E2511 – 米国博物館・図書館サービス機構の2022-2026年度戦略計画

カレントアウェアネス-E

No.438 2022.07.07

 

 E2511

米国博物館・図書館サービス機構の2022-2026年度戦略計画

筑波大学図書館情報メディア系・鈴木一生(すずきいっせい)

 

  米国博物館・図書館サービス機構(IMLS)は,補助金の交付など財政支援を通して,米国における博物館及び図書館の発展に寄与することを使命とした,連邦政府から独立した連邦政府関係機関(federal agency)である。補助金の交付に加えて,戦略計画の策定など政策的指針の発表や調査レポートの公開なども実施している。IMLSは,2022年3月に,2022年度から2026年度までの戦略計画“FY 2022–2026 Strategic Plan”(以下「戦略計画」)を発表した。今回の戦略計画では,米国における博物館及び図書館について,IMLSが2022年度から2026年度までに支援及び促進するサービス指針が記述されている。本稿では,戦略計画の策定過程とその内容について概観する。

  今回発表された戦略計画は,今後州や地方レベルの政策に影響を与えると考えられる。例えば,ワシントン州立図書館が2017年に発表した,図書館サービス技術法(Library Services and Technology Act:LSTA)に基づく補助金の使途を記述した計画書“Library Services and Technology Act 2018–2022”においても過去のIMLSの戦略計画が参照されながら記述されている。しかしながら,周知のように,米国では図書館政策など教育政策に関する立法権限は,州政府に帰属されていることから連邦レベルでの総体的な政策的指針の提示による影響は限定的であることにも留意する必要がある。

  戦略計画の策定に当たっては,機構関係者に対するパブリックコメントの募集に加えて,博物館・図書館・文書館の専門職,州立図書館機構の長で構成されるCOSLA(Chief Officers of State Library Agencies),各種協会関係者に対するヒアリングなどが実施された。IMLSが用意した5つの質問項目については,2021年7月8日の連邦官報(Federal Register)に掲載されている。その内容を要約して示す。

  • 博物館や図書館では,どのようにあらゆる年齢やバックグラウンド,ニーズを持つ人々の学習機会への参加を拡大することができるのか。
  • 業務の変化に対応して,今後5年間で専門職にはどのようなスキルが求められるのか。
  • どのようにアウトリーチやパートナーシップを活用してコミュニティにサービスを提供することができるのか。
  • コレクションの管理やアクセスの手段をアップデートする必要があるのか,またその方法はどのようなものか。
  • コミュニティの利益になるように効果的に業務を遂行するためにはどのような調査やデータが必要であるのか。

  これに対し,例えば,米国医学図書館協会(Medical Library Association:MLA)は,ウェブページ上でIMLSの質問に対する協会としての立場を反映した回答文書を公開している。

  このような過程を踏まえて,戦略計画では,以下の4点が提示されることとなった。

  1. 生涯学習の支持

      地域の博物館や図書館は,コミュニティのニーズを理解し,対応する特有な機関であることを指摘し,あらゆる年齢やバックグラウンド,能力を持つ人々に対する学習機会を提供することを支援すると述べている。また,それら機関が利用者に対してサービスを提供する時に必要となる専門的な能力の開発についても支援することを表明している。

  2. コミュニティエンゲージメントの強化

      比類ない情報機関である博物館や図書館は,人々の様々な格差を是正できることを指摘し,コミュニティの紐帯を強化することを支援すると述べている。そのために,博物館や図書館における市民の議論(civic discourse)を促進することを表明している。

  3. コレクションの管理責任(stewardship)とアクセスの促進

      博物館や図書館は,あらゆるコレクションの保存,管理,提供に責任を有していることを指摘し,コレクションのドキュメンテーション,保護,保存,保管を実施するためのプロジェクトを支援すると述べている。また,技術の進化に対応したバーチャル展示や双方向型ウェブサイトの整備などを通してコレクションへのアクセスを促進することを表明している。

  4. 公共サービスの卓越性の実証

      IMLSの使命は,博物館や図書館を支援し,その役割を強化することであるとした上で,IMLSの意思決定は根拠のあるデータに基づき実施することが重要であると述べている。また,IMLSの職務である補助金の交付についても効果的かつ効率的に配分するために,調査やデータ収集を実施することを述べている。

  この戦略計画は,今後州や地方レベルでの政策形成に影響を与えることが考えられる。その際,前述のワシントン州立図書館のLSTAに基づく補助金の使途を記述した計画書の事例のように,州・地方レベルの政策責任者は,IMLSの戦略計画などを参考にしつつ,当該地域の実情を反映し,より具体的な計画を策定し,実行することになる。この戦略計画で提示された政策的指針が州・地方レベルでどのように政策として具現化されていくのか,今後の動向に注目したい。

Ref:
“Mission”. IMLS.
https://www.imls.gov/about/mission
IMLS. FY 2022–2026 Strategic Plan. 2022, 21p.
https://www.imls.gov/sites/default/files/2022-02/imls-strategic-plan-2022-2026.pdf
Washington State Library. LIBRARY SERVICES AND TECHNOLOGY ACT PLAN 2018–2022. 2017, 21p.
https://www.sos.wa.gov/_assets/library/libraries/dev/lstafiveyearplan2018-2022.pdf
“Notice To Announce Request for Information To Assist in the Development of the Institute of Museum and Library Services’ 2022-2026 Strategic Plan”. Federal Register. 2021-07-08.
https://www.federalregister.gov/documents/2021/07/08/2021-14593/notice-to-announce-request-for-information-to-assist-in-the-development-of-the-institute-of-museum
“MLA Comments on IMLS 2022-2026 Strategic Plan”. MLA. 2021-08-12.
https://www.mlanet.org/p/cm/ld/fid=1122&&blogaid=3591
Widdersheim, Michael M.; Koizumi, Masanori; Larsen, Håkon. “Cultural policy, the public sphere, and public libraries: a comparison of Norwegian, American, and Japanese models”. International Journal of Cultural Policy. 2021, 27(3), p. 358-376.
https://doi.org/10.1080/10286632.2020.1751142
橋本麿美. アメリカ連邦図書館立法の歴史−1956年図書館サービス法の成立から2010年図書館サービス技術法への変遷−. 創成社. 2020, 245p.