カレントアウェアネス-E
No.356 2018.10.25
E2067
SLiiiCサマー・ワーク・キャンプ2018報告
任意団体である学校図書館プロジェクトSLiiiC(スリック)は,学校図書館関係者の交流や研鑽を目的としたイベントを随時開催している。過去,様々なテーマで,8月から9月にサマー・ワーク・キャンプ(以下「SWC」)と称する,学校図書館の枠にとらわれない切り口の研修会を何度も行ってきた(E1718参照)。しかし,2018年9月に行われたSWC2018は,そのような過去のSWCの中でも,とりわけユニークで実験的なものとなった。共催した相手は小劇場の劇団員たち,開催場所は新宿区歌舞伎町にあるミニシアター,そして開催資金を得るためにクラウドファンディングに再挑戦したのである。そのSWC2018のテーマは,「学校図書館関係者のパフォーマンス&コミュニケーション力の向上」である。
ここで,なぜこのようなテーマでSWCを行うこととなったのか,またなぜ劇団員たちとコラボレーションすることになったのかについて,説明したいと思う。学校図書館関係者の仕事は,実は「パフォーマンス&コミュニケーション力」が問われるものばかりである。読み聞かせや本の紹介,ブックトークなどの活動は,まさにパフォーマンスである。また,教員とのコミュニケーションが成り立っていなければ,彼らの意図をくんだ効果的な資料提供や授業貢献を行うことはできない。ところが,これらの力をつけることを目的とした研修はほとんど行われていない。それどころか,その学校図書館関係者自身が,これらの力の重要さをはっきりと認識していない。正しい発声や,わかりやすく伝えるためのテクニックは,確かに存在するのだが,これらは往々にしてないがしろにされている。
そこで,SLiiiCは,この「パフォーマンス&コミュニケーション力」に注目し,これらの向上の手立てを模索することにした。そのために選んだのが,劇団員から学ぶことと,グループ・ブックトーク(以下「GBT」)を研修の手段とするという2種類の方法である。劇場の隅々まで声を届かせ,伝えたいことを届ける劇団員から学ぶことは多い。そして,グループでテーマに沿った1人1冊ずつの本を,次の人に言葉で橋渡ししながら紹介していくGBTは,児童生徒が取り組むだけでなく,学校図書館関係者自身で取り組んでも,大いに有効ではないだろうか。幸い,新進気鋭の劇団である「劇団フェリーちゃん」が協力してくださることになった。そして,学校図書館を題材とした新作劇を上演する,というアイデアも生まれた。学校図書館を取り巻く問題点を世に問いつつも,観ている学校図書館関係者たちが元気になるような,そんな劇を作ろうということになったのである。そこで,資金を得るためのクラウドファンディングReadyforへの挑戦と同時に,GBTの可能性を探り,学校図書館関係者の本音を聞き出すプレイベント「SWC2018への道」を計4回開催した。参加者に実際にGBT作りや発表を体験してもらい,その中からGBTの手法や要件を洗い出していった。また,参加者の活動する様子やアンケートから,研修の手法としてのGBTの可能性が見えてきた。そして,学校図書館を取り巻く問題点を多く聞かせてもらったことが,新作劇を作りあげるために大いに役立った。また,大変有難いことに,多くの方々の支援を受けることができて,クラウドファンディングは無事成立した。
SWC2018は,9月15・16日,「新宿シアター・ミラクル」で計52人の参加を得て行われた。まずは,劇団代表のなにわえわみさんによるボイストレーニングである。ミニシアターの客席で大勢が,体を曲げたり伸ばしたりしながら発声する様は実に壮観であった。続いてSLiiiCより「3分間でわかる学校図書館」と題したフリップ式説明,さらに,GBTのSLiiiC版定義や要件等の発表と,擬似GBT実演(ぬいぐるみのかえるたちがGBTをやっているという形)の後,参加者にGBT作りの一端を体験してもらうワークショップを行った。その場で組んでもらった3人から6人程度のグループで,渡された複数冊の絵本の共通テーマを考えるというものである。学校図書館関係者でない人たちも混ざっていたが,全員実に楽しそうに取り組んでおり,全グループが時間内に発表できた。
そして,いよいよお待ちかねの劇団員による新作劇の上演である。『新涼灯火の司書物語。』という30分の劇で,ある中学校図書館に集まってGBTの練習に励む4人(学校司書も,司書教諭も,大学院生もいる)が出てくる。しかし,そこには1人の少女(中学生?)も加わっているようなのだが…という,ファンタジックでありながらも,厳しい職場環境や研修機会の少なさなどの,学校図書館にある現実が確実に浮き彫りになってくる劇で,観客の笑いと涙と感動を誘っていた。参加者からも,肯定的で絶賛する声が多く届いている。なお,劇団員たちはこの劇のために,本当にGBTを1本組み立てた。彼女らの学校図書館劇への本気度がわかろうというものである。
身体的なスキルの重要さや,GBTという具体的な手法の提示を,大勢の参加者に行うことができたことで,SWC2018の目的はある程度達せられた。また,新作劇の作成と上演は,これからの研修のあり方に一石を投じることができたと考えている。SWC2018のまとめや総括は,今後SLiiiCサイトでも行っていく予定である。GBTの可能性も引き続き探っていく。また,当日は株式会社ブレインテックが取材をしてくださった。運営サイトJcrossで今後記事が掲載される予定である。こちらもぜひご覧いただきたい。
学校図書館プロジェクトSLiiiC/杉並区立久我山小学校・横山寿美代
Ref:
https://readyfor.jp/projects/sliiicswc2018/accomplish_report
https://www.facebook.com/sliiic/
http://gekidanfelichan.wixsite.com/myship
http://www.sliiic.org/swc/swc2018/
https://www.jcross.com/
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