E2330 – 第8回 マイクロ・ライブラリーサミット<報告>

カレントアウェアネス-E

No.403 2020.11.26

 

 E2330

第8回 マイクロ・ライブラリーサミット<報告>

 一般財団法人森記念財団/大阪府立大学観光産業戦略研究所・礒井純充(いそいよしみつ)

 

   2020年9月27日,まちライブラリーブックフェスタ・ジャパン2020実行委員会主催によるマイクロ・ライブラリーサミットが開催された。例年,小さな個人図書館活動を行っている人が一堂に会する機会として,大阪府立大学I-siteなんば(大阪市浪速区)を会場として関西圏を中心に行ってきたが,コロナ禍における新たな試みとして同会場を拠点にオンライン形式も併用して実施した。

   第一部の小さな図書館の活動報告では,5つのカテゴリーで12のマイクロ・ライブラリー(CA1812参照)が登壇した。各カテゴリーの概要は以下である。

●コミュニティとマイクロ・ライブラリー

   なんぶまちライブラリー(大阪府守口市)からは,従前からある市が設置した文庫ではなく,利用者自身の本を寄贈しあい,お互いに貸し借りをする,マイクロ・ライブラリーの一種「まちライブラリー」を設置したことで会話が生まれ,コミュニティ形成につながっていると報告された。Next Commons Lab 奥大和(奈良県宇陀市)は若い移住者が既存のコミュニティに馴染む接点として,ログハウス風の図書館をつくり,活用していると報告した。

●認知症とマイクロ・ライブラリー

   認知症ライブラリー(兵庫県たつの市)は認知症の誤解や偏見をなくすこと,若年性認知症の当事者が知りたい情報を他の人に知られることなく得られる場の必要性を訴えた。いきいき認知症まちライブラリー(大阪市天王寺区)からは,出入り自由な読書会の参加によって,認知症の当事者が本を介して会話ができたケースなど貴重な報告があった。

●里地とマイクロ・ライブラリー

   里の風たち「小さな図書館」(滋賀県信楽町)からは,Little Free Library(E1603参照)に賛同し,防災ベンチと巣箱型図書館を同じ敷地内に作った事例が報告された。少子高齢化による利用者減は課題だが,町内の絵本作家が本箱に絵を描いたりし,親密性ができていることも紹介された。公共図書館のない里地で廃校になった小学校の教室を使って始めたまちライブラリー@きのこ文庫(京都府京丹波町)は,開始から9年を経て,同所に飲食店や雑貨屋もでき,年間2万人が訪れる場に発展した現状を報告した。

●イベントとマイクロ・ライブラリー

   沖縄の水上家から来た本の会@ISまちライブラリー(大阪市中央区),まちライブラリー@みやざき自然塾(宮崎県宮崎市),まちライブラリー@&香芝(奈良県香芝市)の3団体からは,それぞれ「沖縄」「本のある隠れ家」「読書会」を柱にして,参加者に新たな発見をもたらし,自身の興味を表現することで仲間が広がっている様子が伝えらえた。

●まちじゅう図書館とマイクロ・ライブラリー

   吉野まちじゅう図書館(奈良県吉野町),丸亀市市民生活部生涯学習課(香川県丸亀市),ことひらまちじゅう図書館(香川県琴平町)は,まちの人がそれぞれの立場で小さな私設図書館活動に参加し,連携して活動している事例である。主体が行政であれボランティアベースであれ,小さな活動の集結の力を感じさせる報告であった。

   第二部では, マイクロ・ライブラリーに関するレクチャーが実施された。

●中国の公共読書空間の挑戦

   まず,長塚隆氏(鶴見大学名誉教授)により「中国における新たな公共読書空間(マイクロ・ライブラリー)の創造への挑戦」というテーマでレクチャーが行われた。中国では2000年頃から国民の読書率が急速に低下し,2003年頃から国を挙げて「公共読書空間」の取り組みが始まった。巨大な公共図書館を新たに作り利用促進を図ると共に,本を読める場を増やすことを目的に,個人や民間団体が運営する読書スペース「特別読書空間」の設置も進んでいる。地方政府の支援も行われており,デジタル書籍も含めると,近年読書率が向上している。長塚氏は,日本と中国が互いの取り組みを学び合うことと今後のデジタル空間への移行と地域コミュニティのあり方を考慮した活動の必要性を指摘し,まちライブラリーの今後の発展に期待を寄せた。

●まちライブラリー10年の歩み

   次に,まちライブラリーとマイクロ・ライブラリーサミットの提唱者である筆者より「まちライブラリー10年のあゆみ」についてのレクチャーを行った。まちライブラリーのスタートから10年の間に各地の小さな私設図書館,公共図書館,商業施設,行政とのコラボレーションなど様々なバリエーションが各地で生まれ,2020年11月現在,累計約800か所になった。「共感」「我が事」「結果としての利他性」に支えられ広がってきたと考えられる。個人的な活動が緩やかにつながることで,公の活動に発展しているケースもある。詳しくはRefに挙げた筆者の論文を参照されたい。 2013年に大阪府立大学にまちライブラリーができ,2015年からブックフェスタを開始,コロナ禍の2020年はブックフェスタ・ジャパンという本を媒介に人と出会う機会を求めコミュニティの充実を図る「ブックツーリズム」の展開に挑戦している。これらの紹介を通して,本を媒介にした個人の活動にはさらなる可能性があるということを語った。

   筆者にとって印象深かったのは,マイクロ・ライブラリー活動報告者から,出入りの自由な場としての図書館が度々語られたことである。また,中でもことひらまちじゅう図書館の「微力だけど,無力じゃない」という発言は象徴的であった。今後も個が生かされる社会の可能性をマイクロ・ライブラリー活動を通して提案していきたい。

Ref:
まちライブラリー.
https://machi-library.org/
ブックフェスタ・ジャパン2020.
https://bookfesta.machi-library.org/
“ブックフェスタ・ジャパン2020 マイクロ・ライブラリーサミット(小さな図書館全国大会)”. Peatix.
http://ptix.at/p7SuEi
“全国のまちライブラリー”. まちライブラリー.
https://machi-library.org/where/
Little Free Library.
https://littlefreelibrary.org/
礒井純充. “まちライブラリー”を活用した地域の場づくりに関する研究 ~「個」の活動が活かされる社会への道程~. 大阪府立大学, 2020, 博士論文.
http://doi.org/10.24729/00016913
依田紀久. 庭先の本棚 “Little Free Library”,世界へ,そして日本へ. カレントアウェアネス-E. 2014, (266), E1603.
https://current.ndl.go.jp/e1603
依田紀久. 第1回マイクロ・ライブラリーサミット,大阪で開催. カレントアウェアネス-E. 2013, (243), E1468.
https://current.ndl.go.jp/e1468
礒井純充. 新時代におけるマイクロ・ライブラリー考察. カレントアウェアネス. 2014, (319), CA1812, p. 2-6.
https://doi.org/10.11501/8484048