カレントアウェアネス-E
No.395 2020.07.30
E2281
津高生に本を届けようプロジェクト:学校休業期間の取組
三重県立津高等学校・井戸本吉紀(いどもとよしのり)
三重県立津高等学校図書館では,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策で学校の臨時休業の中,外出を控え自宅で頑張る生徒のために,インターネットによる図書館の蔵書検索/予約サービスと自宅への本の郵送サービスを2020年5月8日から開始した。「津高生に本を届けようプロジェクト」と名付けたこの取組の経緯と結果を報告する。
●経緯
5月6日まで予定されていた本校の臨時休業の延長可能性が高まってきた4月20日ごろ,本プロジェクトの雛型を考え始めた。その際,2つの課題があった。ひとつは生徒が自宅から当館の蔵書を検索し予約する方法がないということと,もうひとつは郵送するための費用の確保である。
「津高の蔵書公開/予約受付方法」の課題については,当館ウェブページの「新しい本」リストを国立国会図書館サーチにリンクさせるなどの高機能化も検討した。しかし,まずはダメ元のつもりで以前お世話になった株式会社カーリルに連絡をし,支援を受けることができないか,ということを伝えた。同社からは,埼玉県高等学校図書館研究会との間で昨年から進めていた実証実験を活用して何かできないか考えている,という情報をもらった。後に,国立国会図書館やopenBD(E1924参照)の公開データを活用した蔵書検索サービスを無償で提供する「COVID-19:学校図書館支援プログラム」として発表される取組である。
5月の大型連休前に校内での検討と調整を終え,当館所蔵資料のISBNデータ約2万1,700件を作成し,予約申込用GoogleフォームのURLと合わせて株式会社カーリルに送付したところ,翌日には仮サイトが構築され,国立国会図書館未所蔵の可能性のある蔵書リストの提供も受けた。その後もやりとりを重ね,同プログラム活用第1号として5月8日にサービスをスタートさせることができた。同社には連休中にも対応してもらい,協力に大変感謝している。これにより,生徒に最も使いやすい形での蔵書公開が実現することとなった。
検索サイト構築にあたっては,「図書」「蔵書」などの専門用語を使わず生徒にわかりやすいサイトになるように努めた。また,予約申込用Googleフォームは,個人情報保護に配慮し,生徒情報は「学年組席」の数字を入力するだけとした。さらに,読みたい本が決まっていない生徒の相談に乗ることができるよう,Google Classroomの「課題」機能とテレビ会議機能Meetも活用した。
「郵送するための費用の確保」の課題については,郵便局のレターパックプラス(1枚520円)で送付することにした。レターパックプラスは4キログラム以内であれば厚みは問わないため,厚みが一定でない本の送付に向いていると考えた。また,後述する「同窓生からの寄贈」の受付がし易いという点も利点であった。送料は,図書購入費から約11万円を充て,200回分を確保した。送料のすべてを当館からの発送に使うため,通常2週間の貸出期間を「本校の臨時休業明けまで」とした。
それとともに,同窓生にレターパックプラスの支援を呼びかけることを決めた。なるべく多数の同窓生に本プロジェクトを知ってもらう必要があることから,当館ウェブページでの周知に加え,5月8日午前中に県政記者クラブにカラーのチラシを配布した。その結果,2つの新聞社に記事掲載された。
生徒には,5月8日午前のGoogle Classroomのショートホームルームにおいて,クラス担任教員から本プロジェクトの周知をした。
●結果
サービス開始初日に24人の生徒から83冊の予約申込があり,うち62冊を郵送したのは,嬉しい誤算だった。本のジャンルは小説が6割ほど,その他は歴史,スポーツ,生物学,ビジネス書など,自分自身が興味を持った分野の本を申し込んだことがわかる。生徒からは予約受付用フォームのコメント欄に以下のような嬉しい言葉を寄せてもらい,励みになった。
- 「「図書館から本を届けてもらえる」という知らせを見た瞬間,家にいるだけで色々 な本が読めてとても嬉しいと感じたと同時に,こんな大変なことをしてもらうこと,本当に有難いと思いました。よろしくお願いします。」
- 「皆さんのご協力のおかげでこの,新しい本が読めるという状態が成り立っているということに感謝をしながら,精一杯,楽しんで読んでいきます。」
分散登校開始によりプロジェクトを中止した5月20日までの12日間で,53人の生徒に132冊の本を届けた。学年ごとの申込人数は,1年生30人,2年生14人,3年生11人であった。わずか2日しか登校できず,図書館オリエンテーションも受けることができていない1年生の申込が多かったのは,意外な結果であった。2年生,3年生においても昨年度の常連とは異なる生徒からの申込が多かった。また,Google Classroomの「課題」機能から本の相談をした生徒は10人,テレビ会議機能Meetで本の相談をした生徒は2人であった。
レターパックプラスは,14人から161枚(8万3,720円分)もの寄贈があり,大変感謝している。寄贈されたレターパックプラスを使う時は,以下のような同窓生が生徒を応援する「卒業生からの手紙」を同封する形で生徒に届けた。自宅への郵送サービスは終了したが,寄贈されたレターパックプラスは,今後の臨時休業措置に備えるため,保管している。
- 「この新型コロナウイルス感染症の猛威を乗り越えた後の時代を創っていくのは,あなた達です。ぜひ,たくさんの本を読み,自分のこと,未来のことについて考えてみてください。
私たちは,これからを担うあなたを応援しています。」
三重県の県立学校では,6月1日から通常授業が始まった。本校では,今回様々な形でいただいた応援の声を励みに,いわゆる「密」を避けつつ,2019年に開催して好評だった「青空図書館」などの企画,さらには校内の他分掌と連携した新しい取組を進めていく。
Ref:
三重県立津高等学校図書館.
http://www.mie-c.ed.jp/htu/library/index.htm
三重県立津高等学校図書館. 津高生に本を届けようプロジェクト.
http://www.mie-c.ed.jp/htu/library/image/202005/hontodoke.pdf
休校中に本読もう 津高図書館 生徒にレターパックで図書郵送 三重. 伊勢新聞. 2020-05-12.
https://www.isenp.co.jp/2020/05/12/45140/
“COVID-19 : 学校向け蔵書検索サービスの無償提供について”. カーリル. 2020-04-24.
https://blog.calil.jp/2020/04/negima.html
“「青空図書館」の様子”. 三重県立津高等学校. 2019-04-18.
http://www.mie-c.ed.jp/htu/topics/topics2019/20190418/aozoratosyokan.html
沢辺均. 図書館のOPACなどで書影の利用が可能なopenBD. カレントアウェアネス-E. 2017, (327), E1924.
https://current.ndl.go.jp/e1924