E2329 – 研究支援における社会的相互運用性に関するOCLCの報告書

カレントアウェアネス-E

No.403 2020.11.26

 

 E2329

研究支援における社会的相互運用性に関するOCLCの報告書

大阪大学附属図書館・小村愛美(こむらいつみ)

 

   米国の研究大学は高度に分散化され絶えず変化する機関であり,独立性の高い様々な業種の関係者が存在する。こうした環境は種々の課題を生み出し,課題を解決するためには,協力と相互理解を促進する個人や組織間の関係構築と維持,つまり社会的相互運用性が必要である。このことは研究支援に携わる関係者にとって,特に重要である。

   上記のような,大学における研究支援と社会的相互運用性に関して,2020年8月,OCLCは調査報告書“Social Interoperability in Research Support: Cross-campus partnerships and the university research enterprise”を公開した。同報告書では,米国の大学における研究支援の幅広い関係者に対する,インタビュー調査の結果がまとめられている。高等教育機関の図書館員と学内の他の研究支援サービス関係者との関係を構築するためのロードマップを示し,研究支援関係者の概念モデルや関係者間の社会的相互運用性に関する重要なポイントを提示している。

   以下では,その要点を紹介する。

●学内の環境

   まず,大学において研究のライフサイクル全体を通じて強力な研究支援サービスを実施するには,図書館を含む各関係者が協働する必要があることを説いている。そのためには,他の利害関係者がどのような人々であるかを深く理解すること,つまりどのような業務を行い,何を優先し,大学の使命にどのように貢献しているかを知ることが必要であると指摘する。続いて,学内の協力を形成する社会的および構造的規範を調査し,研究支援における主要な大学関係者の概念モデルを提示している。この概念モデルでは主要な関係者を,意思決定者・研究管理・図書館・ICT・教職員とガバナンス・広報の6つに分類している。

●研究支援サービスにおける社会的相互運用性

   続いて,研究支援における社会的相互運用性を高める方法について,主要な研究支援サービス分野である研究データ管理(RDM),研究情報管理(RIM),研究分析,ORCID(CA1740参照)採用の調査を行い,得られた教訓と優れた実践例をまとめている。また,先述した概念モデルの各関係者がそれぞれどの研究支援サービス分野に関わるかを図に示している。図書館はこの図の中で,主にRDMとRIMに関わる関係者とされている。RDMにおいては,ガイダンス等の教育,専門知識およびキュレーションの分野に関して,RIMにおいては出版物のメタデータとその収集,研究の影響についての指標に関する専門知識,ベンダーとの交渉に関して役割を果たすものとされている。

   しかし課題は残っており,各関係者が相乗的に取り組んでいても,提供されるさまざまなサービスを整理する存在がない場合,研究者が利用可能なリソースを知ることは依然として困難である。システムやサービスの重複もよく起こっている。また,学内の関係者間で最初に合意を形成する必要があるため,進捗が遅れる可能性がある。

●学内横断的な関係構築に関する戦略

   次に,学内の関係構築のための戦略について説いている。研究支援サービス提供と利用の局面において,協力関係の構築と維持には多くのエネルギーが費やされており,学内環境の複雑さを考えると,相応の時間と対応が必要であると述べられている。学内の各部門や関係者は,それぞれ異なる関心とニーズを持ち,組織の独立性が高く単一の制御はできない。こうした環境下で協力関係を構築するための戦略と課題はインタビュー調査でも繰り返し登場したとあり,報告書では「相手の言葉で話す」「他者が抱える問題の解決策を提示する」「つながりを作る機会を見つける」「エネルギーを投資する」など12の推奨事項としてまとめている。

   先述したように,学内の関係を構築し維持することは,多くのエネルギーと時間の投資が必要である。しかし,インタビューで情報提供者が明らかにしたように,通常,得られる成果は非常に大きくなる。日本の研究機関について考えると,限られたリソースの中からこの関係構築に多くを注力することは難しいかもしれない。しかし,報告書にまとめられた概念モデルと12の推奨事項から取り入れられる事柄は多いと考える。関係構築や関係者間の合意形成に時間をかけること,つながりを作る機会を捉え,相手の言葉で話しメリットを提示することなどは重要であろう。図書館側のメリットといかにすり合わせるかに苦労する場合もあり得るが,報告書が述べる関係構築への投資と12の推奨事項は,研究支援の関係者が双方向で行うものである。日本においても,図書館からだけでなく,相手となる部局から関係構築を働きかけてくる場合もあり得,その際に協議を十分に行うこと,互いに働きかけと投資を行って社会的相互運用性を構築しつつ,メリットを得るという姿勢が重要であろう。

Ref:
Bryant, Rebecca.; Dortmund, Annette.; Lavoie, Brian. Social Interoperability in Research Support: Cross-Campus Partnerships and the University Research Enterprise. OCLC, 2020, 42p.
https://doi.org/10.25333/wyrd-n586
蔵川圭. 著者の名寄せと研究者識別子ORCID. カレントアウェアネス. 2011, (307), CA1740, p. 15-19.
https://doi.org/10.11501/3050829