カレントアウェアネス-E
No.434 2022.05.12
E2490
日本図書館研究会第63回研究大会シンポジウム<報告>
ノートルダム清心女子大学・近藤友子(こんどうともこ)
2022年3月6日,日本図書館研究会第63回研究大会シンポジウム「コロナ禍における図書館パート2」が開催された。感染症の影響により昨年度の第62回研究大会(E2404 参照)と同じくオンライン形式での開催となった。
まず同研究会研究委員長の日置将之氏(大阪府立中之島図書館)よりテーマ設定の趣旨について説明がなされた。2020年度のシンポジウム「コロナ禍における図書館~パブリックの再構築に向けて」にて,図書館におけるさまざまな感染症の影響が見えてきたことから,「パート2」として今回も引き続きコロナ禍においての図書館をテーマとして考えていきたいとの説明があった。
最初は今野創祐氏(京都大学工学研究科吉田建築系図書室)より「「新型コロナウイルス感染症防止対策から見えたこれからの図書館サービス報告書」ができるまで」と題して報告がなされた。多くの図書館・室が存在する京都大学における感染症への対応等についてまとめられた「新型コロナウイルス感染症防止対策から見えたこれからの図書館サービス報告書」(以下「報告書」)の作成・公開やその経緯等について説明があった。現在報告書は同学の機関リポジトリにて公開されており,多くの図書館にとって感染症防止対策と図書館サービスを考える一助になるものといえる。
次に加藤好郎氏(「横浜の図書館の発展を願う会」会員,鶴見大学・昭和音楽大学講師)より「市民が創る公共図書館」と題して,横浜の図書館の発展を願う会の活動についての報告があった。同会は,コロナ禍において横浜市に対し図書館の利用再開等について要望書を提出した。その過程でどのように一人一人の思いを反映させたか等が説明された。また,加藤氏の関わった愛知県の豊橋市まちなか図書館の活動についても説明された。地域における図書館の在り方や,図書館の発展を目指す市民の力の大きさについて様々な視点で考える機会となった。
小池信彦氏(日本図書館協会著作権委員会委員長)からは,「著作権法第31条の改正で変わる図書館サービス」と題して報告があった。図書館との関わりの深い著作権法であるが,コロナ禍ではさまざまな影響が考えられる。2021年5月に「著作権法の一部を改正する法律」が成立し,6月に公布されたことはまだ記憶に新しい(E2412 参照)。小池氏からは,図書館関係の取り組みとして,文化庁との意見交換,図書館関係の権利制限規定の在り方に関するワーキンググループの動き,国立国会図書館による絶版等資料のインターネット送信のサービス開始準備,図書館等による図書館資料の公衆送信に関する具体的な制度設計について報告がされた。利用者への資料提供,著作権,電子出版等様々な観点からの報告であり,今後の感染症の動向も含め,これからの図書館サービスについて考えていくべき示唆の多いものであった。
植村八潮氏(専修大学教授)からは「図書館における電子書籍の現状と将来像 -調査に基づくwith/afterコロナの課題」と題して報告があった。図書館における電子書籍の導入について,普及率や契約タイトル数,選書基準,人気作品や提供の期待される分野等が説明された。コロナ禍以前の図書館においても電子書籍はデジタル化の流れとともに注目されるものであったが,コロナ禍の中で急激に電子書籍に注目が集まり,その導入を進める図書館がみられる等,感染症とともに歩む現代の図書館を考えさせられる報告であった。
後半の質疑応答・意見交換は,発表者4人への質問から始められた。司会の村林麻紀氏が各講師に届いた質問を読み上げ,各講師が答える形で進められた。質問の内容は各講師が報告したそれぞれの活動内容や,2年以上も続いているコロナ禍との関連・影響等に関するものであった。加藤氏へは,豊橋市まちなか図書館と大学の交流や,市民からの要望書に関する質問があった。これに対し同氏は,大学生の若者の力を生かした連携や,議会等へのロビー活動を提案した。今野氏は報告書のポイントを紹介してほしいという要望を受け,報告書を画面共有で提示しながら説明を行った。小池氏へは,図書館資料の公衆送信を実施できる「特定図書館等」について,責任者の職位や研修に関する質問が出された。回答として,責任者には館長等を想定していることや,公衆送信等についての著作権関連の研修が必要だと考えていることが説明された。植村氏へは,電子書籍に関わるコスト面についての質問があった。回答として,電子書籍は紙の資料に比べて決してコストが安いとは言えないこと,経過年とともにバージョンアップしていくためのコストが生じること等が説明され,電子書籍を多面的に捉えて考えていく必要性があると感じさせられた。
質問に続く意見交換では,公共図書館と大学図書館の世界の違いを認識する必要性や,公共図書館では感染症の影響により図書館を休館した後に再開するときの大変さ等について意見が出された。また,図書館資料の利用回数等に関する話題や出版界,図書館界の視点の在り方等について活発な意見交換がなされた。
コロナ禍という状況のなかで見られる様々な課題,問題のなかで図書館の在り方や図書館に関わる利用者,図書館界,出版界等それぞれの視点を参考とし,各報告は非常に刺激のあるものであった。情報共有やデジタルデータ活用への期待等,柔軟で力強い意見からは,コロナ禍を決してマイナスだけの要因としてではなく,より成長していく過程として捉えている姿を見ることができた。
なお,本大会の詳細な記録は後日『図書館界』74巻2号(2022年7月号)に掲載予定であり,是非参照されたい。
Ref:
“日本図書館研究会 日本図書館研究会第63回研究大会(ご案内)”. 日本図書館研究会.
https://www.nal-lib.jp/63taikai/
図書館機構業務改善推進会議新型コロナウイルス感染症対応状況調査チーム. 新型コロナウイルス感染症防止対策から見えたこれからの図書館サービス報告書. 京都大学図書館機構. 2021.
https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/261000
奥山智靖. 日本図書館研究会第62回研究大会シンポジウム<報告>. カレントアウェアネス-E. 2021, (416), E2404.
https://current.ndl.go.jp/e2404
村井麻衣子. 令和3年著作権法改正:図書館関係の権利制限規定の見直し. カレントアウェアネス-E. 2021, (418), E2412.
https://current.ndl.go.jp/e2412
※本著作(E2490)はクリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 国際 パブリック・ライセンスの下に提供されています。ライセンスの内容を知りたい方はhttps://creativecommons.org/licenses/by/4.0/legalcode.jaでご確認ください。