カレントアウェアネス-E
No.83 2006.05.24
E492
利用ログから見るビッグディールの効用 <文献紹介>
Nicholas, David et al. The Big Deal – ten years on. Learned Publishing. 18(4), 2005, 251-257.
ビッグディールによる電子ジャーナルの提供(CA1586, E463)には,賛否両論あるが,その評価は少なくとも具体的な事実に基づいて行われるべきだろう。ユニバーシティカレッジロンドンのニコラス(David Nicholas)らは深層ログ分析という独自手法を用いて,電子ジャーナル利用に関する研究を精力的に行っている。本論文はOhioLINKを対象にした調査報告である。
調査は2004年6月から12月までのOhioLINKの利用ログをもとに行われている。2004年10月当時,5,872タイトルが利用可能であったが,そのうち全文が閲覧されたタイトルは88%にも達しており,目次や抄録も含めて一度も閲覧されなかったものは4タイトルに過ぎなかった。Emerald Insight(http://www.emeraldinsight.com)を対象にした別の調査では,英国の伝統校,新興校のいずれにおいても, ビッグディール契約館は同サイトを繰り返し利用する利用者の割合が,非契約館よりも高かったという。著者らは深層ログ分析により見いだされた,本来はインタビュー,質問紙調査,エスノグラフィーによって問われるべき種類の問題点を,これらの調査方法を通して今後明らかにするそうである。
なお,先日公表された「学術情報基盤の今後の在り方について(報告)」でも,「電子資料の利用状況の把握のための評価指標の開発」の必要性が言及されており,日本においても電子ジャーナルの利用状況とその効果を測定する調査研究が求められる。著者らが言うように,これらの調査から得られる知見は図書館だけでなく出版界にとっても有益だからである。
(慶應義塾大学大学院:三根慎二)
Ref:
CA1586
E463
Nicholas, David et al. The information seeking behaviour of the users of digital scholarly journals. Information Processing & Management. vol.42,no.5, 2006, p.1345-1365
http://web.utk.edu/~tenopir/maxdata/
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/toushin/06041015.htm