E2491 – 図書館のビジネス支援活動を推進するガイドブック(米国)

カレントアウェアネス-E

No.434 2022.05.12

 

 E2491

図書館のビジネス支援活動を推進するガイドブック(米国)

ビジネス支援図書館推進協議会・豊田恭子(とよだきょうこ)

 

  2022年2月,米国図書館協会(ALA)は,図書館のビジネス支援に関するガイド“Libraries Build Business Playbook”(以下「プレイブック」)を公開した。図書館のビジネス支援活動を推進するALAのイニシアチブ“Libraries Build Business”により作成されたもので,図書館が地元のスモールビジネスや起業家向けサービスを推進していく際のガイドブックとなっている。

  同イニシアチブは,2020年にALAがGoogle社の支援を受けて立ち上げたもので,全米各地から規模や地域が多様な13の公共図書館が選ばれ,ビジネス支援の方法や提供サービスの内容について実証を重ねてきた。プレイブックでは5項目にわたって,実践的なアイデアが列挙され,多くの事例が紹介されている。本稿では,その5項目の概要を紹介するが,日本の図書館にとって参考になると思われる「モニタリングと評価」に焦点をあてる。

●ビジネス支援サービスの開始

  初めてビジネス支援サービスに取り組む場合には,以下を段階的に行うことを提案している。

  1. まずはビジネスに役立つ書籍やデータベース,コンピュータやWi-Fi設備,会議室など図書館にあるリソースをリストアップして,利用者に告知することから始める。
  2. 地元の商工会議所, ビジネス・カウンセリングを行う元経営者たちのNPO法人(SCORE),コミュニティ・カレッジなどと関係づくりをし,地域ニーズを掘り起こす。
  3. ビジネス支援を図書館の予算に組み込み,担当者をつけ,地域ニーズに合ったプログラムを考案し,遂行する。

●プログラムの構築・拡張(サービスモデル)

  ビジネス支援サービスには,下記のようなプログラムが考えられる。

  • ビジネスコーナーの設置
  • メイカースペースの設置やツールの貸出し
  • セミナー等の開催
  • 地元の事業者たちのための交流会開催
  • レファレンス・サービス・個別相談
  • 外部専門家の紹介
  • 調査サービス
  • 自習用オンライン講座の作成と提供

●公正,多様性,包摂性

  僻地に住む人,低所得者,移民,女性,有色人種,犯罪歴のある人など,社会には十分なサービスを受けることのできない人々がおり,そうした人々の社会参加を促し,公正で,多様で,包摂的な地域をつくることを,図書館のビジネス支援サービスの視野に入れることが重要である。

●モニタリングと評価

  評価には,「変革の理論(Theory of Change)」を用いる。これは,まず長期目標をたて,そこに到達するためのプロセスを逆算して定めていく手法である。通常,(1)インプット,(2)アウトプット,(3)アウトカム(成果)の3段階を設定する(アウトカムは更に短期・長期・最終的などに分けることが可能)。ビジネス支援サービスでいえば,インプットには,例えばセミナーや交流会の開催,コワーキングスペースの提供などが含まれ,アウトプットとしては,参加者の増加や図書館のビジネス支援サービスの認知度向上などがある。アウトカムとしては,短期的には,実際のビジネスや起業に図書館サービスを活用することなどが挙げられ,最終的には,それが地域で盛んに行われるようになることなどが当てはまるだろう。ビジネス支援を始めるにあたって図書館は,こうしたロードマップを描き,段階ごとにモニタリングするようにする。モニタリングに使用する指標,方法,頻度,責任者などはあらかじめ決めておく。

  評価方法には,以下のようなものがある。

  • アンケート調査:サービスの利用者と図書館スタッフと,2つのグループからアンケートをとるのが有用である。前者は,サービスの改善につなげられ,後者では,図書館がこのプログラムを続けていくための課題が見つけられる。
  • インタビュー:利用者ニーズをより深く知るためには,実際に利用者と1対1で向き合い,彼らのストーリーを聞く必要がある。たとえ数件であっても,サービスの改善に大きく役立つことになるだろう。
  • フォーカスグループ:利用者5人-8人を集め,図書館のサービスについて話し合ってもらう。利用者によるニーズの相異を把握できるだけでなく,互いに刺激を与え合うことが可能となる。
  • 記録フォーム:図書館のリソース,プログラムの実施状況などの記録を四半期ごとに残し,傾向の把握をする。

  最後に,収集したデータすべてを合わせて,定量および定性分析を行なう。

●持続性

  プログラムを継続的に発展させていくために重要なこととして,以下などが挙げられている。

  • プログラムに柔軟性をもたせること
  • チームを組んでことにあたること
  • 常に新しい利用者開拓を視野に入れること
  • マーケティングにサービス利用者を活用すること

  地域の関心事やニーズに敏感に応えるスモールビジネスは,地域に活力をもたらし,その土地らしさを育むことにつながる。プレイブックでは,すべての図書館が,地域ビジネスへの支援活動をサービスに組み入れるべきだとし,本イニシアチブへの参加を広く呼び掛けている。

  巻末には,提携先との契約書のひな型,「変革の理論」を用いたフレーム,各種アンケート調査のモデルなど実用的なツールが豊富に収録され,日本の公共図書館にとって大いに参考にできそうな一冊となっている。

Ref:
Library Build Business Playbook. ALA. 2021, 82p.
https://www.ala.org/advocacy/sites/ala.org.advocacy/files/content/Workforce/LBB_Playbook_web_013122.pdf
“ALA releases new Libraries Build Business Playbook to encourage small business development in public libraries”. ALA. 2022-02-01.
https://www.ala.org/news/press-releases/2022/02/ala-releases-new-libraries-build-business-playbook-encourage-small-business
“Libraries Build Business”. ALA.
https://www.ala.org/advocacy/workforce/grant
SCORE.
https://www.score.org/
葛馬侑. 起業,中小企業を支援する図書館:ALAの報告書(米国). カレントアウェアネス-E. 2016, (308), E1826.
https://current.ndl.go.jp/e1826