E2253 – 「自主学習できる図書館」への沖縄県立図書館の取組

カレントアウェアネス-E

No.390 2020.05.14

 

 E2253

「自主学習できる図書館」への沖縄県立図書館の取組

沖縄県立図書館・垣花司(かきのはなつかさ)

 

   沖縄県立図書館では,これまで閲覧室での自主学習を認めていなかった。自主学習への対応を本格的に検討し始めたのは,ある出来事がきっかけである。当館は2018年12月に新館へ移転し(E2114参照),座席数は全体で約500席と,約2倍になった。さらにバスターミナルと商業施設との複合施設となったため,来館者が増加した。その増加のピークとして,2019年2月,一日の来館者が約7,000人を記録した日があった。その日は開館前に150人は下らない人数がエントランスホール入口前に待機し,開館時には職員の制止の声も聞かずになだれ込み,館内を走り回って座席を確保していく。まるでバーゲンセールかのような有り様に,本格的な対策を考えなければならないと職員一同が感じたのである。

   増加した来館者の大半が自主学習の場を求める学生であることから,近隣学校の試験日情報を収集し,学生の増える時期を予想した。自主学習者が増えることで発生する問題点は,読書や調査研究に利用できる座席が少なくなること,利用者のマナー違反(館内での食事,荷物を放置しての長時間離席など)が増加することの二つに大別された。

   前者への対策として,館内の空き座席が少なくなってきた際に,館内放送で座席を図書館資料利用者に譲るように促した。また,後者について,利用マナーを明文化し,原則館内では読書や資料を使った調査研究のために座席を設置していること等を盛り込んだ図書館利用のマナーアップチラシを作成した。チラシは各座席に一枚ずつ掲示し,併せてカウンター業務委託先の図書館流通センター(TRC)と協力して館内の見回りも行った。しかし,マナー違反は続出し,大きな改善には至らなかった。これらの問題は近隣学校の試験期間に集中的に発生することは確かであり,年末から2月の間には期末試験やセンター試験などの試験が集中し,冒頭の出来事が再度発生するのではないかと強く懸念された。よって,自主学習に対する,より進んだ対策を行うこととした。

   自主学習を「図書館の資料を用いない学習活動」と定義し,まずは,自主学習を容認するのかどうかを検討した。容認する場合,自主学習場所として多くの県民が図書館を利用することにつながるが,上記のような問題が発生する。逆に容認しなければ,静かな図書館になるかもしれないが,自主学習者の退館要請などを考えることになる。当館は那覇市の中心部に位置し,学生のみならず,ビジネスパーソンの利用者も多い。自主学習は学生に限らず社会人もいることを考えると,自主学習禁止はデメリットが大きいと思われた。また,当館へ自主学習ができる環境を求める意見が多く寄せられていることや,旧館と比べて座席数が2倍となって比較的座席に余裕があることを総合し,容認することによるメリットをいかすべきだと結論された。これは,当館の方針「県民が気軽に利用でき,県民の多様なニーズに応える図書館」にも沿うものであった。一方で,自主学習容認による問題への対応も必要なため,試行的な実施として,対策案を練ることとなった。

   当館フロアには,自主学習を前提とした部屋が無かったため,フロア内の座席の一部を自主学習可能席として設定することとした。すでに示したとおり,読書席が無くなることが問題点とされていたため,館内全ての座席を自主学習可能席含めて5つに分けた。そのうち,読書・調査研究席を252席,自主学習可能席を117席,ビジネスエリア席に65席,新聞・雑誌閲覧席27席,ワラビンチャー席(子ども席)45席を設定した。各座席は読書・調査研究ができることを前提としている。あくまで当館は読書・調査研究のために座席を設置しているという前提を崩さず,自主学習活動などを付加的に可能とした。この座席設定に合わせ,一目でわかるように用途ごとに色を変えた座席札を作成し,それぞれの座席の背もたれなどに設置し,館内にはポスターや座席表を掲示することで周知を徹底した。

  この試行は,延長を含め2019年12月4日から2020年3月2日まで続いた。試行期間中は,もう一つの問題であったマナー違反への対策として,館内の見回りの強化と館内放送を行った。

   また,最も警戒した2月の試験期間に合わせて,通常セミナーなどで利用されている部屋を一部自習室として開放し,入館時に利用者を整列させるなどの対策を行った(実際には前年のような大人数の開館待機や駆け込みは起こらなかった)。その他,利用者へのお知らせとして,近隣学校の試験期間が重なることや来館者が多くなることを掲示し,周知を図った。

   試行の結果,前年に比較して落ち着いた図書館環境とすることができた。前年との大きな違いとして,職員の冷静な対応があげられる。これは,今年はどのような状況が発生しうるのか予想し,対策を共有し,対応マニュアルを作成していたことによるもので,スタッフ向けの対策を同時に行うことも重要であった。

   この期間のアンケートの結果,9割以上の利用者が図書館に自主学習できるスペースを求めていることがわかった。理由としては,「自宅では集中して勉強できず,飲食店では勉強が不可とされ,図書館しか勉強できる場所がない」「図書館は集中して勉強しやすい」という意見が大半であった。自主学習反対の意見としては,「学生のおしゃべりが目立つ」「読書のスペースが減る」などがあげられた。これらのアンケートからは他に,学生がグループで来館する傾向にあることがわかった。現在当館にはグループ学習を目的とした場所は特に用意されておらず,今後の課題とした。

   試行期間以降については,引き続いて試行を長期的に行う予定であったが,新型コロナウイルス感染拡大防止のため,図書館の利用制限を行っており,本稿執筆時点では試行は停止している。今回の試行により,課題等もより明確になってきており,今後は1年間を通して対応を練っていきたいと考えている。

Ref:
“図書館利用マナーについてお知らせ”. 沖縄県立図書館. 2019-02-13.
https://www.library.pref.okinawa.jp/notice/post-14.html
“12.4 自主学習可能席等の試行について”. 沖縄県立図書館. 2019-12-06.
https://www.library.pref.okinawa.jp/notice/124-1.html
“2.7(金)図書館座席の利用マナーについて”. 沖縄県立図書館. 2020-02-07.
https://www.library.pref.okinawa.jp/notice/27.html
垣花司. 新沖縄県立図書館のオープン. カレントアウェアネス-E. 2019, (365), E2114
https://current.ndl.go.jp/e2114