E2231 – ミライon図書館(長崎県)のオープンについて

カレントアウェアネス-E

No.386 2020.02.27

 

 E2231

ミライon図書館(長崎県)のオープンについて

長崎県教育庁生涯学習課新県立図書館整備室・吉田和弘(よしだかずひろ)
長崎県立長崎図書館/ミライon図書館・渡邉斉志(わたなべただし)

 

●ミライon図書館の開館までの経緯

 ミライon図書館は,「長崎県立長崎図書館」と「大村市立図書館」を施設区分や蔵書区分無く,県と市が共同で運営する一体型の図書館として,2019年10月5日,長崎県大村市に開館した。以下,両館が一体型の図書館となった経緯について述べる。

 長崎県立長崎図書館は,1912年6月1日に創立,2012年には100周年を迎えた。ミライon図書館以前の建物(以下「旧建物」)は,官公庁やオフィスビルが立ち並ぶ長崎市中心部の一角にあり,長崎の伝統行事「長崎くんち」のメイン会場である諏訪神社にほど近い森に囲まれた閑静な場所に1960年に建設され,多くの県民に利用されてきた。

 一方,大村市立図書館は,「私立大村図書館」を前身として1947年10月に創立,旧建物は1973年に建設され,JR大村駅から徒歩数分の場所であったことから,こちらも多くの市民に利用された。

 その後,時の経過とともに両館の建物は老朽化が進み,耐震性も満たしていなかった。また,少子高齢化,グローバル化及び情報化が進む中において,図書館に求められる役割は多様化,専門化し,狭隘な施設では対応が困難となっていた状況や社会情勢の大きな変化を受け,将来にわたり長崎県民及び大村市民を支える知の拠点となる図書館を整備することが重要な課題となっていた。

 このような中,長崎県教育委員会では,「長崎県立図書館在り方懇話会」(2006年6月から2007年3月)及び「長崎県立図書館再整備検討会議」(2010年2月から2011年3月)からの答申を受け,2013年3月に「長崎県の知の拠点として県民を支える図書館」を基本理念とする「新県立図書館整備基本方針」を策定し,県立図書館郷土資料センター(仮称)を長崎市に,当時建替え予定であった大村市立図書館との合築による図書館を大村市に建設することを決定した。なお,県立図書館郷土資料センター(仮称)は,2021年度中に開館予定である。

 また,大村市教育委員会では,大村市立図書館に期待される役割を果たしていくために必要な機能及びサービス並びに施設の規模などについて,「新大村市立図書館整備検討懇話会」(2013年8月から9月)及び市内の図書ボランティア並びに高校生との意見交換会「大村市立図書館フォーラム」(2013年8月から9月)などの意見を踏まえた,「未来へつながる出逢いの広場」を基本理念とする「新大村市立図書館整備基本方針」を2013年9月に策定した。

 これらの基本方針を基に,両教育委員会は,新たに整備する県立・大村市立一体型図書館及び県立図書館郷土資料センター(仮称)が期待される役割を果たしていくための基本的方向性,サービスや運営の考え方,建物の規模及び機能構成等を示す「「県立・大村市立一体型図書館及び郷土資料センター」(仮称)整備基本計画」を2014年7月に策定した。その後同計画に沿って長崎県及び大村市が整備を進め,今日に至る。

●ミライon図書館の施設概要

 ミライon図書館は,「長崎県立長崎図書館」と「大村市立図書館」の一体型図書館の愛称として現在広く使われている。「ミライon」の名前の由来は「未来」と「ON」の単語を足し合わせた造語で,現在と過去について多く知ることで,未来の自分のためのスイッチをONにできる場所になってほしいという思いがこめられている。

 延床面積は施設全体で約1万3,300平方メートル(うち1階に併設された大村市歴史資料館を除いた図書館部分は約1万1,700平方メートル),収蔵能力202万冊となり,県立長崎図書館の旧館と比較すると延床面積は約2.3倍,収蔵能力は約3倍となり,ともに大幅に増加した。

 施設の大きな特徴は,1階から4階まで一部が吹き抜け空間となっており,訪れた利用者のための視認性が確保され,建物の構造を把握しやすくなっているため,目的の場所を容易に認識できることである。

 1階は,開架4万冊の児童書を有する「こどもしつ」をはじめ,収容人数200人の「多目的ホール」,また大村市歴史資料館やカフェがあり,これらの場所は人々が行き交う空間となっている。2階は,学習スペースやグループ学習室,研修室,カウンター席等を設け,利用者の多様なニーズに応じた造りとなっている。3階は,本施設のメインとなる空間で,一般資料を21万冊開架し,新聞閲覧コーナーや予約本コーナー,対面朗読室を整備した。4階は,資料閲覧スペースで閲覧席は116席整備し,静かな環境で読書や研究を行うことができる空間となっている。この他,館内にFree Wi-Fiやコンセントを整備するとともに,閲覧スペース内のどこでもインターネットで調べることができるようにタブレット端末の貸出を行うなど,パソコン等での調査・研究も可能となっている。

●県市一体型図書館の利点を活かして

 ミライon図書館では,整備基本計画に基づいた業務分担により県と市がそれぞれの役割をもって業務にあたっている。県と市の図書館が一つになることの効果としては,管理・運営の効率化や経費削減もあるが,それ以上に,県市それぞれの職員が互いの役割を理解できるようにする点を挙げることができるだろう。例えば,県の職員は,市の職員と市民の距離感の近さから来る様々なノウハウ(ボランティアや各種市民団体との関わり方等)を日常的に得ることができ,それを県内の市町立図書館に対する協力業務に生かすことができるようになる。一方,市の職員は,大規模な蔵書の管理手法や探索スキル,市外の多様な機関との連携等から多くの気づきを得ると同時に,図書館の役割を広域的に捉える経験を通じて新たな視座を獲得することができる。こうした効果は,「広域自治体の視点」と「基礎自治体の視点」の両方の視点を持った職員の育成に繋がるため,中長期的に見れば図書館運営に大きな成果をもたらすはずである。

 様々な視点を持った職員が一体となることで,職員の成長が促進され,図書館の潜在的な需要を掘り起こすとともに,図書館が保有する蔵書や情報が地域住民に一層活用されるようになることが期待される。

Ref:
https://miraionlibrary.jp/library/about/
https://miraionlibrary.jp/library/facility/