カレントアウェアネス-E
No.523 2026.05.28
E2882
Japan Open Science Monitor試験版の公開
国立情報学研究所・西岡千文(にしおかちふみ)
国立情報学研究所(NII)オープンサイエンス基盤研究センターは、2026年3月3日、日本のオープンサイエンスの進捗状況を可視化するサービスとしてJapan Open Science Monitor試験版を公開した。本稿では、同サービス公開の背景と概要、および今後の展望について述べる。
●オープンサイエンスモニタリングとその必要性
近年、ユネスコのオープンサイエンスに関する勧告(E2485参照)等を背景として、オープンサイエンスの原則と実践を評価するオープンサイエンスモニタリングの重要性が国際的に高まっている。出版物のオープンアクセス(OA)や研究データの公開状況を客観的に把握することは、効果的な政策・戦略の立案に不可欠である。加えて、日本のオープンサイエンスの状況を諸外国と比較可能な形で提示できる環境の整備が求められていた。こうした背景のもと、NIIは、文部科学省によるオープンアクセス加速化事業の補助金を活用して、海外のモニタと比較・参照し得る日本のモニタJapan Open Science Monitor試験版の開発に着手した。
●モデルとしたFrench Open Science Monitor
Japan Open Science Monitor試験版は、フランス高等教育・研究・宇宙省(MESRE)等が開発・運営するFrench Open Science Monitorを最初のモデルとして採用した。French Open Science Monitorは、2018年以降、オープンデータに基づいてオープンサイエンスモニタリングを実施している。さらに、指標等の算出やウェブインタフェースに関するソースコードをオープンライセンスで公開することにより透明性と再現性を担保している。これらのことからFrench Open Science Monitorは、オープンサイエンスモニタリングの先進的な事例として国際的にも広く認知されている。2026年5月時点では、出版物・研究データ・ソフトウェア・治験についての指標が提供されている。
●Japan Open Science Monitor試験版が提供する指標と機能
Japan Open Science Monitor試験版では、まずは出版物のOAに関する指標の提供に焦点を当てている。これらの指標はFrench Open Science Monitorに倣い、米国の非営利団体OurResearchが開発・運営するオープンな学術情報データベースOpenAlexが提供するメタデータに基づいて算出されている。OpenAlexは多様なデータソースを統合し、各出版物のOA状況を判定しているが、日本の機関リポジトリの捕捉には課題がある。この課題に対応するため、Japan Open Science Monitor試験版では、日本の機関リポジトリのメタデータを体系的に収集している学術機関リポジトリデータベース(IRDB)を統合することによって、OA指標の精度の向上を図っている。
算出されたOA指標はグラフとして可視化されており、多くのグラフについてはグラフ画像および数値データのダウンロードが可能である。また、これらのグラフ・数値データはCC0ライセンスのもとで提供され、制限なく自由に活用できる。
●図書館業務との関連
統合イノベーション戦略推進会議が策定した「学術論文等の即時オープンアクセスの実現に向けた基本方針」により、論文を機関リポジトリで公開することへの要請が高まっている。機関リポジトリで公開された論文のメタデータはIRDBに集約されることから、大学図書館等による機関リポジトリを通じたOA推進業務は、Japan Open Science Monitor試験版が提供するOA指標に反映される。機関リポジトリでのOAの実践がOA指標の向上として反映される仕組みは、図書館のOA推進活動のエビデンスとしての機能も果たすことが期待される。
●今後の展望
今後は日本のモニタとして、和文論文や図書といった多様な研究成果がより適切に反映されるよう、CiNii Research連携も視野にデータソースの拡充を進める予定である。また、French Open Science Monitorで提供されている研究データやソフトウェアを含む、より幅広い領域への指標拡充も検討したいと考えている。さらにオープンサイエンスの推進に貢献するには、指標の提示に留まらず、得られた指標を具体的な施策へと繋げるためのユースケースの蓄積も必要である。オープンサイエンスを推進する諸外国でのOA指標やオープンサイエンスについての定量的な分析手法の議論を参考に、日本の研究環境の実態に即した総合的なオープンサイエンスモニタリング環境の整備を目指している。
Ref:
“Japan Open Science Monitor試験版を公開〜日本のオープンサイエンスの進捗を可視化する〜”. NII. 2026-03-03.
https://www.nii.ac.jp/news/release/2026/0303.html
Japan Open Science Monitor試験版.
https://osm.nii.ac.jp/
UNESCO Recommendation on Open Science. UNESCO, 2021, 34p.
https://doi.org/10.54677/MNMH8546
評価専門調査会(第145回)資料7 オープンサイエンスに係る評価専門調査会での論点. 2023.
https://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/hyouka/haihu145/siryo7.pdf
“オープンアクセス加速化事業の公募開始について”. 文部科学省. 2024-03-26.
https://www.mext.go.jp/b_menu/boshu/detail/1421775_00008.htm
French Open Science Monitor.
https://frenchopensciencemonitor.esr.gouv.fr/
OpenAlex.
https://openalex.org/
学術機関リポジトリデータベース(IRDB).
https://irdb.nii.ac.jp/
統合イノベーション戦略推進会議. 学術論文等の即時オープンアクセスの実現に向けた基本方針. 2024, 3p.
https://www8.cao.go.jp/cstp/oa_240216.pdf
Manco, Alejandra. A Landscape of Open Science Policies Research. SAGE Open. 2022, 12(4).
https://doi.org/10.1177/21582440221140358
米川和志. ユネスコ「オープンサイエンスに関する勧告」. カレントアウェアネス-E. 2022, (433), E2485.
https://current.ndl.go.jp/e2485
