カレントアウェアネス-E
No.214 2012.04.26
E1289
大滝則忠国立国会図書館新館長インタビュー
2012年3月31日付けで国立国会図書館(NDL)の長尾真館長が退任し,翌4月1日付けで大滝則忠新館長が第15代目の館長に就任した。NDLの元職員が館長となるのは初となる。長尾前館長の後を継ぎ,これからどのようにNDLを運営していこうと考えているのか。いまの想いについて大滝館長にインタビューを行った。
●大滝館長のこれまでの経歴についてお聞かせください。
山形の山村の農家の次男坊として生まれ育ちましたが,高校に進学した米沢での下宿時代から図書館の利用が始まりました。没頭した高校新聞クラブ活動を通じて,表現することや活字への強い関心が生まれました。大学では法律学を専攻し,NDLには本館が全館開館した1968年に入館,2004年末に退職するまで36年間勤務しました。
NDLでは20歳代に図書館員として一から鍛えられました。NDLには豊富な資料があり,資料を求める問題意識の高い厳しい利用者が存在しますが,仕事を通じて資料と利用者に鍛えられ,かつ経験豊かな先輩・同僚から学ぶことのできる素晴らしい環境があります。30歳のとき,ニューヨークにあるコロンビア大学東アジア図書館へ出向し,アメリカの第一線の大学図書館で仕事する貴重な2年間を経験することができました。そのようにして,図書館員が一生の仕事と定まりました。帰国後はレファレンス部門に4年余を在籍したものの,ほとんどがサービスの第一線よりも裏方,特に企画部門の仕事に長く携わりました。裏方の仕事の持ち場から,NDLのあり方について考え続け,それを世間に訴え続ける役目も担いました。
一番思い出に残る仕事は,関西館の構想から実現までのさまざまな時期に,一貫して関わることができたことです。構想の初期から,予算折衝,そして施設と機能の具体化の各段階で,企画,会計,関西館準備室に持ち場を与えられ,実際の開館時には総務部長として仕事しました。関西館,国際子ども図書館,電子図書館の3大プロジェクトを通じて,施設の拡大をそれだけにとどめず,同時に達成すべき新しい機能を構想し,それを実現できるように館をあげて取り組むという,熱気ある時代を経験することができました。
退職後は東京農業大学の司書養成課程の教員として6年間勤めました。教員になったのは,もっと図書館のことを勉強したい,図書館の可能性を学生に伝えたいと思ったからです。生涯学習時代における図書館経営や図書館員となって以来の発禁本のテーマについて研究を行いながら,一利用者としてNDLも利用していました。デジタル化された画像では資料に押された朱色の受入印が見えづらい点など,利用者の視点からNDLのサービスの不十分さに気づくこともありましたが,同時に,どんな研究テーマでも無料で自由に利用できるNDLの社会的意義や頼もしさを感じていました。
●日本の図書館界の現状についてどう捉えていらっしゃいますか?
さまざまな変革の中で,非常に苦しんでいると思います。財政的な基盤の確保が課題となり,図書館の機能のあり方が問われています。特に,財政的基盤の弱体化により,専門職としての図書館員の仕事を継承していくシステムを維持することが難しくなってきています。このような状況の中で,NDL職員が仕事を通じて蓄積できているノウハウを広く伝える研修機会を充実することなどは特に期待されていると思います。
利用者も変化しています。情報社会において単に通信手段が増えたというだけではなく,人間の思考自体が変わってきているのではないでしょうか。図書館はこれまで情報を集め,利用者が図書館に足を運ぶことを待っていました。いまは,知りたいことがインターネット検索で解決できてしまうという時代になっており,図書館は,いわば情報アクセスの競争社会の中に存在しています。かつての利用者は資料の書誌情報や所在を知るだけでも満足していただけましたが,いまは資料の内容まで提供されないと満足していただけません。著作権等の問題はありますが,リモートアクセスをどこまで可能にしていけるか,社会的なコンセンサス作りに取り組みながら進めていきたいと思います。図書館は,気概を持って,図書館ならではのサービスを提供していく必要があります。
●新館長としての抱負についてお聞かせください。
私は関西館と国際子ども図書館の開館が実現し,それに伴った東京本館のリニューアル開館と,それらを機に導入した館全体にわたる大型基盤システムが順調に稼働したことを見届けて,退職しました。関西館開館10周年という節目の年に就任し,これからの中長期のNDLのあり方を改めて捉え直す時期に再びNDLで仕事するという巡り合わせに,大きな意義を感じています。
NDLの歴史はおおよそ20年ごとに区切ることができます。創設から1968年の本館全館開館までの第一期=創業期,1986年の新館開館までの第二期=発展期,関西館と国際子ども図書館が開館し,それに伴って東京本館がリニューアル開館した2004年までの第三期=変革期,そしていまは続く第四期の半ばにあたります。第四期はこれまでのサービス計画を着実に定着させる成熟期であり,それと同時に,新たにデジタル情報を収集して保存して利用できるようにしていく第二創業期であるといえます。デジタル時代において再び創設時のような苦しみがあります。電子図書館の研究者などの経歴を背景として卓越したリーダーシップを発揮された長尾前館長の路線を継承しながら,新しく取り組むべきことに挑戦していきたいと考えています。
後を継ぐものとしてひとつ思うことがあります。ランガナタンの有名な第5法則「図書館は成長する有機体である」に関連して,「ミツバチの精神」という話が出てきます。これを私流に解釈しますと,図書館の仕事の本質に関わることとして,かけがえのない資料を多くのひとの手で後世の利用のために伝えていくという「継続性」と,ときどきの達成感や誇りを皆で共有するという「無名性」のもとで社会的な使命が達成されるということです。ミツバチの世界とは違って図書館の仕事は強烈な個性を持つ図書館員によって担われていますが,それぞれの個性を職場でぶつけ合いながら,共通の目標である利用者のために何を為すべきかを追求する営みが行われるのだと思います。
NDLがよって立つ原点と果たすべき使命は国立国会図書館法に示されています。議会図書館であると同時に国立図書館として,使命とするサービスの向上のために,愚直に取り組んでいきたいと考えています。
●最後に図書館界に対するメッセージをお願いします。
多様な利用者のニーズに応えて,図書館ならではのサービスを提供し,利用者からの信頼を得ていくためには,図書館界で館種を超えた横の協力連携が一層強まることが不可欠です。NDLもその協力連携の第一線に積極的に参画して努力します。
カレントアウェアネス・ポータルの読者の皆様からのNDLに対するご指導ご支援を引き続きよろしくお願い申し上げます。
(関西館図書館協力課調査情報係)