カレントアウェアネス-E
No.341 2018.02.08
E1995
ダブリンコアとメタデータの応用に関する国際会議(DC-2017)
2017年10月26日から29日まで,米国バージニア州のクリスタルシティにおいて「2017年ダブリンコアとメタデータの応用に関する国際会議(DC-2017)」(E1868ほか参照)が開催された。
今年度の会議は,「メタデータの実践の推進:質,オープン性,相互運用性」(Advancing metadata practice: Quality, Openness, Interoperability)というテーマの下,開催された。筆者はこのテーマに関連し,ジャパンリンクセンター(JaLC)の共同運用機関である国立国会図書館(NDL)が,収集・保存している資料に国際的な識別子であるDOIを付与することで,日本のコンテンツの国内外での流通促進を図っていることを発表した。NDLと同様にコンテンツにDOIを付与している機関の職員との意見交換では,海外の機関でもDOI付与がコンテンツやメタデータの安定的な流通を促すという認識が共有されているということがわかり,メタデータの利活用のためにはDOI等の永続的識別子が重要な役割を果たすということが再認識できた。
本会議ではその他,以下に詳述するように,提供するサービスにおいてメタデータがどのような役割を果たすか,どのようなメタデータが望ましいか,という観点からの講演や取組の紹介が印象的であった。
基調講演では,米国のジョンズ・ホプキンス大学図書館のチョードリー(G. Sayeed Choudhury)氏が,今後のメタデータの役割は何かというテーマを取り上げた。この講演では,現在スマートフォン等に搭載されているAIアシスタントにその一端が垣間見える,人間社会にある全ての概念をセマンティックに機械可読な形で結び付けるオープンナレッジネットワークについて語られた。将来的な情報インフラとして期待されるこのオープンナレッジネットワークにおいてメタデータは情報の解釈に役立つのか,それとも情報の解釈等の処理は即時に行われるため事前に処理を行うメタデータは不要なのかという問題提起がなされた。そして,メタデータを扱う機関が,今後メタデータが果たし得る役割について認識を深める必要があることが示された。
特別セッションでは,メタデータの果たす役割とは何かという問いへの回答を提示する試みとして,英国王立芸術協会のクラーク(David N. Clarke)氏による「ポスト真実情報時代:メタデータコミュニティの応答を考える」(The Post-Truth Information Age: Developing a Metadata Community Response)と題した講演及びそれを受けた討論が行われた。「ポスト真実」とは,世論が形成される際に客観的な事実よりも感情や個人的信条が影響力を持つことである。インターネットの普及により,ニュース報道や一般的な情報の主な出処は,図書館等に所蔵されている資料から,検索エンジンやソーシャルメディアのコンテンツに変化し,ユーザーは情報の信頼性について気にしなくなってきた。事実と意見の区別もより難しくなってきている。また,検索エンジン等ではユーザーの関心や特性に最適化したフィルターがかかっており,ユーザーは気付かないうちに自らの思考・志向に合う情報の中に閉じこもり,新しい意見や反対意見と出会う機会が少なくなっている。更に,プロパガンダを生成するロボットが人間の言説や実際の選挙にまで影響を及ぼすようにもなっている。このような状況において情報組織化コミュニティは何ができるのか,とクラーク氏は問いかけた。
これに対し,聴衆からは,誰もが自分の願望・信念を支持する情報を重視し,反証となる情報を軽視・排除する傾向を持つことを意識することが必要だという意見や,情報リテラシー育成のために図書館等の情報組織化コミュニティが情報の扱い方を教えることも必要だが,情報技術を扱う技術者側が,自分たちがどのような影響を及ぼし得るものを開発しているのかということに自覚的であることも重要ではないか,という意見等が挙がった。
また,ユーザーがどのようなメタデータを望ましいと考えているかという観点を意識した取組の報告として,米国のブラウン大学図書館が,学生が既存の検索インターフェースに縛られずに,図書を発見・認識・選択するために必要なものとして挙げた情報と,実際に図書館のオンライン目録で使われているMARCレコードを比較するパイロット調査の紹介を行った。調査の結果,ユーザーが挙げた情報はMARCレコードよりも書誌項目の種類は少ないが,図書のコンテキスト情報,例えば,この図書は古典的作品であるとか,頻繁に引用されるといった,その図書がどのように利用されているかという情報を含めることが多いという結果が出たとのことである。
今回の会議をとおして,海外の機関では利活用される時のことを考えた上で,メタデータに関する取組を進めているという印象を受けた。また,コンテンツや情報の流通可能性を高めること,機械や人間が情報を処理する際に役立つこと,あるいはユーザーのニーズに応えること等,コンテンツの記述という観点だけでないメタデータのあり方を更に考慮する必要があることが感じられた。
2018年の会議は,9月10日から13日までポルトガルのポルトで開催される予定である。
電子情報部電子情報流通課・安松沙保
Ref:
http://dcevents.dublincore.org/IntConf/dc-2017
http://dcevents.dublincore.org/IntConf/dc-2017/schedConf/presentations
http://dcevents.dublincore.org/IntConf/dc-2017/paper/view/485/605
https://japanlinkcenter.org/top/
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/dlib/cooperation/doi.html
http://dcevents.dublincore.org/IntConf/dc-2017/paper/view/526/648
http://dcevents.dublincore.org/IntConf/dc-2017/paper/view/525/626
http://dcevents.dublincore.org/IntConf/dc-2017/paper/view/510/616
http://www.dublincore.org/news/2018/2018_01_06_dc-2018_announcement/
E1868
E1950