カレントアウェアネス-E
No.402 2020.11.12
E2320
コロナ禍の博物館等を支援する3D&VRボランティア撮影
一般社団法人VR革新機構・横松繁(よこまつしげる)
一般社団法人VR革新機構では,2020年4月以降,日本銀行,市民会館,図書館,博物館・美術館,震災遺構の展示施設,子ども向け施設,水族館,ホール,防災センターなど約40施設を3Dビュー&VR映像で撮影し,その映像を公開した。
当機構は2018年に全国のGoogleストリートビュー認定フォトグラファーが集まった有志の会からスタートしている。2019年には「車いす目線歩道ストリートビュー」での東京2020参画プログラムへの参加や,マスコミ報道でその取組が世界にも発信された。そして,当機構の3Dビュー&VR映像の撮影スキルで特筆しておきたいのは他に無いような大型施設専用撮影ができる点がある。これは当機構の活動を支援する日本マーターポートユーザー会がおそらく日本で一番多くの撮影を行っているからである。国内だけで500か所以上,2万平方メートル以上の大型施設や,同一施設内での1,000ポイント超えのきめ細やかな撮影実績を持っている。そのノウハウで一般では撮影が難しい施設も対象としてきた。
そのような折,新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響で世界は様変わりした。学校や職場も3密をさけるための対策がとられた。そして今,ソーシャルディスタンシングと手洗い等の感染症対策が当たり前の社会が広がっている。博物館や美術館も臨時休館が次々と発表された。大規模な物理的な集客は将来も難しいのではと各施設では話をしているようである。そして,コロナ禍は世界のオンラインコミュニケーションも変えた。「おうちで」鑑賞・勉強することが広がっている。
このような世界で,当機構の強みである3Dビュー&VR映像および360度動画の撮影技術を駆使することは,自宅や遠隔地からの臨時休館中の施設の仮想体験を可能とすると思案した。無人の施設は撮影に最適である。3Dビュー&VR映像を普及させることで自宅で展示を鑑賞し,勉強に役立てることを実現させるとともに,3密が解消された後には集客につなげることで施設を支援することは,VRによる社会貢献を目的に設立された当機構の目的に合致するのではないかと考えた。まずは2020年3月にTwitterで広告を出した。掲載した3Dビュー&VR映像の動画は1週間で45万回再生されたが,コメントのほとんどが取組への応援であり,撮影への申し込みはなかった。
そのような中,国立科学博物館の3Dビュー&VR映像は子どもの勉強にもなり,需要もあるのではないかとの,テレビに映る同館の取材映像を見ての筆者の家族の感想を聞き,即座に同館に対してボランティア撮影の問い合わせを行なったところ,とんとん拍子に話しが進み数日後に撮影を行って公開することができた。これがマスコミに大きく取り上げられ,夕方の単独ニュースでも放送されたことで申し込みが多数寄せられることとなった。これまでの問合せや撮影申込数は300件を超えている。2020年4月から10月までの全公開済施設の3Dビュー&VR映像の総インプレッション数は120万件を超え,総訪問者数も80万件に達した。
本取組による撮影・公開は,2021年3月末まで無償で対応している。それは施設支援と3Dビュー&VR映像の普及が日本では急務であるからである。欧米や韓国の博物館・美術館ではすでに3Dビュー&VR映像の普及は進んでいる。オンライン時代に日本も乗り遅れてはいけないと考え,積極的に取り組んでいる。今,需要があるのは解体や建て替えによる「残したい施設」,生まれ変わる施設の「ビフォアアフター」,教材としての「展示解説できる施設」,地域おこしや観光を意識した「集客促進施設」,展示会場で物理的に建てたブースの「オンライン展示会」の撮影・公開である。
ただ,普及のための課題の一つは,無償公開終了後の3Dビュー&VR映像等を閲覧した際の鑑賞寄付金や課金についてである。今後施設側の3Dビュー&VR映像作成・公開のためのクラウドファンディングを当機構が共催し,コンテンツ支援を行うつもりである。もう一つの課題は,著作権や使用目的上の制約で撮影できない対象物が多くある点である。これからの展示は,展示物の所有者との契約のなかでオンラインでの開示を使用目的に入れてほしい。アフターコロナの社会には,3Dビュー&VR映像内での展示物が必要である。
Ref:
一般社団法人VR革新機構.
https://vrio.jp/
“ウイズコロナ時代応援します 施設の入場制限・残したい建物や記憶・観光推進・地域おこし「集客とオンライン」支援します!”. 一般社団法人VR革新機構.
https://vrio.jp/lp202003a.html