カレントアウェアネス-E
No.402 2020.11.12
E2321
JADS第99回研究会「新型コロナ資料の収集」<報告>
東京国立博物館・阿児雄之(あこたかゆき)
2020年9月12日,アート・ドキュメンテーション学会(JADS)の第99回研究会・第3回オンラインイベント「新型コロナ資料の収集」が開催された。新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって,私たちの生活は一変し,様々な感染症対策をとりながらの日々が続いている。行事中止のお知らせやチラシ,各種店舗における営業案内の貼り紙などは,この生活変化に伴って生まれたものであり,後世に現状を伝える貴重な資料である。こうした「新型コロナ資料」は,博物館等を中心に収集活動が展開されている。その中でも,浦幌町立博物館(北海道)と吹田市立博物館(大阪府)は,日本国内でいち早く新型コロナ資料の収集を開始した。本研究会では,2館の活動についての報告と対談が設けられ,新型コロナ資料収集の意義や今後の展開について語られた。
最初に,研究会の主旨説明を兼ねて,JADS行事企画委員会から,新型コロナウイルス感染症発生からの振り返りと,国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(WARP)によるウェブサイトの収集保存やコロナアーカイブ@関西大学(E2282参照),saveMLAKによる図書館の動向調査 (E2283参照)等のコロナ禍社会の記録に取り組む活動が紹介された 。
浦幌町立博物館の持田誠氏からは,「博物館がコロナ関係資料を収集する意義」と題して,活動の紹介があった。収集資料の中心は,講演会などの催しに関するお知らせや新聞折込チラシなどの紙資料であり,中でも一過性のお知らせやポスターなどは,その時を過ぎればすぐに失われてしまう危険性が高いため,意識的に収集しているとの報告があった。浦幌町立博物館では,従来より産業資料収集の観点から,地域の商店などの折込チラシを収集しており,今回の新型コロナ資料の収集も,その延長線上に位置している。新聞折込チラシは新型コロナウイルス感染症の影響を色濃く反映しており,チラシの量は減り続け,感染拡大が進むに従いなくなる日も見受けられている。新聞販売店からは, 「3月はまだ良かった。4月の20日過ぎくらいから激減し, 5月にかけて全く折込みの入らない日が続いて大変だった」という言葉が出ていた。また,これらの収集と並行して,コロナ禍における生活変化を象徴するひとつである手作りマスクも地域住民等から博物館に寄せられることが多く,8月には同館が募集したマスクも含めた企画展「コロナな時代のマスク美術館」が開催された。
続いて,吹田市立博物館の五月女賢司氏から「吹田市立博物館における新型コロナ資料の収集と展示」と題して同館の活動が紹介された。五月女氏は,オーストリアのウィーンミュージアムなど海外博物館での取り組みを知り,新型コロナ資料の収集を始めたそうである。持田氏と同じく,収集する資料種別を特に設定せず,できる限りフラットな収集を心掛けたそうである。一過性の企画展を目的とした収集ではなく,いつか、何かに役立てることができる可能性を重視し,まずは失われてしまう前に記録・保存するという姿は両者に共通である。収集した資料には,飲食店に寄せられたメッセージやテイクアウト開始などの掲示物,マスク購入に並ぶ人々などの街角でみられた風景写真がある。これら収集資料は,7月に同館で開催されたミニ展示「新型コロナと生きる社会」へと繋がっている。本展示では,来場者に資料・証言提供のお願いも呼びかけ,かたちとして残りづらい人々の心情を集めることができている。
これら活動紹介をうけた対談では,筆者が司会を務め,参加者からの質問を取り上げつつ,持田氏と五月女氏から話を聞いた。多くの質問が寄せられたが,個人的に最も関心をひいたのは,「新型コロナ資料収集をはじめるところが少ないのはなぜか」「いつまで収集を続けるのか」という話題である。この話題は,新型コロナ資料収集を実施されている両者が登壇していたからこそ,出てきたものではないだろうか。両者とも,収集を始めた当初は他の館でも収集がすぐに実施されると考えていたそうであるが,実際には取り組む館は少ない。浦幌町立博物館では以前より折込チラシの収集をしており,吹田市立博物館も五月女氏が近現代史の担当学芸員であるので,新型コロナ資料の収集は,これまでの博物館業務の一環として取り組むことができる。しかし,他館では業務の追加となるため,なかなか実施に至らないのであろうという話があった。これと同様に,新型コロナ資料の収集をいつまで続けるのかという課題も見えてきた。収集を実施している館が少ない中で,二人は地元以外の資料の収集も手がけるようになってきており,いつまで続けるのか,区切りをつけるタイミングはいつなのかという判断に苦慮している。
最後に,本研究会は新型コロナ資料収集に携わる博物館等関係者が集まる初めての会合であった。SNSが発展した現在であっても,新型コロナ資料の収集について具体的な検討,議論ができる場所はこれまで設けられることがなかった。登壇者,参加者からは全国的な情報交換ネットワークの確立が切望され,それを受けて,現在はJADSを中心に他関連学会などと連携し,情報交換ネットワークの確立に向けて動き始めた。興味のある人は, JADSウェブサイトに案内を掲載しているので,ぜひ参画してもらえると幸いである。
Ref:
“第99回研究会・第3回オンラインイベント「新型コロナ資料の収集」”. JADS.
http://www.jads.org/news/2020/20200912.html
浦幌町立博物館. 浦幌町立博物館だより 2020年5月号. 2020, 1p.
https://www.urahoro.jp/chosya_shisetsu/kokyoriyo/museum/files/dayori202005.pdf
“新型コロナと生きる社会~私たちは何を託されたのか~”. 吹田市立博物館.
http://www2.suita.ed.jp/hak/moy/pdf/2020_02.pdf
“2020年5月特集 新型コロナウイルス感染症”. WARP.
https://warp.da.ndl.go.jp/contents/special/special202005.html
コロナアーカイブ@関西大学.
https://www.annex.ku-orcas.kansai-u.ac.jp/covid19archive
saveMLAK.
https://savemlak.jp/wiki/saveMLAK
“covid-19-survey”. saveMLAK.
https://savemlak.jp/wiki/covid-19-survey
“COVID-19”. saveMLAK.
https://savemlak.jp/wiki/COVID-19
“CORONA IN VIENNA : A COLLECTION PROJECT ON THE HISTORY OF THE CITY”. Wien Museum.
https://www.wienmuseum.at/en/corona-collection-project
“お問い合わせ ■行事企画委員会 新型コロナ関係資料収集・保存等情報交換について”.JADS.
http://www.jads.org/contact/contact.htm#kikaku
菊池信彦. コロナアーカイブ@関西大学の開設経緯,特徴とその意図. カレントアウェアネス-E. 2020, (395), E2282.
https://current.ndl.go.jp/e2282
saveMLAK COVID-19libdataチーム. 現在(いま)をアーカイブする:COVID-19図書館動向調査. カレントアウェアネス-E. 2020, (395), E2283.
https://current.ndl.go.jp/e2283