前に比べて高まっていることが購入費用からも窺うことができる。
諸外国との比較では,2003〜2004年で前年よりも総購入費が増加したのは,米国研究図書館協会(ARL)加盟館,オーストラリア,ニュージーランド,増加率が上昇したのは,オーストラリアとARL加盟館であった。一方で,カナダとニュージーランドでは増加率が減少したことが報告されている。またこれまで,英国の総購入費はARL加盟国や日本よりも少ないことがわかっていたが,今回の調査で新たにオーストラリアやニュージーランドよりも少ないことがわかった。
報告書はこのような実態を踏まえて,レベルが高く,豊富な財源をもつ大学図書館が教育・研究の品質を保証していること,大学図書館の財源問題への取り組みはそこに関心を持つ一人ひとりの運動にゆだねられていること,また図書館職員,研究者,出版社の三者が新たな電子リソースの構築に引き続き関与することが重要だとしている。一方で,財政問題とも密接な関連を持ち,今後の学術コミュニティを支えるであろう分配モデルとしての「電子化」の影響について,いまだきちんと分析され,実行に移されていないことも指摘している。