カレントアウェアネス-E
No.290 2015.10.15
E1718
学校図書館プロジェクトSLiiiC “SWC2015”<報告>
学校図書館プロジェクトSLiiiC(スリック)は,学校図書館支援を目的とした任意団体である。ウェブサイトのユーザー登録者数は279 人で,Facebookのスタッフ用グループメンバー数は14人である(2015年9月28日現在)。SLiiiCは,もともと筑波大学大学院で図書館情報学を学ぶ学生たちが2006年に立ち上げた団体で,ウェブサイトでの学校図書館支援に関する各種情報提供や様々なイベントの企画運営を行っている。
SLiiiCのメインイベントは,毎年(2012年のみ不開催)行われているサマー・ワーク・キャンプ(以下SWC)である。SWCは当初はウェブサイトのコンテンツ充実と関係者の交流を目的としていたが,次第にテーマ性を持った研修会へと性質を変えていった。今年開催したSWC2015のテーマは,「学校図書館と生涯教育」とした。学校図書館が生涯教育という枠組みの中で果たす役割について,ともに考えようというものである。2015年9月12日と13日の2日間,東京都調布市の白百合女子大学を会場として,66人の参加者を得て,開催された。とくに今年は,白百合女子大学,都留文科大学,専修大学の3校の学生が参加し,初めて筑波大学院生以外の学生の企画運営による活動が行われたSWCとなった。以下2日間の内容を紹介する。
まず,1日目午前は,大田区立大森南図書館の高井陽氏の講演「学校図書館と公共図書館がつながるために」であった。自身の小学校図書館での体験から丁寧に辿り,学校司書のいる高校図書館で図書館を利用する喜びに目覚め,徐々に積極的に活動する場へと転じ,ついに公共図書館で働くに至った,という話は,学校司書の仕事の成果と,公共図書館への橋渡しの一例を聞いているようで,大変喜ばしいものであった。また,氏の発した「たくさん点を打て,いつか面になる」という“格言”は多彩な経験と幅広い交流から生まれたもので,司書としてだけでなく人生そのものを語る言葉として,多くの賛同者を得た。
続いて,1日目午後は,まず,都留文科大学情報センター准教授の日向良和氏による同学の図書館サークルLibropass(リブロパス)の紹介,次に白百合女子大学文学部共通科目講師の今井福司氏と同学の図書館のピアサポーターLiLiA(リリア)のメンバーによる活動紹介と全員参加のPOP作り,最後にLibropassメンバー主催の学生ビブリオバトルという,実に充実した内容であった。LiLiAメンバーは,大学図書館で利用案内や,冊子の発行などの活発な活動を行っている。また,Libropassは,図書館を題材にした講演やビブリオバトルなどのイベントを開催している。
正直なところ筆者は,大学図書館のサポート活動をする学生がいるということに,まず驚かされた。まるで学校図書館にとっての図書委員会活動のようである。そして日向氏の「今日報告することは,みなさん(学校司書)の取り組みの成果だと思ってほしい」という呼びかけは,学校図書館の大切な役割である学びや活動を大学や社会へとつなげていくことを肯定するもので,大変感激させられた。また,学生から発せられる真摯な言葉や切実な問いかけに,現職者から返答できる場面もたくさんあった。夜の懇親会でも引き続き,活発なやりとりが行われた。
2日目午前は専修大学小峰直史研究室による「ワールド・カフェで考えよう 学校図書館と生涯学習」であった。まずは,専修大学文学部教授の小峰直史氏より,カフェのようにリラックスできる環境の中でテーマに集中した話し合いを重ねることにより,多様なアイディアを結び付け,深い相互理解や新しい知識を生み出す「ワールド・カフェ」についての説明を受けた後,いよいよ学生からの問いかけと対話が始まった。「なぜこのワークショップに参加したのか」「学ぶとはどういうことか」「子どもたちが学び続けるために学校図書館ができることは何か」について,グループメンバーをかえながら,話し合いを重ねて,徐々に子どもたちの学び続ける力を育てるために,学校図書館は何ができるのか,というテーマに迫っていった。整然としながらエキサイティングでもある,すばらしい話し合いの場であった。
そして,2日目午後は一転して,「SLiiiCマーケット」という物販も行われるパーティとなった。学生や企業,学校司書などの出店する物販コーナーでは,科学遊びの本やグッズ,ユニークな図書館用品,チャリティ商品などを求める参加者で大いににぎわった。開催に当たって,複数企業の協力を得ることができたことに,心から感謝申し上げる。藤沢市学校司書の活動や,SLiiiCが取り組んでいる運営マニュアルプロジェクトの報告なども行われた。このプロジェクトは,各地で制作されている運営マニュアルを収集,分析しマニュアル作成時のガイドラインとモデルを模索するというものである。SLiiiCウェブサイトでそのつど経過や成果を報告している。
「学校図書館と生涯教育」という大きなテーマを掲げてはみたが,どこまでこのテーマに迫れるかは未知数であった。しかし,講師の方々の的確な導きと参加者の協力により,大変よい学びの場となったことは間違いない。大勢の学生と共に活動できたことは,SLiiiCの目指す「働き人と学び人の共創」の理想的なかたちでもあった。また,学校司書が,校種も館種も越えて,学生,研究者,企業人などとともに,学校図書館について真剣に話し合う場を演出できたことは,いち学校司書として一番の喜びである。当日のアンケートを見ても,大変満足度の高いイベントであったと自負している。
SWC2015の報告書は,デジタル図書の形でまとめてSLiiiCのウェブサイトで今後公開する予定である。詳細はそちらをご覧いただきたい。また,SWC2016の企画もすでに始動している。ぜひこれからも,SLiiiCの活動にご注目いただけたら幸いである。
学校図書館プロジェクトSLiiiC代表/杉並区立久我山小学校学校司書・横山寿美代
Ref:
http://www.sliiic.org/
http://sliiic.hatenablog.com/
http://www.shirayuri.ac.jp/lib/lilia/
https://www.facebook.com/libropass
http://www.jcross.com/plaza/tokatsu/post-19.html
http://www.senshu-u.ac.jp/sc_grsc/tasai/sempj/sempj_bz/bz0300.html
http://togetter.com/li/872034