E2660 – 大阪書林御文庫講創立300年パネル展:大阪府立中央図書館にて

カレントアウェアネス-E

No.472 2024.01.25

 

 E2660

大阪書林御文庫講創立300年パネル展:大阪府立中央図書館にて

大阪書林御文庫講講元・藤波優(ふじなみまさる)、
歩行開発研究所・岡本香代子(おかもとかよこ)

 

●はじめに

  2023年10月19日から29日まで、大阪書林御文庫講(おぶんここう)は「大阪書林御文庫講創立300年記念パネル展」を、大阪府立中央図書館で開催した。大阪書林御文庫講は江戸時代に組織された出版業者の組合であり、「大阪最古の図書館」と呼ばれる住吉大社と大阪天満宮の御文庫を支え続けている。パネル展では、大阪の出版文化を伝承する大阪書林御文庫講の歴史と現在の活動内容を、地元の図書館から地域の人々へ発信した。本稿では大阪書林御文庫講の概要とパネル展の様子について紹介する。

●大阪書林御文庫講について

   大阪書林御文庫講は、1723(享保8)年に、大坂・京都・江戸の三都の書林(本屋)が、住吉大社に書籍を所蔵する蔵である「御文庫」の建立を発願するところから始まった。今は各出版社が新刊を国立国会図書館(NDL)に納本するように、当時は各書林が初摺り(しょずり)本を御文庫に奉納した。住吉大社の御文庫に奉納された書籍は一般庶民にも開放されていたことから、御文庫は「大阪最古の図書館」とも呼ばれている。

  御文庫の建立後ほどなく、初摺り本の曝書(虫干し)や修復を担う版元(出版社)の団体「住吉御文庫講」が結成された。1730(享保15)年に、大阪天満宮にも御文庫が建立され、「天満宮御文庫講」が結成された。1802(享和2)年、住吉大社大火があったが住吉御文庫は罹災を免れた。しかし1837(天保8)年、大塩平八郎の乱で天満宮御文庫の書籍の多くが消失した。1910(明治43)年には、住吉御文庫講と天満宮御文庫講とが合併し、「大阪書林御文庫講」と改称された。書林だけでなく学者や知識人からも書籍の奉納は続き、御文庫の蔵書は数万冊にのぼる。貴重な書籍も多く所蔵され、研究者からの評価も高く充実した蔵書を誇っている。

  現在、毎年5月に住吉大社、10月に大阪天満宮へ大阪書林御文庫講の講員が参集し、書籍の奉納と蔵書の曝書や点検を行っている。また7月の天神祭では、神事である陸渡御(りくとぎょ)、船渡御(ふなとぎょ)に参加している。大阪書林御文庫講の運営は、大阪出版協会と日本書籍出版協会大阪支部の会員が全面的に支援し、その伝統を受け継ぎながら活動している。両御文庫の存在は大阪出版文化の象徴と言えるだろう。

●図書館でのパネル展について

  2023年に大阪書林御文庫講は創立300年を迎えた。大阪独自の出版文化である「御文庫」に興味を持ってもらうことで、書籍を大切に守り継ぐ文化を継承できればと思い、大阪の図書館における記念事業を企画提案した。

  大阪府立中央図書館は単館では蔵書数日本一の公立図書館で、充実した地域資料を所蔵している。同館と協力し、「近世以降の出版・読書事情・書籍商」「本の保管や修理」「天神祭」に関する図書館資料の展示が実現した。パネル展示では、大阪書林御文庫講の歴史と現在の活動内容を、写真やビデオで紹介した。また、御文庫講の貴重書籍や、協力出版社が刊行する書籍の展示も行った。木目調の展示コーナーは来館者にも好評で、書籍や地域文化に触れる場所として最適な展示会場であった。本展示が、御文庫の書籍や同館の地域資料が大阪で果たしてきた役割を考える契機となれば幸いである。

●おわりに

  現在に至るまで、両御文庫は大火などの危機に何度も直面した。その度に、御文庫講の人々は知恵と努力で困難を乗り越えてきた。創立300年という節目の時を迎え、書籍を大切に守り継いできた先人の思いを受け止め、次世代に繋いでいきたい。100年に一度の文化継承事業として、大阪の出版社と図書館が協力して、多くの人に地域の文化に触れる機会を実現できたことは意義深い。大阪の伝統的な出版文化が、次の100年、200年後の未来へと受け継がれることを心より願う。

  なお、「大阪書林御文庫講創立300年」のパネル資料と展示写真は、大阪府立図書館ウェブサイトで掲載されているので、ぜひ参照されたい。

Ref:
“【展示】大阪書林御文庫講創立300年記念パネル展 「大阪最古の図書館」を支え続ける出版業者”. 大阪府立図書館. 2023-12-22.
https://www.library.pref.osaka.jp/55607