カレントアウェアネス-E
No.290 2015.10.15
E1717
お茶の水女子大学「図書館入試」実施に向けたプレゼミナール
◯「新フンボルト入試」とは
本学では,2017年度入学者を選抜する入試から,従来のAO入試を改革した「新フンボルト入試」を開始する。改革の目的は,潜在的な能力,とりわけ大学入学後の学びや社会に出た後に,その能力を大きく伸ばせる「のびしろ」を持った学生の選抜にあり,定員は現AO入試の2倍の20名となる。1810年のベルリン大学創立の立役者であり,潮木によれば「現場密着型の研究と教育の一体化を提唱」した,ヴィルヘルム・フォン・フンボルトに因んで命名された。一次選考を兼ねる文理共通のプレゼミナールと,二次選考(文系「図書館入試」,理系「実験室入試」)の二段構えで,単に知識の多寡を問うのではなく,「課題を探求・発見」し,「必要な資料やデータを活用」し,「オリジナルな解を導き出す」力を測定する。
図 新フンボルト入試全体図
2015年は試行的に8月24日,25日の2日間にわたりプレゼミナールを実施し,261名の参加があった。また,「図書館入試」の模擬体験となる「図書館情報検索演習」が2日目に実施され(午前・午後,各1回),88名が参加した。
◯図書館との関わり
「新フンボルト入試」は,文部科学省の「平成26年度大学教育再生プログラム(AP)」の「入試改革」プログラムとして採択された。APのテーマには,(1)アクティブラーニング,(2)学修成果の可視化,(3)入試改革・高大接続がある。
APへの応募に際して,当時の教育担当理事から「APとしての採否に関わらず実施したいと思っている。協力してほしい」という相談を受けた。提案書のコンセプトを見た時,「これは入試改革であると同時に,APのテーマ全ての要素が含まれている素晴らしい計画だ」と直感し,図書館が関わることに困難はあるものの,大きな魅力を感じた。そして,次の3つの理由から,当館を舞台にした入試を実現する素地は整いつつあり,実現できるだろうと考えた。
- 2007年のラーニングコモンズ設置以来,当館は学内の学習支援部署とのネットワークを築き,学びの場を提供してきた
- 当館は情報リテラシー教育に積極的に関与し,初年次教育における必修科目やゼミ単位のオーダーメイド講習会を実施してきた
- 当館内のTA(Teaching Assistant)相当の学習サポーターを,ICTリテラシー支援のLA(Learning Adviser)から,情報リテラシー全般を支援するLALA(Library Academic Learning Adviser)にリニューアルする計画が進行中だった
◯準備から実施まで
当館は,新しい仕事には機動的なプロジェクトグループで対応する伝統がある。今回は,学習研究支援,サービス,情報基盤の担当者を中心とする「図書館入試プロジェクトグループ」を結成し,情報基盤センターの全面的な協力を得て対応することとなった。入試推進室,AO入試室,入試課の教職員とのミーティングを重ね,内容や構成,規模の確認,それを実現するための方法や場所の検討を進めた。最も重要な論点の一つは,「本学図書館を自由に使う」ということを,どう実現するかであった。大学図書館が提供する情報はいまや物理的な図書館資料に留まらず,電子的資料,とりわけネットワーク上の情報を使うかどうかは,不正防止の観点や環境整備を行ううえで大きな課題となった。また,当館の配置や使用する機器への習熟度に対する公平性の担保という課題もあった。今回は,2016年の入試本番に向けて課題を洗い出す機会と位置付け,ネットワーク環境を含め,参加者には本学の学生と同様の環境を作るという方針を定め,5人1組の班にTA及び図書館職員を1名ずつ補助に付けるという体制で実施した。
「図書館情報検索演習」は,「課題の提示」「情報探索レクチャー」「レポート作成(情報探索・レポート執筆)」「グループディスカッション」という4つのプロセスで構成されている。「受験や合否に関わらず,これからの高校・大学での学びに資するお土産を持ち帰ってもらいたい」という入試推進室長の考えをもとに,「情報探索レクチャー」については,当館及び当館データベースの使い方の説明に留まらないよう,普遍性を意識した。理解を共有するため,国立大学図書館協会の「高等教育のための情報リテラシー基準」(E1712参照)を活用して内容と役割分担を確認できたのが,安心感に繋がった。
担当者説明会を2回実施し,図書館を臨時休館して万全な体制で臨んだ結果,心配されたトラブルもなく無事に実施できたのは,関係者の努力の賜物である。アンケート結果からは「図書館情報検索演習」への高い満足度が見られ,何より参加者が真剣かつ楽しそうに課題に取り組む姿を見られたのが,最大の喜びであった。
◯本番に向けて
2016年の入試本番に向け,現場からの発案で入試課,図書・情報課,情報基盤センターの担当者によるミーティングを密に実施することとなった。視察に入った外部評価委員から言われた「図書館にラーニングコモンズがあることの意義を初めて実感した」という言葉には,入試に限らず,今後の大学図書館のあり方へのヒントがあるように思う。
課題は多く,取り組みは始まったばかりだが,大学教育を活かし,大学教育の中で活きる図書館であり続けるための挑戦を,今後も続けていきたいと考えている。
お茶の水女子大学附属図書館・森いづみ
Ref:
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/kaikaku/ap/
http://www.ocha.ac.jp/news/h260822.html
http://www.ocha.ac.jp/event/20150713.html
http://www.ocha.ac.jp/news/h270918_1.html
http://www.janul.jp/j/projects/sftl/sftl201503b.pdf
https://www.facebook.com/ochadai/posts/980594878657900
http://ochadailisa.blog32.fc2.com/blog-entry-1037.html
http://www.janu.jp/report/files/janu_vol37.pdf
http://www.shinken-ad.co.jp/between/backnumber/pdf/2015_6_tokushu08.pdf
http://kyoiku.yomiuri.co.jp/torikumi/jitsuryoku/iken/contents/post-417.php
E1712
潮木守一. フンボルト理念の終焉? : 現代大学の新次元. 東信堂, 2008.