E2263 – 吉永元信国立国会図書館新館長インタビュー

カレントアウェアネス-E

No.391 2020.05.28

 

 E2263

吉永元信国立国会図書館新館長インタビュー

編集・聞き手:関西館図書館協力課調査情報係

 

   2020年3月31日付けで国立国会図書館(NDL)の羽入佐和子館長(E1811参照)が退任し,翌4月1日付けで吉永元信新館長が第17代の館長に就任した。NDLの元職員が館長となるのは,第15代館長を務めた大滝則忠元館長(E1289参照)に続き二人目となる。今後どのようにNDLを運営していこうと考えているのか。いまの想いについて吉永館長にインタビューを行った。

――吉永館長のこれまでの経歴についてお聞かせください。

   兵庫県芦屋市生まれで,団塊の世代真っただ中です。幼少期にはまだ戦後が色濃く残っていましたが,高度経済成長の中で,戦後民主主義を最も重く受け止めた世代だと思います。ちなみに中学校の同窓に作家の村上春樹氏がおります。

   高校時代には図書館へは受験勉強のために毎日のように通いましたが,勉強する受験生が閲覧席の大半を占め,『中小都市における公共図書館の運営』(いわゆる『中小レポート』)が批判している「受験生のための図書館」という状態を肌で感じていました。その後,大学入学のため上京し政治学を専攻しました。当時は学生運動が盛んで講義があまり開かれず,卒業後の進路を考える上で,落ち着いて人生を送りたいという気持ちと,もう少し研究をしたいという気持ちがありました。そのような時に,NDLで働く大学の先輩から,NDLでは調査研究ができると聞いて興味を持ち,1973年から2011年に退職するまで38年間勤務しました。

   NDLではほぼ全部局を回りましたが,特に印象に残っているのは,総務部総務課で国会担当として,国会議員の方々にNDLの政策を説明する業務の一端を担ったことです。図書館にこのような仕事があったのかと目からうろこが落ちる思いでした。当時は関西館構想が最大の課題であり,その意義を説明して了承を得るという,政策実現のダイナミックな政治過程の末端に身を投じました。これが私のNDL生活における「プロジェクトX」となりました。その後,総務部会計課時代に,関西館及び国際子ども図書館の開館,電子図書館構想の策定という大事業に予算面から関わりました。いずれもプロジェクト全体を俯瞰的に捉えることが求められたため大変ではありましたが,とてもやりがいがありました。

   終業後や休日には,NDL東京本館の近くにある国立劇場によく通いました。特に昔から文楽に関心を持っており,ちょうど就職活動をしていた時期に文楽研修生の募集が始まり,NDL職員と文楽の太夫,どちらを目指すかで迷ったこともあります。今も義太夫節,端唄と三味線を生涯の趣味としております。

   2011年に退職した後は,大学からのお誘いもあり,長野県の信州豊南短期大学で司書養成課程の教員として9年間奉職しました。司書教育に力を入れている大学で,私も改めて図書館学・図書館情報学を一から復習する機会を得ました。司書資格を受講する学生は多く,人気の科目でした。しかし,資格取得者が夢見る公共図書館への就職は非常に狭き門で,現在の公共図書館を取り巻く厳しい環境を肌で感じた次第です。

――新型コロナウイルス感染症の感染拡大で国内外に様々な影響が広がる中でのご就任となりました。NDLも図書館サービスのかなりの部分を休止しました。現状についてのお考えをお聞かせください。

   4月の就任直後に,新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けて緊急事態宣言が発令されました。NDLでも,来館サービスや遠隔複写サービスを長期間休止せざるを得ず,利用者の皆様には多大なご迷惑をおかけしております。このサービス休止期間中に,論文作成等に不可欠な資料提供の再開を求める多くの声をお聞きし,NDLへの期待が肌で感じられ,改めてNDLの存在理由を再認識しています。まずは5月20日に遠隔複写サービスを再開することができましたが,皆様の声にお応えできるよう,引き続き来館サービス再開に向けて真摯に取り組んでまいります。

   新型コロナウイルス感染症の教訓として,図書館においては非来館型サービスの促進が改めて求められています。NDLでも資料のデジタル化を進めていますが,今後,国全体の知的財産戦略の中で電子図書館の意義を再認識する必要性が出てくることでしょう。

――新館長としての抱負をお聞かせください。

   近年の情報社会の進展は,情報提供の在り方そのものにも変化を迫っています。NDLだけで国民の皆様の情報要求に応えることは困難になっており,関係図書館,分野を超えた機関との協力連携が必須の段階にきていると思います。教員時代に,大学図書館や公共図書館の方から,図書館間貸出やデジタルコレクションを重宝している等の意見を実際に伺い,NDLは連携協力の要として,また,国単位のデジタルコレクション構築等で事業の中心を担える存在として期待されていることを実感しました。納本制度に裏打ちされたNDLの情報提供のみならず,国内外の図書館や博物館,美術館,文書館などの機関が提供する情報資源も含めて,統合的に利用できるサービスの実現に向けて取り組む必要性を強く感じています。デジタルアーカイブに関する国の分野横断統合ポータル「ジャパンサーチ」の構築(E2176参照),全国の図書館や学術研究機関等の資料を統合的に検索できる「国立国会図書館サーチ」の開発・運用をはじめとして,NDLは,これまでに様々な連携協力を進めており,今後もこのような取り組みを発展させていきたいと考えています。

   現在出版されている資料は,紙媒体と電子媒体とが共存する過渡的な段階にあります。電子書籍・電子雑誌への対応については,NDLは収集範囲を無償で技術的制限のないものに拡大しましたが,有償の電子書籍・電子雑誌の収集・保存等についても検討を進めてまいりたいと考えています。さらには,国立国会図書館法に規定された「真理がわれらを自由にする」という崇高な理念を達成するために,「知の継承」を担う文化財としての資料,情報をどう収集,組織化,保存,提供してゆくのかも課題です。羽入前館長が掲げたNDLの中期ビジョン「ユニバーサル・アクセス2020」で示されている,普遍的なサービスの提供,情報へのアクセスの保証という観点を引き継ぎながら,令和30(2048)年の開館100年を見据えて,職員及び国民の皆様とともにNDLの将来像を描いていきたいと考えています。

   そのためには,職務を担う人材育成も喫緊の課題です。NDLには国民の皆様への図書館サービス,立法補佐機能を果たすための国会サービスという二つの役割があります。それらの役割を果たすには職員の専門性が求められるため,職員研修のほか外部有識者をお招きしてのセミナー開催,海外留学制度など多様な育成制度を行っております。国際的にも変化の激しい社会にあって,職員の専門性と所蔵資料を活用した海外事情の調査はNDLの最も得意とするところであり,大いに伸ばしていきたいと考えています。

――最後に読者の方へのメッセージをお願いします。

   新型コロナウイルス感染拡大防止のためのサービス休止により,読者の皆様を含む利用者の方々に多大なご迷惑をおかけしている現状につき,改めてお詫び申し上げます。

   読者の皆様の日頃のご支援に感謝を申し上げるとともに,ますますのご支援,ご指導を引き続きよろしくお願い申し上げます。

Ref:
吉永元信. “館長挨拶”. 国立国会図書館. 2020-04.
https://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/greetings.html
国立国会図書館中期ビジョン「ユニバーサル・アクセス2020」及び「国立国会図書館 活動目標2017-2020」. 国立国会図書館.
https://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/vision2020.html
羽入佐和子国立国会図書館新館長インタビュー. カレントアウェアネス-E. 2016, (305), E1811.
https://current.ndl.go.jp/e1811
大滝則忠国立国会図書館新館長インタビュー. カレントアウェアネス-E. 2012, (214), E1289.
https://current.ndl.go.jp/e1289
電子情報部電子情報企画課次世代システム開発研究室. 国の分野横断統合ポータル ジャパンサーチ試験版公開後の動向. カレントアウェアネス-E. 2019, (376), E2176.
https://current.ndl.go.jp/e2176