カレントアウェアネス-E
No.483 2024.07.11
E2713
2024年国際博物館の日記念シンポジウム<報告>
ICOM日本委員会/日本博物館協会・半田昌之(はんだまさゆき)
2024年5月19日、日本博物館協会とICOM(国際博物館会議)日本委員会が「国際博物館の日記念シンポジウム」を、2024年に創設50周年を迎えた国立民族学博物館(みんぱく)で開催した。本稿では、シンポジウムの概要を紹介する。
●国際博物館の日について
ICOMは毎年5月18日を国際博物館の日(International Museum Day)と定めており、世界中で博物館に関する記念行事が展開される。日本でも日本博物館協会とICOM日本委員会を中心に、全国の博物館に記念事業の実施を呼びかけている。今年のテーマは、「学びと研究のための博物館」(Museums for Education and Research)で、教育の充実・強化、研究における連携や協働、デジタルを活用した学びの包摂的環境の整備、共有遺産の保存の重要性が強調されている。このテーマ設定は、博物館の未来像を提示するものであり、また博物館がSDGsへの対応など新たな役割を果たすためには基本的機能の充実が不可欠であることを博物館関係者に再認識させるものであった。
●国際博物館の日記念シンポジウム
冒頭、青柳正規ICOM日本委員会委員長(石川県立美術館長)から、開会挨拶があった。
みんぱくの?田憲司館長(ICOM日本委員会副委員長)が、「学びと研究のための博物館―みんぱく50年の歩みを踏まえて」と題した特別講演を行った。?田館長は、自らの研究経験とみんぱくの歴史を振り返りつつ、世界が大きな転換点にある今、博物館にも対応が求められていると訴えた。従来、人間集団の「中心」とされその「周縁」を支配してきた力関係が変容し、周縁に生じる様々な活動から双方向の交流が生まれる一方で、新たな分断も生じている。また、人間の活動が地球環境に大きな負荷を与えている現在、多様な文化への理解や共感を深める文化人類学の知とみんぱくの役割は重要であり、こうした役割は博物館全体にも求められているとした。今後博物館は、地域に根ざした住民参加を基礎とする博物館活動の実践、教育現場との連携やデータベースの構築等を進め、情報を一方的に伝える権力的装置ではなく、利用者との双方向的な関係を基本とする開かれた「学びと研究」の場、「フォーラムとしてのミュージアム」になるべきであると強調した。
栗原祐司ICOM日本委員会副委員長(国立科学博物館副館長)からの趣旨説明に続き、3件の実践事例の発表が行われた。
兵庫県立人と自然の博物館の大平和弘研究員は、博物館が施設に来る利用者を待つのではなく、地域へ出かけて子どもたちへ学びの機会を提供することを目的とした「ひょうごエコロコプロジェクト」についての実践と成果を報告した。
国立アートリサーチセンター(E2606 参照)の鈴木智香子研究員は、ミュージアムにおけるアクセシビリティや公平性の確保に向けた取り組みについて、発達障害者向けの美術館案内『Social Story はじめて美術館にいきます。』、2024年3月に公開した『合理的配慮のハンドブック』の内容を紹介した。
みんぱくの高科真紀助教は、沖縄県伊江島の反戦平和資料館「ヌチドゥタカラの家」の創設者、阿波根昌鴻氏の写真資料に係る地域の記憶とアーカイブズに関する調査について報告した。資料の整理・保存、活用には様々な立場の人々が関わり協働して取り組んでいる。記録と人々の記憶が繋がることで表出する地域の記憶の記録化や、地域の文化資源としてのアーカイブズ活用の在り方について、知見を深めていきたいとした。
その後、ファシリテーターとして東京藝術大学の邱君妮特任研究員と明治大学大学院の竹下春奈氏が登壇し、発表者と参加者を交えた意見交換が行われた。記録による記憶の交流をどのように共有するのか、資料の重要性を人々に伝えその価値を共有するには何をすべきか等について、活発な議論が交わされた。若い世代の参加者からも博物館に対する多くの期待が寄せられた。
最後に、日本博物館協会の山梨絵美子会長(千葉市美術館長)から挨拶があり、シンポジウムは閉会した。
本シンポジウムの動画はYouTubeで配信しているので、参照されたい。
Ref:
“国際博物館の日シンポジウム 5月19日国立民族学博物館(大阪)にて開催”. ICOM Japan. 2024-04-02.
https://icomjapan.org/updates/2024/04/02/p-3535/
“2024年「国際博物館の日」記念シンポジウム”. YouTube. 2024-06-24.
https://youtu.be/rKawa-QiCw8
ICOM Japan.
https://icomjapan.org/
国立民族学博物館創設50周年記念サイト.
https://www.r.minpaku.ac.jp/anniversary/index.html
“International Museum Day”. ICOM.
https://imd.icom.museum/
“国際博物館の日”. 日本博物館協会.
https://www.j-muse.or.jp/project/international-museum/
“ひょうごエコロコプロジェクト”. 兵庫県立人と自然の博物館.
https://www.hitohaku.jp/relation/eco-loco.html
“アクセシビリティ”. 国立アートリサーチセンター.
https://ncar.artmuseums.go.jp/activity/accessibility/
鈴木智香子, 伊東俊祐. 合理的配慮のハンドブック. 国立アートリサーチセンター, 2024, 36p.
https://ncar.artmuseums.go.jp/upload/c35353b386dd145c98c6e7e9f9e3780198d7b116.pdf
“ヌチドゥタカラの家”. 伊江村.
https://www.iejima.org/document/2015011000183/
川口雅子. 国立アートリサーチセンター設立とその情報資源部門の取組. カレントアウェアネス-E, 2023, (459), E2606.
https://current.ndl.go.jp/e2606