E2680 – 欧州のリポジトリの現状に関する調査報告書

カレントアウェアネス-E

No.476 2024.03.21

 

 E2680

欧州のリポジトリの現状に関する調査報告書

国立情報学研究所・前田隼(まえだじゅん)

 

●はじめに

  2023年12月5日、OpenAIRE、欧州研究図書館協会(LIBER)、SPARC Europe及びオープンアクセスリポジトリ連合(COAR)は共同で、欧州のリポジトリの現状に関する調査報告書“Current State and Future Directions for Open Repositories in Europe”を公表した。この調査報告書は、2023年1月にOpenAIREらが欧州のリポジトリ・ネットワークの強化を目的として立ち上げた共同戦略に基づき、欧州のリポジトリの現状に関する調査を実施した結果をまとめたものである。調査は、2023年2月9日から3月10日にかけて、欧州を拠点とするリポジトリの管理者を対象としてオンラインで実施され、欧州の34か国から394の回答を得ている。回答者の約7割が、大学のリポジトリ担当者であった。本稿では調査結果の概要を紹介する。

●結果

  • 主要コンテンツについて、リポジトリへの登録率は以下の結果となった(複数回答であるため、合計は100%にならない)。学術雑誌掲載論文(75%)、学位論文(57%)、会議録(50%)、その他(30%)、研究データ(21%)、プレプリント(14%)。
  • 国レベルのネットワークの一部となっているリポジトリの割合は51%であった。なお、欧州においては「国レベル」の定義が明確ではなく、回答者のネットワークへの帰属意識を反映した回答として捉えたい。
  • リポジトリとして利用されているシステムは以下の順となった。 DSpace(41%)、Eprints(11%)、Fedora/Islandora(11%)、Dataverse(4%)、独自構築(8%)。
  • 準拠しているメタデータは、Dublin Core(77%)、DataCite(27%)であった。
  • 著者IDとしてORCIDは約7割の機関で登録されている。
  • 永続的識別子(PID)については、DOI(46%)、Handle(44%)の順でリポジトリに活用されていることが明らかとなった。
  • バックアップなどについて規定した保存ポリシーを持つ機関は63%であった。
  • リポジトリの利用統計を活用している機関は73%に上った。
  • リポジトリ担当の業務内容としては、登録コンテンツのメタデータの確認、リポジトリ担当者による代行登録、著作権処理が主であった。また、担当者数はフルタイム換算で2人以下が最も多かった。
  • リポジトリの運用に関して、外部資金を調達している機関は13%、内部調達は77%であった。
  • リポジトリの運用が持続可能であるかとの問いに対して、97%が持続可能と回答した。一方で、技術面ではコミュニティの相互扶助によるサポートを望む声もあった。
  • ●今後の課題

      欧州のリポジトリが数多くの価値ある研究成果へのアクセスを提供する重要なインフラとして機能していることが確認された一方、研究者コミュニティの需要を満たすために強化すべき分野も明らかになった。報告書では、今後の課題として特に以下の三つを指摘している。

    • 高機能で最新のリポジトリソフトウェアの維持
    • わかりやすく統一されたメタデータ、保存、利用統計
    • 学術情報流通の中でリポジトリが適切に発見されること

      これらの課題について、OpenAIREらは以下の点について協働すると述べている。

    • リポジトリの価値を強調するとともに、欧州のリポジトリがオープンアクセス(OA)に必要不可欠であることを広報する
    • 欧州において、リポジトリ運用のベスト・プラクティスを共有し、広める
    • 国レベルのリポジトリ・ネットワークの構築について手助けする

    ●日本への示唆

      「機関リポジトリ」という名称からして、日本のリポジトリが機関の研究コレクションとして立ち上がってきたことは明確である。その一方で日本においては、JAIRO Cloudによるクラウド型リポジトリが整備されており、また学術機関リポジトリデータベース(IRDB)によるハーベスト、CiNii Researchによって、事実上のナショナル・リポジトリが成立している状況とも言える。機関としては従来の「機関リポジトリ」の意識が強いものと思われるが、オープンアクセスリポジトリ推進協会(JPCOAR)等のコミュニティが活動しており、リポジトリによるOAを加速させようとしている。今後は個々の機関が所属機関や学術分野を超えて、世界や広く市民一般まで学術情報を届けるという視野を、担当者レベルで持つことで、リポジトリが真の意味での学術情報インフラとして進化していくであろう。

    Ref:
    Shearer, Kathleen; Nakano, Silvia; Rodrigues, Eloy; Manola, Natalia; Pronk, Martine; Proudman, Vanessa. Current State and Future Directions for Open Repositories in Europe. Zenodo. 2023, 36p.
    https://zenodo.org/doi/10.5281/zenodo.10255558
    “Survey of Open Repositories in Europe”. OpenAIRE. 2023-02-13.
    https://www.openaire.eu/survey-of-open-repositories-in-europe
    “目次(JAIRO Cloudとは)”. JPCOAR.
    https://jpcoar.repo.nii.ac.jp/page/42
    IRDB学術機関リポジトリデータベース.
    https://irdb.nii.ac.jp/
    CiNii Research.
    https://cir.nii.ac.jp/