カレントアウェアネス-E
No.399 2020.10.01
E2305
東映太秦映画村・映画図書室について
東映太秦映画村・映画図書室・河西央(かさいひさし)
2020年7月1日にコロナ禍の影響により予定より数か月遅れてようやく開室の運びとなった京都市の東映太秦映画村・映画図書室(映画図書室)を紹介する。
映画図書室の概要であるが,開室時間は平日の10時から12時,13時から16時で土曜日,日曜日,祝日は休室となっている。映画図書室ウェブサイトから3開室日前までに予約申請する必要があり,閉架式になっているので利用者は直接書庫に入ることはできない。閲覧は映画図書室のみで可能であり資料の貸出しは行っていない。広さは全体で約80平方メートル,その内,書庫部分が約52平方メートルとなっている。以下では開室の経緯を述べるが,映画図書室は時代劇のテーマパークである東映太秦映画村(映画村)の一角にあり,まずは関連深い東映株式会社京都撮影所(京都撮影所)の歴史から始める。
今から約95年前,その後に撮影所が林立する京都,太秦の地に初めて映画スタジオを開設したのは俳優の阪東妻三郎氏だが,太秦のどこかと言うとまさに映画図書室があるこの場所であった。その後,資本の変遷が何度かあり,京都撮影所が発足したのは戦後の1951年4月になる。時代劇と日本映画の黄金期を経て,映画産業が斜陽化をたどるなか,東映は京都撮影所の活用策として撮影所のオープンセットで時代劇の撮影が見学できる観光施設の映画村を1975年11月に開業した。映画村の設立趣意書に「日本の映画文化資産の保存,継承,発展をはかり,併せて文化観光都市京都に新しい観光資源を提供するユニークな娯楽教養施設である事を目的とする」とある。娯楽事業の前に文化事業を敢えて持って来ている。映画村の開業スタッフは撮影所からの出向組だが,趣意書に掲げられたこの理念が映画作りに人一倍の情熱とプライドを持ち合わせていた彼らを奮い立たせた。
映画村は開業から多くの来場者で賑わった。同時に映画文化資産として映画の台本,ポスター,スチールなどの資料収集を始め,収集家,俳優,スタッフからの寄贈や映画倫理機構(映倫)からの提供を数多く受けて来た。
そして1978年4月にオープンセットの中に映画資料館を開館し,ここで映画村の来場者へポスターや戦前の映画雑誌等を展示するコーナーを初めて設けた。1985年4月には別の敷地の一般公道に面した場所に映像文化センターという建物を新築し,映画資料を一堂に集め,映画村の来場者以外の一般の閲覧希望者が利用できるシステムを構築した。
それから一時隆盛を極めたテレビ時代劇の製作本数が減少していくなか,映画村の経営上の理由から,映像文化センターが建物ごと解体され,新たな娯楽施設が出来たのは1997年3月であった。映画資料も映画村内の数か所に分散保管され,資料の公開は当初は事前予約制で一般の方へも実施していたが,業界関係者,学術関係者に絞り込むようになり,一時は最大10人を越えていた専従スタッフもついに2018年にゼロとなった。
保存資料はポスター約3万点(重複分含む),台本約1万5,000冊,スチール写真約10万点,プレスシート約1万点以上,書籍7,000冊,映像ソフト約5,000点など,総計20万点以上あり,戦前の作品の台本や撮影スタッフによる書き込み入りの台本など,研究価値の高いものが多数含まれている。しかし,予算も人材もない中,これらをどのように保管・活用していくかは会社の主要課題になることもなかった。
しかしながら,このような状況を変える大きな動きが三点重なる。一点目が,2018年度から始まる文化庁委託事業「アーカイブ中核拠点形成モデル事業」(撮影所等における映画関連の非フィルム資料)である。受託した映像産業振興機構(VIPO)による資料調査が始まり,映画村が旧来使用していたデータベースに代わり新しい検索システムが構築された。大きな変更点はこれまでは映画村関係者しか利用できなかったものが,今回のシステムはウェブサイト上で公開され,誰でも所蔵資料について検索できるようになった。二点目が同じく2018年度から始まる京都大学大学院人間・環境学研究科の木下千花准教授(当時)による研究プロジェクト「東映京都撮影所資料を基盤とした日本映画史研究の国際的拠点形成」である。これは,同大学のイノベーション創出等を目的とした研究プログラム“SPIRITS”の2018年度採択事業であり,映画研究を専門とする同大学の院生の参加を得て未整理の台本の調査,整理が進められた。三点目が親会社である東映に2019年度から経営戦略部アーカイブ・スクワッドが組織化され,映画図書室専任スタッフの配属と運営予算化がなされるようになったことである。
これらの動きの中,懸案であった場所に関しても京都撮影所の協力のもと,衣裳倉庫を改装することで目途が立ち,2019年から開室準備を進めてきた。各関係者の力添えが一つでも欠けていたら今日の開室には至らなかったことだろう。
今後の活動方針としては,毎年劇場公開される日本映画の台本の収集および保有している資料の保管・活用に努め,ポスターなどの資料のデジタルアーカイブ化を順次実施し,検索システムで検索可能とすることである。
本稿を執筆している今日も今,隣接している京都撮影所では時代劇,映画が撮られ続けている。太秦に撮影所が出来てから2025年で100周年を迎えるが,その歴史の中,時代劇に限らずこの土地に根付いた映画・映像文化を各関係者と力を合わせながら決して絶やすことなく次世代に繋ぐことが当事者に与えられた使命と思っている。
Ref:
東映太秦映画村・映画図書室.
https://www.toei-eigamura-library.com/
東映太秦映画村.
https://www.toei-eigamura.com/
東映京都撮影所.
http://studios.toei-kyoto.com/
板倉史明監修. 平成30年度文化庁委託事業「アーカイブ中核拠点形成モデル事業」(撮影所等における映画関連の非フィルム資料)報告書. VIPO. 2019, 46p.
https://www.vipo.or.jp/u/kyoto-nonfilm_archive_report-h30.pdf
“東映京都撮影所資料を基盤とした日本映画史研究の国際的拠点形成”. 京都大学.
http://research.kyoto-u.ac.jp/service/topic/spirits/lists/h30list/spirits_h30ja_kinoshita/