E2504 – 学生が自作する利用者用パソコン:高専における学生協働の例

カレントアウェアネス-E

No.437 2022.06.23

 

 E2504

学生が自作する利用者用パソコン:高専における学生協働の例

仙台高等専門学校広瀬キャンパス図書館・中島大(なかじまだい)

 

  仙台高等専門学校広瀬キャンパス(以下「仙台高専広瀬」)では学生図書委員会(以下「図書委員会」)が図書館サービスの一端を担っている。2021年度は自作パソコンに興味を持つ図書委員有志が図書館利用者用パソコンを自作した。本稿では,仙台高専広瀬の図書委員会の活動について紹介しつつ,学生協働の取組の一つとして今回のパソコン自作について報告する。

●仙台高専広瀬における図書委員会の活動

  国内には国公私立の高等専門学校(以下「高専」)があり,国立高専は全国に51校55キャンパスある。ビジネス・経営系の学科を有する高専もあり,特色は様々である。仙台高専広瀬は情報システムコース,情報通信コース,知能エレクトロニクスコース,応用科学コースの4コースがあり,コース名称が示す通り情報・通信・電気などの分野に興味を持つ学生が多い傾向にある。

  図書委員会は教職員主導により発足したが,次第に学生による自主企画にも取り組むようになった。こうした経緯から,高校の生徒会に該当する学生会に正式加盟した2017年以降も,学生の自主性・主体性をなるべく尊重している。定例行事としてブックハンティングや,仙台市広瀬図書館と共催で実施している古本市があるが,有志学生が職員と相談して臨時に実施される活動が多いのも特徴である。図書委員が興味・特技を生かして,取り組んだ活動の成果物は現在の館内にも見られる。例えば,利用案内や館内サインの一部はデザインが好きな図書委員がイラスト作成ソフトで作成したものである。アマチュア無線部兼務の委員によるお手製アンテナや,委員持ち寄りのジャンクPCパーツはハロウィンやクリスマスの時期になるとリボン等の装飾を施され利用者の目を引いている。

●学生による利用者用パソコンの作成

  仙台高専広瀬の特質上,自作パソコンは学生の関心が向くテーマとして珍しくはない。図書委員と職員との間でもパソコンパーツの話題が日常会話で取り上げられていた。こうした環境もあり,視聴覚ブースに学生作成のパソコンを設置し,視聴覚ブースのスペースの利用率向上を目指すという案が浮上した。そして,図書委員有志で「仙台高専キャンパスプロジェクト」という学内の公募型プロジェクトに館長の協力を得て申請し,採択されるに至った。

  パソコンの自作にあたっては,学生が図書館備え付けパソコンの用途を想定しつつ,インターネットや図書館資料を参照してパーツを選択した。

  学生が特にこだわったのはOSやOffice等のソフトの起動スピードであった。図書館備え付けパソコンの主な用途として学生が想定した調べものや文書作成等においては,作業で用いるソフトを起動した後は高い処理能力をそれほど必要しないと判断したためである。結果,ストレージにはかなり速い起動を可能にするパーツを選んだ。一方で,高い処理能力を要する作業は研究室のパソコンや自身の持ち込みデバイスで対応する場合が多いという意見からCPUは性能・コストを抑えることとした。

  当初よりパソコン設置場所の有力候補となっていた視聴覚ブースは,これまで配置されていた機材の一部を取り除けばパソコン一台を配置するには十分なスペースである。しかしながら,将来的には状況によりパソコンの設置場所や用途の変更も考えられる。そこで,大きいサイズは避けつつ最低限の拡張性を持たせる方針でパソコンケースを選択した。後にこのケースを用いて,クリスマスシーズン限定で一部パーツをLEDで光るものに取り換えライトアップさせたが,これも学生のアイデアである。

●利用者用パソコン自作の影響と今後の展開

  学生が自作したパソコンは2021年12月頃より利用に供している。パソコン設置以前と比べると視聴覚ブースのスペースが使われるようになった。職員が見る限りでは,スペースの利用用途は学生が想定した通りパソコンを用いた文献検索が中心であり,学生が利用者ニーズを見極めた上で適切なパソコンを作成したと考えられる。

  今回の取組を通じて,図書館の利便性向上とともに,学生の図書館に対するイメージの更新が期待できる。高専という環境でも図書館は読書・自習といった伝統的なイメージが強く持たれている場合が少なくない。こうしたイメージに加え,自作パソコンなどの高専らしい活動も図書館と関わりがあることを学生に認識してもらいたいという思いが職員にもあった。

  今回,学内のプロジェクトとして図書委員が自作パソコンに取り組んだことで,図書館が仙台高専広瀬の学生が興味を持つ分野の活動とも関わりがあるという点は少なからずアピールできた。自作パソコン製作後,館内に液晶ディスプレイが設置された際に,その運用を図書委員と相談すると,マイコンボードを用いた運用,プログラミングやゲームの知識を生かしたコンテンツ作成など高専ならではの案が挙げられた。以前よりも図書館が高専学生の活躍の場として認識されつつあると実感している。

  大学図書館を中心に学生協働(CA1795参照)という語を聞くようになってから久しいが,高専の図書館において学生の興味・特技に焦点を当てた学生協働の事例は未だ少ない印象を受ける。高専に限らず,高校・大学等での理工系・自然科学系学生の興味や特技を生かした学生協働の取り組みを参考にしつつ,仙台高専広瀬でも図書委員会との協力関係を強固にすることで図書館サービスの質を向上させていきたい。

Ref:
仙台高等専門学校.
https://www.sendai-nct.ac.jp
独立行政法人国立高等専門学校機構.
https://www.kosen-k.go.jp/
“【広瀬キャンパス学生図書委員会】令和3年度キャンパスプロジェクト「学生目線による図書館利用者用パソコンの作成」報告”. 仙台高等専門学校.
https://www.sendai-nct.ac.jp/20220301/
“@Book_Committee”. Twitter.
https://twitter.com/book_committee
八木澤ちひろ. 大学図書館における学生協働について : 学生協働まっぷの事例から. カレントアウェアネス. 2013, (316), CA1795, p. 10-14.
https://doi.org/10.11501/8228833