E2514 – 鳥取県立図書館,IFLA公共図書館分科会セミナー参加<報告>

カレントアウェアネス-E

No.438 2022.07.07

 

 E2514

鳥取県立図書館,IFLA公共図書館分科会セミナー参加<報告>

鳥取県立図書館・松尾佳美(まつおよしみ)

 

●はじめに

  2022年5月4日から6日までの3日間,国際図書館連盟(IFLA)公共図書館分科会オンライン中期(mid-term)セミナー“Libraries: Places That Care For People”(人々の生活を支える図書館)が開催された。鳥取県立図書館(以下「当館」)は,2日目の5月5日,アジア・太平洋部門のパネル“Public Libraries Delivering Health and Wellbeing Outcomes”(健康と福祉に貢献する公共図書館)に参加した。

  今回の参加のきっかけは,IFLAの国内常任委員が同パネルの企画にあたって日本国内で医療健康・福祉分野で優れた活動を行っている図書館を探している中で当館を推薦したことであった。当日は,4か国(オーストラリア・日本・ニュージーランド・マレーシア)の図書館の事例発表とパネルディスカッションが行われた。当館からは,医療・健康,高齢者,障がい者サービスについて情報相談課係長の佐伯真由佳が事例発表を行い,佐伯と筆者がパネリストとして参加した。また,慶應義塾大学名誉教授の田村俊作氏に通訳およびアドバイザーとして参加いただいた。参加者は約60人であった。

  国際的なセミナーにおいて当館の取組について知ってもらう貴重な機会であり,館内でチームを結成し準備を進めると共に,ビジネス支援図書館推進協議会副理事長の豊田恭子氏にもアドバイザーとして力添えいただく等,様々な人の協力のもと今回のセミナーに臨んだ。

●パネルの内容について

(1)当館事例発表「誰もが健康で幸せな地域を目指して:鳥取県立図書館の健康・福祉に関する取組」

  当館で実施している医療・健康情報サービスについて説明したのち,特に認知症の人や障がいのある人向けの取組について紹介した。以下,発表内容を抜粋し紹介する。

・医療・健康情報サービス

  2006年から本格的に「医療・健康情報サービス」の提供を開始した。専門機関との連携,医学書や闘病記を集めたコーナーの設置,病気や健康に関するブックリストの作成等を通じて,県民が信頼性の高い医療・健康情報や患者の心を支える資料を入手しやすい環境整備に取り組んでいる。

・認知症関連の取組

  日本では高齢化が進んでおり,厚生労働省は,2025年までに65歳以上の5人に1人が認知症になると予測している。当館では,認知症への理解を深め,支援を広げるため,認知症の人と医師の対談による講演会,認知症になっても図書館に通い続けるための工夫を話し合うワークショップの開催,職員研修等に取り組んでいる。

  また,認知症予防を目的とした高齢者向けの「あたまイキイキ!音読教室」を2012年に開始し,コロナ禍においても,ケーブルテレビやYouTubeで音読コンテンツを放映し,常連の参加者から大変喜ばれた。

・障がい者サービス

  鳥取県は2021年に,日本の地方自治体の中で最初に「視覚障がい者等の読書環境の整備の推進に関する計画」を策定した(E2451参照)。当館では,LLブック,音声資料,点字資料等,障がいのある人が利用しやすい資料の普及・啓発を目的としたコーナーの設置,録音図書の貸出,大活字本の積極的な収集等を行っている。また,手話関連の取組にも力を入れており,「手話で楽しむおはなし会」,職員の手話勉強会,手話通訳と字幕の付いた図書館紹介動画の作成等を行っている。

  発表では,地域の課題を解決するため,「私たちの責任は何か」「図書館は何ができるのか」について自問自答を続けていること,誰もが元気で幸せな地域づくりにつながると信じて今後も取り組んでいくことを述べ,参加者たちから多くの拍手を得ることができた。

(2)他国の事例発表およびパネルディスカッション

  オーストラリアからは,ビクトリア州公共図書館の健康・福祉サービス計画の開発について,ニュージーランドからはテ・アカマウリ地区ロトルア図書館と子ども健康クラブとの連携について,マレーシアからは,洪水におけるセランゴール公立図書館の取組について,それぞれの発表が行われた。

  パネルディスカッションでは,当館に対して,認知症に対する取組について館内でどのように知識を共有しているか,認知症のプログラムは喜ばれているかといった質問が寄せられた。

●終わりに

  最後に司会者からは,市民の健康や幸福に図書館がどう関わっていくか4つの都市と情報共有できて良かったといった感想が述べられた。各国の事例は様々であったが,地域の健康と幸せのために何かしたいという思いは共通しているのが印象的だった。今回のセミナーは,他国の実践について知り,世界の図書館の取組について視野を広げると共に,自館の取組について改めて考える機会となった。今回の参加で得た知識や視点を今後の図書館サービスに生かし,「県民に役立ち、地域に貢献する図書館」として何ができるのか考え,実践していきたい。

Ref:
“Libraries: Places That Care for People Webinar Series May 4, 5 and 6 2022”. IFLA. 2022-03-29.
https://www.ifla.org/news/libraries-places-that-care-for-people-may-4-5-and-6-2022/
“Places that Care For People: Public Libraries Delivering Health and Wellbeing Outcomes”. IFLA.
https://www.ifla.org/events/places-that-care-for-people-public-libraries-delivering-health-and-wellbeing-outcomes/
“IFLA公共図書館分科会 オンラインセミナーにおける鳥取県立図書館の事例発表について”. 鳥取県立図書館.
https://www.library.pref.tottori.jp/info/ifla.html
厚生労働省. 認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~(概要). 2017, 7p.
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/kaitei_orangeplan_gaiyou.pdf
福市信. 鳥取県の読書バリアフリー推進に関する取組について. カレントアウェアネス-E. 2021, (426), E2451.
https://current.ndl.go.jp/e2451