E2066 – 新発田市立歴史図書館の開館について

カレントアウェアネス-E

No.356 2018.10.25

 

 E2066

新発田市立歴史図書館の開館について

 

   新発田市立図書館(以下「市立図書館」)は1929年に当市出身の実業家,坪川洹平氏の寄贈により「新発田町立図書館」として開館した。新潟県の北部に位置する新発田は,初代藩主溝口秀勝が1598年に領地を与えられて以来廃藩置県まで,一貫して溝口氏の城下町であった。開館以来,旧藩主溝口家をはじめ,旧藩士家から多くの古文書や典籍等の歴史資料が市立図書館に寄贈されたことから,貴重な近世資料も閲覧できる特色を併せ持つ図書館として活動してきた。

   2013年9月に策定された「新発田市中心市街地活性化基本計画」及び「新発田駅前複合施設整備基本方針」に基づき,1984年に建設された既存の市立図書館の一般室・児童室・分館支援機能を新発田駅前複合施設内へ移設する構想が立ち上がった。市立図書館の既存施設は古文書の収蔵スペースが飽和状態であり,市内各施設に分散配置されている課題を抱えていた。この課題解消のため,そして前出の特色や新発田城の近くに位置することから,歴史・文化ゾーンに組み入れられ,新たに歴史図書館として,まちづくり整備が進められることになった。2016年7月,新発田駅前複合施設内に新発田市立中央図書館,そして2018年7月7日,新発田市立歴史図書館(以下「歴史図書館」)がそれぞれ開館することとなった。

●歴史図書館の基本方針と施策の方針

    歴史図書館は,2016年3月に策定した「郷土の歴史や文化を大切にする図書館」という「新発田市立図書館基本方針」をもとに,次の3つの施策の方針を立てている。

1 未来へ向けた新発田市の歴史の継承
2 新発田市の歴史や郷土についての学びと発表の場と整備
3 歴史で繋がるコミュニティと賑わいの創出

   「1」については,新発田藩領と新発田市域を対象に古文書や絵図等のほか,写真,ビデオ等の映像資料や録音テープ等の音声資料も歴史資料として収集,保存,公開するとともに,地域の歴史に関する図書や参考文献の充実を図ることで歴史を未来に継承していくこととしている。「2」は,新発田の歴史に関心を持って訪れた方々の意欲に応えられるために,収集した資料や情報の自由な閲覧を可能とし,専門職員によるレファレンスの強化を目指している。また新発田で学ぶ子どもたちの郷土愛を育む施設とするため,子どもたちに向けた企画も充実させていくものである。「3」は,地域を知る楽しみによって形成される交流コミュニティと賑わいの創出を目的とし,さまざまなイベントを企画するとともに,市民の多様な歴史学習,歴史研究活動を支援していくこととしている。

●ハード面の整備について

    2016年6月に策定した「新発田市立歴史図書館整備計画」をベースとした実施設計を経て,2017年には歴史図書館へのリニューアル工事を行った。

   1階は来館者が新発田の歴史と触れ合うスペースとして児童閲覧室を展示室に改修し,博物館等で使用される気密性の高い展示ケースも設置した。ロビーには,ガイダンス映像コーナーを設け,新発田市と新発田藩領の歴史に関する映像番組を5本放映している。この番組は制作を業者に委託したが,画像の多くは所蔵資料を用い,脚本と外部画像資料の手配は職員が担当し,開館準備中に完成させたものである。2階は,来館者が新発田の歴史を深く知るスペースで,既存の書架を再配置し,歴史資料・郷土資料の収蔵,公開,閲覧の場とした。各種データベースによる検索にも対応するため,「デジタルアーカイブズコーナー」を新たに設けた。また,所蔵資料を用いた研究会等が開催できるように会議室を3階から移設している。3階は歴史資料を保存し,未来に伝えるスペースで,新発田藩政史料等の貴重な原本収蔵のためのフロアとして,会議室を特別収蔵庫にする改修工事を行った。この特別収蔵庫は調湿性能と,酸・アルカリ吸着性能を持った特殊建材を用い,新たに設置した専用の空調機と併せて,紙媒体の保存基準である温度22℃,湿度55%を維持することが可能となった。

   そして,今回の改修工事では,BDS(ブックディテクションシステム)を導入した。これは市民の資産である所蔵図書資料にICタグを貼付することで,資料の紛失を防ぐとともに,蔵書管理の効率化による利用者の利便性向上を目的としたものである。

●MLA(Museum,Library,Archive)連携について

    歴史図書館は1階の展示機能に加えて,2階は図書館業務のほか古文書の閲覧請求にも対応していることから,一館でMLA要素を持った全国的にも珍しい施設となった。市立図書館の時代から新潟県内の博物館や新潟県立文書館と連携してきたが,この度の開館を機にこのMLA連携を一層密にしていき,地域の歴史を知るためにポータル的役割を果たしていきたい。また大学(University),産業界(Industry)を含めたMALUI連携も進めたいと考える。その取り組みの最初として,歴史図書館の開館に合わせて,新潟大学が運営するMALUI連携による統合型データベース「にいがた MALUI連携地域データベース」に参加し,当館で新潟大学所蔵のデジタル化資料及び新潟県立図書館の郷土新聞画像データベースの閲覧が可能になった。
 

●おわりに

    地域の記憶装置の役割を担いながら,地域の歴史や文化を学ぶ方々に身近で頼りになる図書館になるよう職員一同精進していきたい。

新発田市立歴史図書館・田村豊

Ref:
http://www.histlib-shibata.jp/
http://www.city.shibata.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/007/620/0702-0409.pdf
http://www.city.shibata.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/007/620/0702-01.pdf
http://www.city.shibata.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/001/853/1001853_0_1001853_1.pdf
http://www.city.shibata.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/002/144/1002144_0_ekimaeseibihoushinzenpen.pdf
http://www.lib-shibata.jp/
http://www.lib-shibata.jp/policy.pdf
http://www.lib-shibata.jp/adiary/public/image/topics/201612/歴史図書館整備計画.pdf
http://arc.human.niigata-u.ac.jp/malui/