カレントアウェアネス-E
No.347 2018.05.31
E2026
繁華街での文化発信「立誠図書館」
2018年4月1日から運用を開始した「立誠図書館」(京都市)は,江戸時代初めに角倉了以が開削した高瀬川のほとりにある。この地域はもともと鴨川の河原であったが,高瀬川が通じて以降,流通の拠点として繁栄し多くの人と物が行き交う場となった。
江戸時代初期からこの地に土佐藩が藩邸を置き,明治・大正期には旧京都電燈株式会社が存在し,その後,昭和になって京都市立立誠小学校が建てられた。1993年に統廃合で一旦は学校の役目を終えたが,その後も統合先の京都市立高倉小学校の施設として継続使用されてきた。同時に繁華街の真ん中に存在することもあり,地域活動のほかにも展示会場,コンサートやライブの会場,ミニシアターや小劇場等,多くの人々の文化発信・交流の場として2002年頃から積極的に活用されてきた。しかし,1928年建立の校舎は老朽化と耐震性の問題から新たな活用の方法として複合施設に生まれ変わることになり,2020年春を目指し大幅な改築と改修がなされることとなった。それに伴いそれまでの文化発信事業をどのように継続していくか,地元自治会・京都市・複合施設事業者が1年間に及ぶ協議を重ね,この地にふさわしい文化発信施設として複合施設内に開設予定の図書館に先行し,仮設施設内で図書館を開設することになったものである。
このたび発足した立誠図書館は,ブックディレクターの幅允孝氏の選書により,(1)立誠小学校のDNAの本棚,(2)京都歩きの本棚,(3)食べる本棚,という三つのカテゴリーに分けて書籍を配架して閲覧に供している。(1)は1869年創設の下京第六番組小学校をルーツにもつ立誠小学校とその歴史・文化にかかわる本を集めたもの,(2)は多くの歴史が刻まれている地元,立誠地域から大きく京都を俯瞰できるよう,京都に関する本を集めたもの,(3)は立誠地域が位置する繁華街には多数の食に関連した店舗・事業者があるだけでなく,現在,食は多くの人々の関心を集めていることから,食にまつわる本を集めたものである。これはこの地域に適合した図書館と本の分類という目的にそったものである。
立誠図書館の建物は元・立誠小学校のグラウンドであった場所の一角に建てられた仮設建物の1階東南部にある。座席数30ほどのマイクロライブラリー(CA1812参照)だが,本を読みながら美味しいコーヒーが飲めるように喫茶部「TRAVELING COFFEE」も併設している。インテリアは元の小学校で使用していた木の棚を再利用し本を配架している。そのほか元の小学校敷地内の北西・北東・南西の角地,三か所に無人の図書館ボックスを設けて本を配架し,利用者が興味をもって閲覧しやすい形をとっている。ボックスの扉は元の小学校の教室扉を再利用し,懐かしい雰囲気を感じてもらい,また自由に読書してもらえるようにその前に丸椅子を置いてある。利用者からは「どこでもドア!のような感じ」という感想も聞かれた。運用開始からまだ日が浅いこともあり蔵書数は600冊で,今後順次増やしていく予定である。
繁華街という場所柄,不特定多数の人々が訪れるが,外国人観光客の訪問がかなりあることからそれに対応した本を増やすこと,前述したように繁華街の真ん中なので住民の顔が見えづらい場所であることから,むしろ未就学児童を連れた保護者や高齢者などが地域交流の場として活用できる企画を実行していくことを考え,開かれたまちライブラリーをめざして図書館スタッフと検討中である。
現在は人員とシステムの都合上,閲覧・複写のみだが,将来的には貸出もできたらと考えている。開館時間は11時から20時までで,不定休である。ただし図書館ボックスは11時から17時まで開けており,雨天時には閉めることとしている。
2020年に開業予定の複合施設は,外国人を含めた観光客や地域の人々が気軽に利用できる施設とし,その中に図書館と多目的ホールが設けられる予定である。その時には,この場所でつちかった経験を活かし,図書館をコンセプトにしたニューヨークにあるライブラリーホテルのような,外国人を含めた宿泊客が気軽に利用できる発展型の図書館としたいと考えている。そちらもぜひご期待いただきたい。
立誠図書館・岡見弘道
Ref:
https://www.bunmachi.org/
https://www.bunmachi.org/rissei-library
http://www.city.kyoto.lg.jp/gyozai/page/0000228424.html
https://www.bunmachi.org/library-box
https://libraryhotelcollection.com/en/library-hotel.html
CA1812