カレントアウェアネス-E
No.473 2024.02.08
E2665
「市民活動資料」所蔵3館による合同シンポジウム<報告>
立教大学共生社会研究センター・平野泉(ひらのいずみ)
2023年11月18日、法政大学大原社会問題研究所環境アーカイブズ(以下「環境アーカイブズ」)主催によるシンポジウム「『市民活動資料』収集・整理・活用の現場から―法政大学大原社会問題研究所環境アーカイブズ、立教大学共生社会研究センター、市民アーカイブ多摩」が開催された。このシンポジウムは、市民の多様な活動が生み出す「市民活動資料」を所蔵する都内3館の合同企画である。開催の目的は、各館のコレクションや実務に関する共通点と差異を浮き彫りにし、今後の協働の可能性等について議論することであった。
主催者である環境アーカイブズの山本唯人氏による開会あいさつ・趣旨説明の後、3館の現場担当者が各館の状況について報告した。
●環境アーカイブズ
- 「東京都立多摩社会教育会館旧市民活動サービスコーナー所蔵資料とはなにか―「資料と活動の交流拠点」を引き継ぐために―」/加藤旭人氏
環境アーカイブズは、国内外の環境問題・環境運動等の資料を所蔵・公開する、2009年設立の機関である。そのコレクションには、1972年から2002年にかけて東京都立多摩社会教育会館に設置されていた市民活動サービスコーナー(以下「コーナー」)が収集し、市民に公開していた図書・冊子、新聞、雑誌、ミニコミ(個人や団体が発行する通信・会報等)等の市民活動資料、段ボール約547箱分が含まれている。これは、2002年に都の方針でコーナーが廃止された際に、市民の努力で保存されたコーナー所蔵資料の一部で、環境アーカイブズに移管されたのは2011年のことである。
環境アーカイブズでは、保存に関わった市民グループ(後述の「ネットワーク・市民アーカイブ」)と協議を重ね、移管時の区分や配列(原秩序)を尊重しつつ整理を進めてきた。コーナーが「活動と資料の交流拠点」であったことを踏まえ、その経験を資料の整理・利用の原点に据えておくことが必要であると加藤氏は論じた。
- 「『市民活動資料』をつなぐ―環境アーカイブズの閲覧カウンターから」/宇野淳子氏
宇野氏は、日々閲覧カウンターで利用者と接している経験から、原秩序を生かした現行の目録には課題もあるが、「資料群」としてのコンテクストを保存してきたからこそ、そこから1970年代から2000年代にかけての多摩地域における市民活動のありようが立ち上がってくると語った。そして、資料の主な利用者である研究者、自治体史編纂担当者、市民活動の担い手の多様なニーズに多面的な結節点を提供することで、資料と人をつなぐ役割を果たしたいと述べた。
●立教大学共生社会研究センター
- 「<私>をつなぐ小さなメディア―ミニコミは『資料』なのか?」/平野泉
立教大学共生社会研究センター(以下「共生研」)は、国内外の市民活動資料を幅広く収集・保存・公開することを目的に、2010年に設立された機関である。筆者はまず、コレクションの歴史と概要、整理やデータベース登録方法等について説明した。そして、ミニコミを単なる研究のための「資料」(=素材)として効率よく「利用」するだけではなく、作り手である「私」に出会う媒体として、読むこと自体を楽しむ意義について述べた。最後に、共生研が、そうした人の集うゆるやかな場となることへの期待を語った。
●市民アーカイブ多摩
- 「市民運営がつくる公共空間―ミニコミが媒介する対話」/江頭晃子氏
2014年開館の市民アーカイブ多摩は、市民団体「ネットワーク・市民アーカイブ」が運営する資料室である。所蔵資料の核をなすのは、コーナー閉鎖後、その所蔵資料を保存する運動を展開した市民たちのもとに集まったミニコミ類で、コーナーが存続していれば収集していたはずの資料である。そうした市民アーカイブ多摩の資料と、環境アーカイブズ所蔵のコーナー資料との関係を、江頭氏は「泣き別れ」と表現した。
市民アーカイブ多摩は、市民が運営するアーカイブとして、資料を作る人・整理する人・使う人が集い、提案し、話し合いながら作っていく公共空間となっている。活動の中心が資料保存運動からアーカイブの運営にシフトして約10年。これからの10年は、新しい目録の作成や、環境アーカイブズとの目録データ連携といった課題に取り組んでいきたいという。
●ディスカッション
山本氏の司会のもと、参加者も交えたディスカッションが行われた。「なぜ市民「運動」ではなく「活動」なのか」「なぜ2000年頃にこうした取り組みが増えたのか」「地域図書館との連携についてどう考えるか」「市民が生み出すデジタル記録はどうするのか」等、テーマは多岐にわたった。写真等視覚資料の保存と利用提供に関する問いかけには、参加者から、デジタルアーカイブ学会の「肖像権ガイドライン」(E2194参照)を用いて阪神・淡路大震災関連映像の公開(E2411参照)に取り組んだ経験を踏まえ、何らかの指針を参照しつつ、立場の異なる人と議論を重ねることが重要だとのコメントがあった。
閉会にあたり、共生研の高木恒一副センター長、「ネットワーク・市民アーカイブ」の町村敬志理事があいさつし、アーカイブズ機関が抱える様々な困難を乗り越えようとする営み自体が市民活動であり、関心を共にする人がつながりつつ活動を続けることの大切さを語った。
市民活動資料の所蔵機関としてゆるやかにつながってきた3館だが、合同企画は初めてであった。参加者の関心も高く、各館の歴史・現状・課題を共有したことで今後の協働の可能性も見えてきた。このシンポジウムが、今後、市民活動資料を所蔵する多くの機関がより緊密に連携するきっかけになればと願う。
Ref:
“シンポジウム「『市民活動資料』収集・整理・活用の現場から―法政大学大原社会問題研究所環境アーカイブズ、立教大学共生社会研究センター、市民アーカイブ多摩」開催のご案内”. 環境アーカイブズ. 2023-10-16.
https://k-archives.ws.hosei.ac.jp/event_detail/20231118sympo/
法政大学大原社会問題研究所環境アーカイブズ.
https://k-archives.ws.hosei.ac.jp/
“共生社会研究センター”. 立教大学.
https://www.rikkyo.ac.jp/research/institute/rcccs/
市民アーカイブ多摩.
http://www.c-archive.jp/
ネットワーク・市民アーカイブ出版プロジェクト編. ようこそ!市民アーカイブ多摩へ;市民活動の記録を残す運動の歩み. ネットワーク・市民アーカイブ,2020, 148p.
山家利子. 資料と活動の交流拠点だった「都立多摩社会教育会館 市民活動サービスコーナー」. 大原社会問題研究所雑誌. 2014,(666), p. 3-23.
https://oisr-org.ws.hosei.ac.jp/images/oz/contents/666-02.pdf
佐々木和子. 阪神・淡路大震災映像への肖像権ガイドライン適用の実践;神戸大学震災文庫での公開にむけて. デジタルアーカイブ学会誌. 2023, 7(3),p. e19-e23.
https://doi.org/10.24506/jsda.7.3_e19
川野智弘. 議論の深化を目指して:肖像権ガイドライン円卓会議<報告>. カレントアウェアネス-E. 2019, (379), E2194.
https://current.ndl.go.jp/e2194
井庭朗子. 地元テレビ局と連携した阪神・淡路大震災関連映像の公開. カレントアウェアネス-E. 2021, (418), E2411.
https://current.ndl.go.jp/e2411