E2404 – 日本図書館研究会第62回研究大会シンポジウム<報告>

カレントアウェアネス-E

No.416 2021.07.08

 

 E2404

日本図書館研究会第62回研究大会シンポジウム<報告>

新潟県議会図書室・奥山智靖(おくやまともやす)

 

   2021年3月15日,オンラインにて,日本図書館研究会第62回研究大会シンポジウム「コロナ禍における図書館~パブリックの再構築に向けて」が開催された。2020年2月に開催予定であった第61回の研究大会がコロナ禍を受けて中止されたため,2年振りの開催となり,オンライン形式としては初の試みとなった。

   最初に,同研究会研究委員長の日置将之氏(大阪府立中央図書館(当時))より趣旨説明があった。2020年4月から5月にかけて全国に緊急事態宣言が発出され,公共図書館のほとんどが休館もしくは利用制限を余儀なくされた。しかし,そのような状況下においても,各図書館が行った休館中のさまざまな対応や取り組み,また利用制限への対策について報告してもらうことで,まだまだ予断を許さないコロナ禍への対応状況に関する現時点での情報共有と今後図書館サービスをどうしていくべきか話し合う,とのことであった。

   まず,前田麦穂氏(日本学術振興会特別研究員(PD))が「コロナ禍は資料アクセスをどう変えたか~研究者・学生の緊急アンケートから著作権法改正まで~」と題した報告を行った。自らも発起人の1人となった「図書館休館対策プロジェクト」として緊急アンケートを実施し,大学等研究機関に所属する研究者・大学院生の研究への影響や要望を調査した結果を示した。その結果を受け,大学図書館等に関しては文部科学省のガイドライン「感染拡大の予防と研究活動の両立に向けたガイドライン」へ反映させ,国立国会図書館デジタルコレクションにおける絶版等資料へのアクセスの容易化に関しては文化審議会著作権分科会法制度小委員会における著作権法改正へのアジェンダ設定という一定の成果を得たという,その過程の紹介を行った。

   次に,日向良和氏(都留文科大学共通教育センター准教授)から「COVID-19下で「図書館」は何をして,何ができなかったのか」と題して,主に自らも関わったsaveMLAKによるコロナ禍における公共図書館の休館やサービス制限状況に関する調査の結果(E2283参照)を引き合いに出しながら報告があった。そして,各図書館が実施しているサービスの中から,来館しなくても受けられるサービスと,来館しないと受けられないサービスに切り分け,来館した利用者向けに行う価値あるサービスとは何かがウィズコロナ時代には問われると指摘した。

   庭井史絵氏(青山学院大学教育人間科学部准教授)は「変わる教育現場と学校図書館~“学びを止めない”から“一人一台”へ~」と題して報告した。庭井氏は,学校図書館の休館期間が3か月に渡ったこと,その間,期待と実践のギャップの中で,司書教諭,学校司書が学校図書館法の目的に沿った活動を心掛けたことを指摘した。文部科学省の通知等に見られた主に学校図書館の読書支援活動に関する期待のほかに,学習支援や情報センター機能といった学校図書館としてしなくてはならないことがあるのではないかという自身の疑問から,全国にいる知り合いの学校図書館員を中心にアンケート調査やオンラインインタビューを試みたことを紹介した。一方,休館期間中にプラスに感じられたこととして,SNSやオンラインを活用した取組の中でも,双方向性の高いツールを用いたものについては今後有用ではないかと思ったという振り返りもあった。

森いづみ氏(県立長野図書館長)は「パブリックの再構築とは何か:過去・現在・未来の公共図書館を考える~県立長野図書館の取組~」と題して報告した。県立長野図書館では休館中,宅配サービスを実施したが,貸出を中心とした従来型サービスには限界を感じたと述べた。また,コロナ禍の一番厳しい時期に感じられたこととして,図書館の開館率・休館率だけではそれぞれの図書館の置かれている実態ははかれないと指摘した。

   4人の討議は,コーディネーターの嶋田学氏(奈良大学文学部教授(当時))が加わって議論が進行した。討議を聴いて全般的に感じられたのは,平時からなすべきことをやり,周囲から一定の信頼を勝ち得ていた図書館においては,コロナ禍という未知の出来事に遭遇しても慌てふためくことなく,各種工夫で歩みを止めることなくサービスが行えているという点である。また,ウィズコロナで図らずも,従来から図書館業界の抱えてきたさまざまな問題・課題が可視化されたという認識でも一致をみた。

   なお,本シンポジウムの発表原稿および討議の様子については,2021年7月1日発行の『図書館界』73巻2号(通巻419号)に掲載されており,詳細はそちらをご覧いただきたい。

Ref:
“日本図書館研究会第62回研究大会(ご案内)”. 日本図書館研究会.
http://www.nal-lib.jp/events/taikai/2020/invit.html
図書館休館対策プロジェクト.
https://closedlibrarycovid.wixsite.com/website
2020新型コロナウィルス対策下の学校図書館活動.
https://sites.google.com/view/covid19schoollibrary/top
秋の学校図書館特集:青山学院大学 庭井史絵准教授 インタビュー 子供の窓を開き情報アクセスの機会を. 教育家庭新聞. 2020-09-21.
https://www.kknews.co.jp/post_library/20200921_2b
“図書館マルシェ 7月第1回 司書座談会「コロナ禍の学校図書館、どうしましたか?Vol.1」”. ポプラ社. 2020-07-17.
https://www.poplar.co.jp/toshokanmarche/eventreport/report06.html
森いづみ. “パブリックの再構築とは何か:過去・現在・未来の公共図書館を考える”. 日本図書館研究会第62回研究大会シンポジウム「コロナ禍における図書館~パブリックの再構築に向けて」. オンライン, 2021-03-15, 日本図書館研究会. 2021.
https://researchmap.jp/izumimi/presentations/31845787
森いづみ. “未来の学習者に寄り添うウイズコロナ時代の図書館を考える : 県立長野図書館の取組”. 第22回図書館総合展フォーラム「未来の学習者に寄り添う、ウィズコロナ時代の図書館 : ラーナーセントリックな視点から向き合う大学および公共図書館の可能性」. オンライン, 2020-11-05, 図書館総合展(丸善雄松堂). 2020.
https://researchmap.jp/izumimi/presentations/30975884
saveMLAK COVID-19libdataチーム. 現在(いま)をアーカイブする:COVID-19図書館動向調査. カレントアウェアネス-E. 2020, (395), E2283.
https://current.ndl.go.jp/e2283