E2718 – ポーラ文化研究所の化粧文化ギャラリーとデジタルミュージアム

カレントアウェアネス-E

No.484 2024.07.25

 

 E2718

ポーラ文化研究所の化粧文化ギャラリーとデジタルミュージアム

ポーラ文化研究所・富澤洋子(とみざわようこ)

 

  2024年5月16日、ポーラ文化研究所は東京都港区・南青山に「化粧文化ギャラリー」をオープンした。2005年に開始したポーラ化粧文化情報センターの活動を大きく発展、拡張するかたちで、化粧文化に親しく触れられる場を提供している。また、化粧文化ギャラリーのオープンに先駆けて、ウェブサイトに「デジタルミュージアム」をローンチした。地域や時間の制約なく所蔵品をビジュアル重視で楽しめるコンテンツとして企画した。

  ポーラ文化研究所の設立は1976年5月15日。設立以来、化粧を「人々の営みの中で培われてきた大切な文化である」ととらえ、化粧文化に関わる収集保存、調査研究、公開普及に継続的に取り組んできた。「トルクメンの装身具」や、英国の髪型研究家J.S.コックス(James Stevens Cox)が髪型とかつら制作の事典“An Illustrated Dictionary of Hairdressing and Wigmaking”編纂に際して収集した資料群「コックス・コレクション」など、世界的に稀少性の高い資料も所蔵している。

  化粧することはまさに日常生活に根ざした行為であるため、設立当初は「化粧に文化なんてあるのか」と、研究領域を疑問視する声もあったと聞くが、古典文学に記された化粧に関する事項を採取した『化粧史文献資料年表』(1979年初版)や美と文化の総合誌『is』(1978-2002)、研究誌『化粧文化』(1979-2005)などの刊行をはじめ、公開セミナー開催、国内外の博物館への展示協力などを行っている。また、1970年代後半から実施しているアンケート調査の結果などを、ウェブサイトで広く発信。近年ではオンラインでのセミナーやレファレンスサービスにも取り組んできた。

  ポーラ文化研究所が入居するポーラ青山ビルは、青山エリアの新たな文化拠点を目指して2024年3月に竣工した。化粧文化ギャラリーでは、展示室と書架を使い、一つのテーマに沿って企画を行う「Art&Books」と予約制のプログラム「Discovery Days」の二つを柱に活動を開始した。「Art&Books」は所蔵品を紹介するArt(展示室)とBooks(閲覧スペース)から成る。Artの展示から連想を広げたテーマで選書した資料をBooksに開架している。2025年3月までのオープニング企画では「はじまりの美学」という主題のもと、3期に分けて展開する(各期中に展示替えを行う場合あり)。1期は「化粧文化のはじまり」と題し、ポーラ文化研究所が設立初期に収集した「橘唐草紋散蒔絵婚礼化粧道具」を中心に、江戸時代の化粧道具や化粧法、装いへの思い、そして婚礼という儀式にかかわる所蔵品を展示している。Booksでは、「婚礼」から連想を広げて「白」「花」「通過儀礼」「Money」「旅行」「写真」「家族」「あこがれ」といった8つのテーマを設定。化粧文化関連という視点で収集してきた蔵書のなかから選書を行い、各テーマ1冊には簡単な解題を付した。

  Booksで開催する「Discovery Days」プログラムでは「化粧文化との多彩な出会いをつくるプログラム」をうたって、ギャラリートークやワークショップ、レファレンスサービスを予約制で行っている。江戸時代の漆器や浮世絵などを化粧文化の視点から解説するギャラリートークや、歴史的な化粧を体験できるアプリを使ったワークショップなど、「化粧文化」への気づきの場となる企画をラインナップしている。

  ポーラ文化研究所のウェブサイトに4月16日にローンチした新コンテンツ「デジタルミュージアム」では、設立以来40年以上にわたって企画開催してきた展覧会を再構築し、10企画展、約1,000点のコレクションをインターネット上で公開している。キャッチフレーズは「あなたの1クリックから美しさの世界との出会いが始まります」。化粧道具をはじめ、化粧の様子を描いた浮世絵や西洋版画、櫛や扇などの装いの小道具など、化粧文化の多彩な世界を一望できるコンテンツを企図した。

  展覧会は調査研究成果発表の一つであるといえるが、開催期間や開催地などの時間と空間の制約があり、図録など記録が残せない場合は、その存在は人びとの記憶に残るにすぎない存在である。ウェブサイト上に展覧会を再構築することで、インターネットにアクセスさえすれば、いつでもどこでも誰でも閲覧可能な一種のアーカイブとなることを目指している。地域や時代ごとの美意識や技術革新によって、化粧道具や化粧品は変化し続けている。現代日本で生活する私たちから見ると、不思議な形や役割をもったものも多い。そこで、デジタルミュージアムでは「なんだろう」「不思議だな」「見た目が美しい」などの直感の連鎖で操作できることを重視した。

  始まったばかりの「化粧文化ギャラリー」と「デジタルミュージアム」、リアル×デジタルの二つの活動が、化粧文化の多彩な世界と出会い感受性が広がる場となっていくことを願っている。

Ref:
ポーラ文化研究所が南青山に移転「化粧文化ギャラリー」が5月にオープン. ポーラ文化研究所. 2024.
https://www.cosmetic-culture.po-holdings.co.jp/newsrelease/pdf/20240508release.pdf
“「デジタルミュージアム」公開しました!”. ポーラ文化研究所. 2024-04-17.
https://www.cosmetic-culture.po-holdings.co.jp/focus/information/240417_50.html
“ポーラ文化研究所化粧文化ギャラリー”. ポーラ文化研究所.
https://www.cosmetic-culture.po-holdings.co.jp/gallery/
“デジタルミュージアム”. ポーラ文化研究所.
https://www.cosmetic-culture.po-holdings.co.jp/digitalmuseum/