E2661 – 豊かなコミュニティのための公共図書館サービス(米国)

カレントアウェアネス-E

No.472 2024.01.25

 

 E2661

豊かなコミュニティのための公共図書館サービス(米国)

利用者サービス部人文課・西口真梨奈(にしぐちまりな)

 

  2023年6月、米国公共図書館協会(PLA)が豊かなコミュニティのための公共図書館サービスに関する報告書“Public Library Services for Strong Communities Report”を公開した。

  この報告書は、2022年の秋に全米の郡、市町村等の公共図書館に対して実施された調査に基づくもので、全体の12.6%に当たる1,167館からの回答をまとめたものである。コミュニティのニーズ、サービス、プログラム、パートナーシップ、施設・設備、評価の六つの項目を設け、コミュニティの課題解決に向けた米国の公共図書館の取組を分析している。本稿ではその概要を紹介する。

●コミュニティのニーズ

  コミュニティのニーズに応えるため、図書館ではリテラシーと教育面での取組(84.7%)を行っているほか、情報アクセスの公平性と格差是正(66.6%)、市民参加(62.4%)にも取り組んでいる。今後取り組みたい事柄として、気候変動・持続可能性(27.5%)、アクセシビリティ(26.6%)、経済的支援・就労支援(20.7%)等が挙げられている。

  このように、図書館は住民の知識・情報の入手と創造に重点を置き、住民のニーズに応えるべく活動していることが示されている。

●サービス

  公共サービスへの仲介(78.7%)、就労・キャリアサービス(77.5%)等、図書館では多様な行政サービス、住民への支援を提供している。だが、多くの図書館はこれらのサービスを、“Informal”(非公式)なものとして提供している。その理由はいくつかあるが、73.3%の図書館は公式なサービスとして提供するための人員が確保できないためと答えている。

  このほか、報告書では特に、40.8%の図書館が非公式ながらも行っている「食料不安の改善」に向けたサービス(E2602参照)について言及している。フードバンク等の地域団体と提携し、図書館を拠点に無料の食事キットを配布する取組等を紹介している。

●プログラム

  ここで取り上げるプログラムは、複数人を対象とした一般向けのイベントのことを指している。その代表例である夏の読書プログラムは、子ども向け、大人向けを合わせると、99.1%の図書館で実施され、リテラシー能力向上を支えている。米・ドミニカン大学での過去の研究からも、学習機会の創出だけでなく、参加者の読書や学習への自信にもつながることが示されている。

  子ども向けプログラムとしては早期リテラシープログラム(95.1%)、STEAM(科学・技術・工学・芸術・数学)学習(80.3%)を、中高生向けにはゲームを用いたプログラム(65.6%)を実施している図書館が多い。夏の読書等、全米の図書館で共通して行われるプログラムがある一方、図書館の規模やキャパシティの差があるため、地方よりも都市部の図書館の方が多様なプログラムを提供している。

  プログラムやサービスを提供するにあたり、図書館は様々な課題に直面しているが、その中でも特に、コロナ禍の職員削減も影響し、73.4%の図書館が「人手不足」を課題としている。

●パートナーシップ

  図書館だけでコミュニティのニーズを満たすのは難しい。そこで図書館は、共通目標を持つ外部団体とパートナーシップを結び、協力して事業を行っている。その中でも学校・学区(89.7%)、州・地方政府等(85.2%)と連携している図書館が多い。

●施設・設備

  40.3%の図書館は2000年以降大規模な建物の改修をしておらず、施設の老朽化が進んでいる。そのため、カビや水害等の影響が出てきている館もある。

  半数以上の図書館はグループ活動が可能な会議室、子ども向けのエリアを持ち、イベント等で活用している。メイカースペース(様々な創作活動を支援するためにハイテク機材等を兼ね備えた公共スペース)(20.4%)やコンピューターラボ(32.2%)等を備えている図書館もあるが、都市部に集中している。

  また、緊急時は地域のリソースとして機能し、復旧の拠点となる役割も担っている。例えば、50%の図書館が緊急時の避難場所に指定されているほか、36.5%は異常気象時の冷暖房の提供拠点となっている。

●評価

  この項目では、図書館の評価に一般的に用いられる「アウトプット評価」、「コミュニティニーズの評価」、「利用者満足度」、「成果測定」の4種類について調査を行った。その結果、91.3%の図書館が来館者数やイベントの参加者数等の数値を用いるアウトプット評価を行っており、64.8%の図書館が利用者の満足度調査を実施していると回答した。

  一方、利用者の学習・行動への影響を把握するために成果測定を行っている図書館は、全体の3分の1未満である。PLAでは図書館の成果測定を支援するツールキット“Project Outcome”を無料で公開しており、今後の活用が期待されている。

●さいごに

  本調査を通じて、人員削減等の課題に直面する中、図書館員はコミュニティを支えるために様々な取組を続けていることが明らかになった。米国と日本では公共図書館の置かれている状況が違うとはいえ、多様化していくニーズに対応するためには外部連携が必要不可欠となる点等は共通である。

  本稿で紹介した以外にも、報告書には興味深いアンケート結果が掲載されている。少しでも興味を持たれた場合は、ぜひ報告書本文を参照されたい。

Ref:
“PLA releases first Public Library Services for Strong Communities Report”. ALA. 2023-06-21.
https://www.ala.org/news/press-releases/2023/06/pla-releases-first-public-library-services-strong-communities-report
Public Library Services for Strong Communities Report: Results from the 2022 PLA Annual Survey. PLA, 2023, 53p.
https://www.ala.org/pla/sites/ala.org.pla/files/content/data/PLA_Services_Survey_Report_2023.pdf
“Project Outcome”. PLA.
https://www.ala.org/pla/data/performancemeasurement
Roman, Susan; Carran, Deborah T.; Fiore, Carole D. The Dominican Study: Public Library Summer Reading Programs Close the Reading Gap. Dominican University, 2010, 59p.
https://www.dom.edu/sites/default/files/pdfs/GRAD_Academic-Programs/SOIS/SOIS_IMLS_finalReport.pdf
安井大輔. 図書館とFood Justice:北米の都市図書館協議会による報告書. カレントアウェアネス-E. 2023, (458), E2602.
https://current.ndl.go.jp/e2602