E2513 – 欧州議会と9か国の議会文書のライフサイクルに関する報告書

カレントアウェアネス-E

No.438 2022.07.07

 

 E2513

欧州議会と9か国の議会文書のライフサイクルに関する報告書

調査及び立法考査局調査企画課連携協力室・中沢綾(なかざわあや)

 

  2021年12月,米国議会図書館(LC)の法律図書館が,議会文書の作成,整理,公開,収集,保存等のプロセスをまとめた報告書“Lifecycle of Parliamentary Documents”(以下「本報告書」)を公開した。調査対象は,オーストラリア,カナダ,フランス,ドイツ,イスラエル,日本,ポルトガル,スウェーデン,英国の9か国と欧州議会である。以下,本報告書の内容についてその一端を紹介する。

●議会文書とは

  本報告書で議会文書に含まれるのは,主に本会議等の会議録,法律案,(法律案の)説明文書,請願等,議会で作成される文書や議会に提出される文書である。議会調査機関の報告書や本会議の音声,録画ファイルなど文書以外の記録を対象とする国もある。

●議会文書の作成・整理

  議会文書は,調査対象の国および地域全てにおいて,法律,規則,決議等に則して作成,整理されている。オーストラリア,カナダ,英国などでは逐語的な会議録のほかに要録が作成されている。公用語が複数存在する欧州議会とカナダでは,議会文書が全ての公用語で発行されており,カナダでは,英語版とフランス語版双方が同等であることが憲法および公用語法(Official Languages Act)で規定されている。

  議会文書の作成について詳細な規則が定められる場合も多く,一例として欧州議会,ドイツ,イスラエルなどでは,発言者による会議録の修正期限が規則に定められており,その期限はイスラエルでは7日,欧州議会では休日を除く5日,ドイツでは2時間である。

●議会文書の公開・保存

  会議録,法律案などの議会文書は,議会,議会アーカイブ,議会図書館のウェブサイト等で公開されている。憲法上,フランスや日本の場合には会議録の公開についての規定があり,スウェーデンの場合には議会文書へのアクセス権が保障されている。欧州連合(EU)の場合,EU運営条約およびEU基本権憲章により,EU市民の議会文書等へのアクセス権が保障されている。歴史的な資料については,主に議会図書館,議会アーカイブが公開および保存の役割を担っている。G7の各国等の議会文書の公開,保存の状況については国立国会図書館(NDL)の「リサーチ・ナビ」で詳しく紹介されているため,以下ではイスラエル,ポルトガル,スウェーデンについて取り上げる。

  イスラエルの立法機関はクネセット(Knesset)と呼ばれる一院制の議会であり,クネセット・アーカイブが議会文書や歴史的資料の管理・保存を受け持つ。イスラエルでは,議会文書の管理は,独立宣言(1948年5月14日)に先立つ1948年5月4日の人民評議会に始まり,現在,本会議や委員会の会議録,法律案などの主要な議会文書や制定された法律が電子的に公開されている。本会議や委員会の会議録はクネセットのウェブサイトから閲覧でき,法律および法律案も,同ウェブサイト内の国家立法データベースで公開されている。

  ポルトガルでは,議会ウェブサイトで電子的に公開されている議会公報“Diário da Assembleia da República”の第1部に本会議の会議録,第2部に決議,法律案等が掲載されている。また,1821年以降の議会活動に関する文書は,議会内に設置された議会歴史アーカイブで保存されており,デジタル化の上,一般公開されている。このほか,ポルトガルでは,憲法の規定に基づいて,憲法法律,国際条約,法律,一部の命令等が官報に掲載されることになっている。官報は,国立印刷局が運営するウェブサイトで公開されている。

  スウェーデン議会(Riksdag)が作成する議会文書は議会事務局が保存しており,1867年以降の本会議の会議録を始めとして,同文書の多くが議会のウェブサイトで利用できる。また,議会文書のうちの印刷された資料は,議会事務局内の議会図書館や国立図書館等でも一般の利用に供されている。国立図書館は議会事務局にない1521年から1866年までの資料についても所蔵しており,その一部はデジタル化され,国立図書館のウェブサイトで公開されている。

  本報告書は,議会文書の作成から保存までのプロセスをまとめたものだが,それを紐解くことで,最新の立法情報を迅速に公開し,歴史的な議会文書についてもデジタル化して幅広い利用に供しようとする各国議会,アーカイブの姿が浮かび上がる。本稿ではこれまであまり紹介されてこなかったと思われる国を取り上げたが,本報告書には,他にもさまざまな国の取組が紹介されており,政治制度や歴史的背景による共通点,相違点,課題などについても比較ができる貴重な報告書といえよう。

Ref:
Lifecycle of Parliamentary Documents. Law Library, Library of Congress. 2021, 111p.
https://tile.loc.gov/storage-services/service/ll/llglrd/2021687421/2021687421.pdf
山田邦夫. オーストラリアの議会制度. レファレンス. 2017, (799), p. 1-30.
https://doi.org/10.11501/10856646
山田邦夫. カナダの議会制度. レファレンス. 2014, (756), p. 65-86.
https://doi.org/10.11501/8408484
リサーチ・ナビ.
https://rnavi.ndl.go.jp/jp/
国立国会図書館調査及び立法考査局編. 各国憲法集(11)スウェーデン憲法【第2版】. 2021, 130p., (基本情報シリーズ, 28).
https://doi.org/10.11501/11645996
古賀豪. “1 欧州議会”. 拡大EU : 機構・政策・課題 : 総合調査報告書. 国立国会図書館調査 及び立法考査局, 2007, p. 17-36.
https://doi.org/10.11501/1000914
国立国会図書館調査及び立法考査局編. 各国憲法集(8)ポルトガル憲法. 2014, 102p., (基本情報シリーズ, 15).
https://doi.org/10.11501/8426723