E2614 – 学校司書の社会的地位の向上に関するシンポジウム<報告>

カレントアウェアネス-E

No.460 2023.07.13

 

 E2614

学校司書の社会的地位の向上に関するシンポジウム<報告>

公益社団法人全国学校図書館協議会・設楽敬一(したらけいいち)

 

  2023年5月27日、大正大学において、学校図書館法公布70周年記念事業運営委員会(構成団体:学校図書館整備推進会議、全国学校図書館協議会、文字・活字文化推進機構)の主催により、学校図書館法公布70周年記念事業の一環として、シンポジウム「学校司書の社会的地位の向上をめざして」が開催された。

  主催者を代表して山口寿一氏(運営委員会代表、文字・活字文化推進機構理事長)が挨拶を行った。世界の学校図書館の事例を示して、日本の学校図書館法が世界的にも希な単独の法律であることを紹介した。子どもの読書や学習環境を整え、主体的な学びの推進役となるのが学校図書館を担当する学校司書であり、学校図書館ガイドラインで定められた職責を果たすことができる司書の配置が必須であると述べた。

  続いて、髙橋秀裕氏(大正大学学長)、笠ひろふみ氏(学校図書館議員連盟事務局長、衆議院議員)、藤江陽子氏(文部科学省総合教育政策局局長)からそれぞれ挨拶があった。

  片山善博氏(大正大学特任教授、元総務大臣)による基調講演「学校図書館の充実と自治体の責務」が行われた。片山氏は、学校図書館法の第2条に定義される「学校の教育課程の展開に寄与するとともに、児童又は生徒の健全な教養を育成すること」について詳しく解説した。知事や総務大臣としての自身の経験から、地域によって大きな差がある学校図書館の現状、学校図書館を担う人たちの置かれた状況、学校図書館と教育委員会、学校図書館と地方自治体の関係について言及し、学校図書館の果たす役割の重要性を訴えた。

  シンポジウムは、「学校司書の社会的地位の向上をめざして」をテーマに、コーディネーターとして鎌田和宏氏(帝京大学教授)、パネリストとして稲井達也氏(大正大学附属図書館長)、田村修氏(神奈川県立鶴見高等学校学校司書)、生井恭子氏(東京都立鹿本学園司書教諭)、宮﨑伊豆美氏(東京学芸大学附属竹早小学校・附属特別支援学校司書)が登壇した。

  最初に鎌田氏から、シンポジウムには現職の学校司書及び研究者が登壇し、自身の経験や研究から得られた知見から情報提供や意見交換を行い、学校司書の社会的地位の向上に資することを開催の目的としていると、趣旨説明があった。

  続いて各パネリストから情報提供が行われた。田村氏は全国の学校司書の配置・雇用などの現状に触れつつ、富山県における小・中学校への学校司書配置状況について調査結果を報告した。宮﨑氏は、これまでの自身の勤務校での経験を事例として示し、学校司書の勤務形態や勤務条件の違いを明らかにした。そして、いずれの形態も非正規雇用であり、長期的な展望をもって仕事に取り組みづらいこと、求められる仕事の専門性の高さと待遇の低さが、アンバランスだと感じていることを述べた。生井氏は、勤務校である特別支援学校の図書費の実態を具体的に数値で示し、予算が十分ではない現状について報告した。また、特別支援学校の児童生徒は、一人ひとりの障がいの程度に応じた配慮が求められることから、図書の専門家としての学校司書が、司書教諭と連携する必要があることを述べた。稲井氏は、中高一貫校の開設に指導主事の立場で関わった経験から、教育委員会が学校図書館の有用性を広報する役割を持つことや、予算の増額などについて行政面から学校図書館の現状を改善する方法、指導主事が授業での学校図書館活用を促す役割にあることを説明した。

  その後、鎌田氏は参加者の意見などを適宜取り入れながらシンポジウムを進行し、パネリストに意見を求めた。稲井氏は、学校図書館をめぐる問題を共有して声を大きくしていく必要性を強調した。生井氏は、蔵書システムを導入しても、司書の配置が充分でないことが一因で利用者教育が行き届かず、教師が使い方に困っているような現状であることを述べた。特別支援学校においては児童生徒の障がいの程度を把握して具体的な対応策を提案できる専門性のある学校司書が必要であると訴えた。宮﨑氏は、学校図書館を活用し生き生きと学ぶ子どもの姿に学校司書として働く幸せを感じているからこそ、学校司書として働きたい人が適正な待遇で働き続けられる労働環境になって欲しいと述べた。田村氏は、公共図書館は全国約3,300館あるが、小・中・高等学校などの学校施設は約3万5,000校あり、学校司書を適正に配置することで児童生徒の図書館との接点を増やしていくことができるとした。鎌田氏は、専任の学校司書がいることで、発達段階に適した図書を読む機会を児童生徒に提供することができ、また、探究学習に必要な資料の検索方法などのスキルを習熟させることも期待できると述べた。

  シンポジウムのまとめとして、「学校図書館の向上と学校司書の待遇改善をめざす2023年アピール」を赤熊千明氏(文字・活字文化推進機構)が発表し、参加者全員の承認を得た。

  最後に、竹下晴信氏(運営委員会座長、学校図書館整備推進会議議長)の挨拶があり、シンポジウムは閉会した。

  シンポジウムのアーカイブ動画は、大正大学YouTubeチャンネルで配信予定である。各パネリストの発言や当日の参加者との議論等については、そちらを参照されたい。

Ref:
“シンポジウム「学校司書の社会的地位の向上をめざして」”. 文字・活字文化推進機構. 2023-05-29.
https://www.mojikatsuji.or.jp/news/2023/05/29/6538/
“学校図書館:別添1「学校図書館ガイドライン」”. 文部科学省.
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/dokusho/link/1380599.htm
シンポジウム「学校司書の社会的地位の向上をめざして」. 学校図書館の向上と学校司書の待遇改善をめざす 2023 年アピール. 2023.
https://www.mojikatsuji.or.jp/wp/wp-content/uploads/2023/04/f1f9a0b3313423e5709534bfeaeac9c3.pdf