E2517 - フランスの図書館ボランティア:公共業務と自由意志の調整

カレントアウェアネス-E

No.439 2022.07.21

 

 E2517

フランスの図書館ボランティア:公共業務と自由意志の調整

金城学院大学文学部・薬師院はるみ(やくしいんはるみ)

 

  本稿では,フランスの国民教育・青少年・スポーツ省が2022年2月付で公表した『地域の図書館におけるボランティアの位置付けと役割(La place et le rôle des bénévoles dans les bibliothèques territoriales)』(以下「調査報告書」)について取り上げる。

●背景事情

  フランス文化省による昨年の報告書によれば,フランスには「公読書(lecture publique)の施設」が約1万6,500か所存在する。調査報告書の題名にもあるように,この施設は,地域の図書館と総称されていることもある。ただし,狭義の図書館は公読書の施設と同義ではない。というのも,この施設は職員数や予算額等の諸基準で5段階に等級分けされている。そして,上記報告書及び調査報告書が依拠する基準において,「図書館」という用語は,上位3段階目までにのみ使用されているからである。要するに,フランスには,基準を満たさない,いわば図書館類似施設が数多く存在しているのである。

  フランスの基礎自治体であるコミューンは数が極端に多く,概して規模が非常に小さい。2021年1月時点で,3万4,965,53%が500人未満,94%が5,000人未満である。それでも,90%のフランス人は公読書の施設が1つはある自治体に住んでいる。しかしその等級は,人口が少ない程低くなる傾向にある。のみならず,小規模コミューンでは,多くをいわゆる図書館ボランティアに依存している。調査報告書に示されているように,図書館ボランティアは,人口5万人以上の都市にはほとんど存在していない一方で,人口5,000人以下のコミューンでは欠かせない存在となっている。この状況下,フランスでは,県立図書館が,当該県のコミューン,とりわけ小規模コミューンの公読書を支援する目的で設置されており,図書館ボランティアの養成も,主に県立図書館が担っている。

●制度化を伴わない承認及び評価の確立

  地方分権政策以降のフランスでは,地域の図書館業務は当該地域の公務員が担うのが原則である。同政策下,国家のみならず地方の公務員に対しても全地域で統一的に適用される身分規定が制定された。ただし,図書館には公務員ではない職員も少なからず存在する。とはいえ,そのほとんどは整備された法規定の下,公法上の契約で雇用されている。要するに,有給職員に対しては,公務員か否かに関わらず,地位や権利を規定する法規類が高度に整備されている。

  一方,ボランティアに対しては,実務経験認定制度,所得税減税の制度,交通費や食事代の支給制度などが適用されているが,有給職員に比して法的枠組みは不十分なままである。こうした中,協約等,相互の合意のみが労働契約に代用されているのが現状である。

  それでも,一定数の図書館ボランティアは,過度な制度化を望んでいない。ボランティアはあくまでも当人の自由意志で行うもので,活動先との従属関係等が発生してはならないというわけである。実際,労働法典上も,ボランティアは賃金労働とは別個のものと位置付けられ,人件費削減に転用可能な人選は厳禁されている。この事態を防ぐため,求職者による旧勤務先でのボランティア活動は禁じられ,職業安定所の中にはボランティア活動を行う求職者に失業手当を支給しないところもある。

  以上を踏まえ,調査報告書は,文化省に対して地域の図書館ボランティアの汎用協約を採用して広めることと,適用可能な法規定を常に確認しておくことを推奨している。

●ボランティアの実態把握

  今回の調査の対象者は,公共サービスを提供するボランティアに限定された。すなわち,自主活動団体等に属する形で読書推進活動等に携わるボランティアは対象外となった。それらの団体には2万人以上の会員を擁する全国組織「読むよ読んでよ(Lire et faire lire)」も含まれる。それでも,フランスでは地域の図書館に約7万人,総時間当量換算で1万2,000人以上のボランティアが存在する。有給職員は,A,B,Cと3つの職階に分かれているのだが,ボランティアの総数は職階Cの2倍にも上っている。

  フランスで図書館ボランティアから連想される典型像は退職した教育者であるという。調査結果はこの典型像を概ね裏付けた。ただし,約90%が女性であり,小中高生の親や中高生も活動している。人口当たりの図書館ボランティア数に地域差があることも判明した。

●ボランティアへの研修:県立図書館の役割

  先にも触れたが,フランスでは,県立図書館の目的が当該県内,とりわけ小規模コミューンの公読書支援に特化されている。利用者への直接サービスを担うのは,基本的には,県ではなくコミューンの方である。従って,ボランティアを採用するのはコミューンの施設なのだが,養成は県立図書館が担っている。

  県立図書館は図書館のボランティアのみならず有給職員にも研修を実施している。ただし,内容や期間は県により異なり,例えばクルーズ県など,受講生の約3分の1を有給職員が占めている県もある。

  調査結果を踏まえ,調査報告書は県立図書館に以下の推奨を行っている。図書館ボランティアに関してさらに情報把握に努めること,図書館職員及びボランティアの専門教育に関して県が援助する範囲を整備すること,ボランティアの養成者を養成する制度を整えることの3点である。加えて,文化省及び県立図書館に対して,ボランティアの養成にできる限り努め,基礎教育のオンライン化を実現するよう推奨している。

  ここ数年来フランスでは,地域の図書館振興に向けた動きが盛んである。例えば,2017年の大統領選挙公約を実現する形で日曜開館の取り組みが実施されている。調査報告書も触れているが,その過程で提出された報告書も図書館ボランティアの重要性を指摘している。2021年12月には「公読書の発展と図書館に関する法律」が制定された。図書館法と通称される法律である。今回取り上げた調査報告書も,それら一連の動きの一環に位置付けられるものであろう。

Ref:
Marcerou, Philippe et al. La place et le rôle des bénévoles dans les bibliothèques territoriales. Ministère de l’Éducation nationale, de la Jeunesse et des Sports, 2022, 102p.
https://www.enssib.fr/bibliotheque-numerique/documents/70515-la-place-et-le-role-des-benevoles-dans-les-bibliotheques-territoriales.pdf
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https://www.culture.gouv.fr/content/download/287198/3298424?version=1
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https://www.collectivites-locales.gouv.fr/files/Accueil/DESL/2021/Colloc%20en%20chiffres/CL_en_chiffres_2021.pdf
Orsenna, Erik; Corbin, Noël. Voyage au pays des bibliothèques: lire aujourd’hui, lire demain. Ministère de la Culture, 2018, 70p.
https://www.vie-publique.fr/sites/default/files/rapport/pdf/184000101.pdf
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薬師院はるみ. 休日労働という言語矛盾: フランスの図書館員が問いかける課題. 図書館雑誌. 2022, 1(116), p.40-41.
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薬師院はるみ. フランスの県立貸出図書館におけるボランティア: 地方分権政策下での全国的な統制. 図書館界. 2009, 61(1), p.16-29.