E2074 – ダブリンコアとメタデータの応用に関する国際会議(DC-2018)

カレントアウェアネス-E

No.357 2018.11.08

 

 E2074

ダブリンコアとメタデータの応用に関する国際会議(DC-2018)

 

 2018年9月10日から13日まで,ポルトガルのポルトにおいて「2018年ダブリンコアとメタデータの応用に関する国際会議(DC-2018)」(E1995ほか参照)が開催された。

 今年度の会議は,第22回電子図書館の理論と実践会議(TPDL 2018)と併催で,「オープンナレッジのためのオープンメタデータ」(Open Metadata for Open Knowledge)というテーマで開催され,約150人が参加した。筆者は,国立国会図書館(NDL)におけるメタデータ(書誌情報等)やデジタル化した所蔵資料等を含むデータの提供及び,イベント等を通じた提供データの利活用促進のための取組について発表した。発表後に寄せられた意見から,海外においても図書館がデータを提供していること自体が一般に認知されていないことや,利活用事例の捕捉が難しいといった課題を共有することができた。以下,本会議で報告された取組の中で筆者の印象に残ったものについて紹介する。

 基調講演のうち,国際食料政策研究所のデヴァレ(Medha Devare)氏は,貧困削減,食と栄養の安全保障等を目標とした農業研究を行っている国際農業研究協議グループ(CGIAR)の取組を紹介した。CGIAR及びその傘下にある15の研究センターでは,研究成果として生み出されたデータのオープン化だけでなくFAIR原則(E2052参照)を重視している。例えば,研究成果物データのメタデータを記述する際に,ダブリンコアに基づいて作られたCGIAR共通のメタデータスキーマや農業分野の標準語彙を使用することで,データの相互運用性を確保している。また,各データの権利状態を表示し,データを統合・分析する機能も備えたデータポータル“GARDIAN”に掲載することによって,データへのアクセスを容易にし,再利用の可能性も高めている。デヴァレ氏は,このようにデータをオープンにし,FAIR原則を満たすことで,研究成果として生み出されたデータが社会における課題解決につながることを提起した。

 大学が既存のオープンナレッジのプロジェクトを使って研究成果を広く発信する取組も紹介された。米国インディアナ大学-パデュー大学インディアナポリス校(IUPUI)図書館の発表では,同大学に所属する研究者の著作,共著者や参考文献を,構造化されたデータのナレッジベースであるWikidata上のアイテムとして作成し,Scholiaというウェブアプリケーションを使って研究者情報を表示するプロジェクトが報告された。この取組を通して,大学の研究成果を世界的に共有するとともに,研究成果物の価値をより理解してもらうことを意図しているとのことである。

 その他に,データの利活用やそれを支援する取組に関する報告もあった。人文・社会科学研究におけるアーカイブされたウェブサイトの活用をテーマとしたワークショップでは,ある事件に関して,アーカイブされた個人のブログ記事等を使って分析する等の研究の可能性が示された。また,大学図書館等の学術図書館は,研究者に対して,アーカイブされたウェブサイトを研究に利用するための研修の実施やツールの提供という支援ができるのではないかという意見も出された。米国ロスアラモス国立研究所のクライン(Martin Klein)氏の基調講演では,研究成果への長期的なアクセスを保障するための「学術孤児プロジェクト(Scholarly Orphans Project)」が紹介された。このプロジェクトでは,従来の研究出版システムの外にあるGitHub等のウェブプラットフォーム上で公開された研究成果物を,ウェブアーカイブの手法を参考にして自動的にアーカイブするとともに,研究者の所属機関がそれらの研究成果物を把握できるようにすることを目指しているとのことである。

 オープンな形で提供されたデータが社会に与えるインパクトについて焦点を当てた話題提供もなされた。ギリシャ・アテネ大学のマノーラ(Natalia Manola)氏による基調講演では,オープンサイエンスが進展する一方で,研究成果が社会に与えたインパクトを評価する方法はいまだ明確ではないことが指摘された。そこで,欧州連合(EU)が助成した研究成果をオープンアクセス(OA)で提供するリポジトリの連携プロジェクトOpenAIREと,ビッグデータ等を活用して健康に関する研究の効果を評価するプロジェクトData4Impactで協働し,テキストマイニングや機械学習等の手法を用いて,研究の社会的インパクトを測ろうという取組がなされているということである。講演に対して聴衆からは,オープンサイエンスに貢献するようなメタデータ構築を行う必要もあるだろうという声も聞かれた。

 このように今年の会議では,提供形式や方法を工夫したり,再利用性を高めたりして,メタデータや研究成果物等のデータをオープンにするための取組が報告された。参加者からは,データをオープンにするということは,データが利用され,社会に還元されるための手段であるという意識が強く感じられた。提供したデータが社会においてどのような役割を果たし得るか考えることは,データを保持する機関として重要であるということが認識できた。

 来年度の会議は,韓国のソウル特別市で開催される予定である。

電子情報部電子情報流通課・安松沙保

Ref:
http://dublincore.org/conference/2018/
http://dcevents.dublincore.org/IntConf/dc-2018/schedConf/presentations
http://dcevents.dublincore.org/IntConf/dc-2018/paper/view/530/699
http://dcevents.dublincore.org/IntConf/dc-2018/paper/view/591/835
https://www.cgiar.org/
http://hdl.handle.net/20.500.11766/4764
http://gardian.bigdata.cgiar.org
http://dcevents.dublincore.org/IntConf/dc-2018/paper/view/539/705
https://www.wikidata.org/
https://tools.wmflabs.org/scholia/
https://sobre.arquivo.pt/en/slides-and-photos-of-web-archiving-events-at-tpdl2018-2/
http://dcevents.dublincore.org/IntConf/dc-2018/paper/view/595/793
http://dcevents.dublincore.org/IntConf/dc-2018/paper/view/593/837
https://www.openaire.eu/
http://www.data4impact.eu/
http://www.dublincore.org/news/2018/2018_09_17-successful-conference/
E1995
E2052