E1811 – 羽入佐和子国立国会図書館新館長インタビュー

カレントアウェアネス-E

No.305 2016.06.16

 

 E1811

羽入佐和子国立国会図書館新館長インタビュー

 

 国立国会図書館(NDL)の大滝則忠館長が2016年3月31日付けで退任し,翌4月1日付けで羽入佐和子が第16代の館長に就任した。これまでの経歴やNDLへの印象,これからのNDLや図書館のあり方について羽入新館長にインタビューを行った。

――館長は哲学の研究者でもいらっしゃいますが,研究者となるまでについてお聞かせください。

 教育熱心で自由な雰囲気の家庭に育ちました。当時はまだ女性の大学への進学率が一桁程度でしたが,女子にも高等教育を受けさせるというのが両親の考え方でした。大学に入るまでは,どちらかというと理系分野,特に宇宙やコンピューター,ロボットなどに興味をもっていました。大学はお茶の水女子大学(以下お茶大)に進学して哲学を専攻したのですが,今で言うAI(人工知能)と人とはどう違うのだろう?人間とは何か?といったことに関心を抱いていました。

 学部生の頃は特に研究者になるつもりはありませんでしたが,それでも研究の道に進んだのは,自分の研究テーマを深めたくなったのと同時に,将来を確定しないことへの魅力もあったような気がします。就職すると先が見えてしまいそうで。

――お茶大の附属図書館長,学長を歴任されましたが,印象に残っている取り組みをお聞かせください。

 2005年に図書館長に就任した当初,学内の先生方からの附属図書館の評価がとても低いという話を聞きました。大学の附属図書館は大学の顔でもあると考えていましたので,図書館をアピールしようと,職員と相談しながら,まず附属図書館の理念をつくることにしました。半年ほどかけてできたのが,「お茶の水女子大学附属図書館は,時間と空間を超える知的交流の場であり,次世代の知を創造し発信する学術情報基盤として機能する。」という理念です。この文言を図書館の入り口に掲げました。

 図書館長を4年間務める中では一貫して,「共に学び,共に成長する」を1つのコンセプトにしていて,その具体化の1つがラーニングコモンズ(CA1804参照)でした。図書館が,共に学び共に成長するための人と人との出会いの場となるよう,少ない経費で附属図書館を全面改修しました。お茶大のラーニングコモンズは日本の国立大学では初の試みだったようです。

 2009年にお茶大の学長になったあとも「共に在ること」を基本的なコンセプトとして様々な取り組みを行ってきました。図書館に関係することでは,2014年度に,千葉大学,横浜国立大学とお茶大の三大学で紙媒体の雑誌のバックナンバーを対象とした共同分散保存を行うシェアード・プリントの協定を結んだことがその一例です。また,図書館を中心とした入試改革もあります。「新フンボルト入試」という言い方で注目された新たな入試制度で,高い評価をいただいてきた従来のお茶大独自のAO入試をいっそう充実させたものです。「深い」教養と「広い」専門性を身につけた人を育てるために,大学の教育に堪えうる伸びしろのある学生に入学してもらうことを目的として,文系志望者には図書館を活用してレポート作成やディスカッションなどを行い,理系志望者には実験室を活用する入試で,「図書館入試」(E1717参照)や「実験室入試」とも呼ばれています。

――利用者としてご覧になっていてNDLの印象はいかがでしたか?

 研究で利用するときに大学の図書館を介してNDLの資料を借りることが多くありました。東京本館を利用したことも何回かありますが,当時は入館するのに何時間も並ぶ時代でした。複写をお願いしたこともありましたが,必要な箇所を館内で筆写することもありました。一利用者としては,NDLは特別な図書館というイメージでした。

――これからのNDLや図書館についてどのようにお考えですか?

 NDLの最も重要な使命は,国会に奉仕する図書館として,国の将来を審議する国会の議論に資する資料や情報を提供することであると考えています。そのための資料・情報はできる限り正確で客観性の高いものであることが求められます。

 一般的には,図書館は単に資料を提供するだけでなく,ある種の文化的象徴でもあると思っています。そして図書館はそれぞれを特徴づける機能を担っています。例えば,公共図書館には公共サービスを提供する機能が期待されるでしょうし,大学図書館は,学びの場であると同時に,学術情報を提供し,研究成果を蓄積する役割も果たしています。NDLには,納本制度に象徴されるように,国民の文化的成果を収集し保存するという固有の使命もあります。今後は,NDLが果たすべき役割をさらに吟味し,強化してゆく必要があります。

 この点からも,長尾元館長が積極的に取り組んだ電子図書館機能は重要です。また,大滝前館長は,現在のNDLは,デジタル情報を収集,保存して利用できるようにしていく第二創業期にある(E1289参照)と表現しました。情報,コンテンツ,ネットワークのあり方が大きく変化する中で,新たな状況に対応するためには,NDLが収集すべき資料・情報とは何か,収集した情報をどのように分類し整え,どのように提供するのか,など,考えるべきことが多くあります。このような課題に対処するためには,これまでとは異なる発想が必要です。

――新館長としての抱負をお聞かせください。

 NDLは2018年に開館70周年を迎えますが,さらにその先の開館100周年を見据えた長期的な構想を職員とともに描いておきたいと考えています。そのためにも,NDLを多くの皆様にいっそうご理解いただけるように努めてまいります。

――最後に図書館界に対するメッセージをお願いします。

 様々な性格,機能を有する図書館がそれぞれの特色を活かしながら,共に文化の基盤を担い発展させていくことができればと考えています。

 これまでのNDLへのご協力とご理解とご支援に心から感謝申し上げますとともに,これからもどうぞよろしくお願い申し上げます。

 読者の皆様にも日頃のご支援に感謝申し上げます。NDLがその使命を十分に果たすことができますように努めてまいりますので,引き続きカレントアウェアネスにご関心をお寄せいただけましたら幸いです。

編集・聞き手:関西館図書館協力課調査情報係

Ref:
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/greetings.html
E1717
E1289
CA1804