E2719 – 博物館デジタルアーカイブの現在地(第1回)<報告>

カレントアウェアネス-E

No.484 2024.07.25

 

 E2719

博物館デジタルアーカイブの現在地(第1回)<報告>

五常総合法律事務所・数藤雅彦(すどうまさひこ)、慶應義塾大学文学部・福島幸宏(ふくしまゆきひろ)

 

  デジタルアーカイブ学会は、2024年6月6日、シンポジウム「博物館デジタルアーカイブの現在地(第1回)」をオンラインで開催した。2023年4月に施行された改正博物館法では、博物館の事業として資料のデジタルアーカイブ化が明記されたが、予算や人員体制などが要因となり取組が進んでいない施設も多い。そこで我々は、博物館におけるデジタルアーカイブの現状と課題を議論するために本シンポジウムを企画した。第1回となる今回は、国の政策と自治体の事例を取り上げた。開催にあたっては日本博物館協会の後援を得た。本稿ではシンポジウムの概要を紹介する。

●シンポジウムの概要

  まず基調講演として、中尾智行氏(文化庁博物館支援調査官)がミュージアムDXをめぐる政策動向を解説した。2021年の調査によると、デジタルアーカイブを実施している博物館は全体の4分の1に過ぎない。この状況を前提に、公的な性格をもつ博物館資料を囲い込んではならないこと、資料を可能なかぎりオープン化して二次利用をうながすこと、学校教育や生涯学習のデジタル化とそのニーズに対応すること、ネット時代における利用者像をアップデートすることの意義などが語られた。「必要なことは博物館と資料の価値の共有だ」との言葉は、博物館がDXを進めるための視点を明確に示していた。

  事例紹介では、まず吉野文彬氏(小田原市郷土文化館)が、「おだわらデジタルミュージアム」の創設と今後の展望を報告した。デジタル田園都市国家構想交付金の約1億6,000万円の予算により実質半年間でデジタルミュージアムを創設したこと、その過程における財政課など他部署との連携、資料撮影の優先づけなどの実情や、詳細が不明な資料もとりあえずデジタル撮影して付番することの重要性などが語られた。「収蔵庫の奥で眠っていた資料に日を当てられてよかった」との言葉には、成果に対する担当者としての自信が感じられた。

  続いて三好清超氏(飛騨みやがわ考古民俗館)が、収蔵資料のデジタル化により関係人口を増やした取組を報告した。過疎化と少子高齢化が進む岐阜県飛騨市では、考古資料である縄文石棒を1,000本以上も有しているが、その価値が広く伝わっているとは言えない。そこで三好氏は、市内外の関心をもつ人々とともに「石棒クラブ」を立ち上げ、SNSでの発信や、市民との資料撮影、オープンデータ化などを試みた。現在、ウェブサイト上で公開している3Dデータには累計5万件弱のアクセスがあり、同館の入館者が3倍以上に増加。ふるさと納税では同館が有する古民家修復などに6,000万円の寄付が集まった。「これから人口が増えることはない以上、博物館や地域の文化財を継承していくためにデジタルアーカイブは避けて通れない」との言葉には重いものがあった。

  ディスカッションでは、太下義之氏(同志社大学教授)の司会のもと、博物館などで働く視聴者からの質問に回答がなされた。今後の課題として、吉野氏からは学校教育との連携が、三好氏からは博物館活動への長期的な関心の維持の問題などが語られた。最後に中尾氏が、著作権のない資料にまであたかも権利があるかのようなライセンス表記を付けてしまう問題のほか、資料利用の許可申請事務や教育利用の評価の在り方など、DXを進めるためには旧来の仕組みや意識を変えるパラダイムシフトが必要であると述べた。それを受けて太下氏は、パブリックなミュージアムの収蔵品はそもそも「誰のもの」なのか、デジタルアーカイブの現状をふまえて改めて考える必要があると締めくくった。

●参加者の反応と今後の展開

  以上、紙幅の関係で圧縮した紹介になったが、講演資料はデジタルアーカイブ学会のホームページ(後掲)を参照されたい。総じてみると、政策を俯瞰しつつ自治体の現場のプロセスも事細かに語られ、まさに博物館デジタルアーカイブの「現在地」が示されていた。終了後のアンケートでは、実践的な話が多く勉強になったとの声が多数寄せられた。

  本シンポジウムは、はじめから「第1回」と銘打ったように、今後も開催を予定している。次回以降も、博物館デジタルアーカイブの「現在地」を明らかにしながら、現場の悩みの解決につなげていきたい。

Ref:
“デジタルアーカイブ学会シンポジウム「博物館デジタルアーカイブの現在地(第1回)」(2024/6/6)”. デジタルアーカイブ学会.
https://digitalarchivejapan.org/39479/
おだわらデジタルミュージアム.
https://odawara-digital-museum.jp/
石棒クラブ.
https://www.sekiboclub.com/