E1712 – 『高等教育のための情報リテラシー基準2015年版』活用法

カレントアウェアネス-E

No.289 2015.10.01

 

 E1712

『高等教育のための情報リテラシー基準2015年版』活用法

 

◯『高等教育のための情報リテラシー基準2015年版』策定の経緯
 国立大学図書館協会教育学習支援検討特別委員会は,2015年3月に『高等教育のための情報リテラシー基準2015年版』(以下『情報リテラシー基準』)を取りまとめた。当委員会は,大学図書館における教育機能の強化が求められている中,「大学図書館における教育学習支援機能充実のための諸方策についての調査研究を行う」ことを目的に2012年に設置された。「教育課程と連携した教育学習支援」及び「先行大学における実践事例とその普遍化」をテーマとし,大学図書館において具体的な課題となっている「情報リテラシー教育」と「ラーニング・コモンズ」に焦点をあてて検討を行ってきた。その成果が『情報リテラシー基準』と「ラーニング・コモンズの在り方に関する提言 実践事例普遍化小委員会報告」(E1713参照)である。

◯『高等教育のための情報リテラシー基準2015年版』の概要
 大学教育の場で能動的学習(アクティブラーニング)を進めるためには,ラーニング・コモンズという「場」の整備とともに,学生が身に付けるべき汎用的技能である情報リテラシーの育成が欠かせない。当委員会は「情報リテラシー」を「高等教育の学びの場において必要と考えられる情報活用能力」として定義し,学問分野に依存しない一般化したものとして,文献情報を中心とした課題解決のための情報活用行動プロセスを6つの場面に分け,基準として提示した。

 本基準の検討は,米国大学研究図書館協会(ACRL;CA1445参照)や英国国立・大学図書館協会(SCONUL)によるもの,日本図書館協会の『図書館利用教育ガイドライン 大学図書館版』等,国内外の先行する情報リテラシー基準を参考にし,これまでの大学図書館における情報リテラシー教育の実践も踏まえて行った。そもそも,日本の大学教育では「情報リテラシー」という概念自体が定まったものではなく,その定義から行う必要もあった。

 第1章で基準の策定経緯,意義及び基準の対象となる者を明らかにした上で,第2章で本基準検討の基本姿勢を示し,第3章では「情報リテラシー」の定義を試みた。第4章では基準の使い方を記し,第5章が基準本体となる。最後に,大学図書館を中心とした具体例として,各情報活用行動プロセスでの行動指標,構成要素を「基礎」「応用」「発展」というレベルに分けて示した活用体系表を参考資料として添えた。

◯情報活用行動プロセスの6つの場面
 課題解決のための6つの情報活用行動プロセスは以下のとおりである。

 1.課題を認識する
 2.情報探索を計画する
 3.情報を入手する
 4.情報を分析・評価し,整理・管理する
 5.情報を批判的に検討し,知識を再構造化する
 6.情報を活用・発信し,プロセスを省察する

 それぞれの場面で情報リテラシーを身につけようとする学生等(以下「学習者」)が取るべき行動を行動指標として示し,その達成度を評価する目安となる具体的な行動を構成要素として記述している。

 以下,例としてプロセス1の行動指標および構成要素を記す。

 1.課題を認識する
  行動指標1
  課題を認識し,その解決に必要な情報の範囲を定める。
  (構成要素)
  1.1 自分が取り組むべき課題を識別し,その本質を把握する。
  1.2 課題を解決するために必要となる情報を把握する。
  1.3 必要となる情報と現時点で持っている情報を比較し,新たに収集すべき情報の範囲を定める。

 このように,学習者は,これら6つの場面を必要に応じて前の場面に戻りながら課題解決を進めていく。大切なのは,そのプロセスを振り返り,自己の情報活用行動を適切に調整していくことを学ぶことであり,学習者はこの繰り返しを積み重ねることで,基礎的なレベルから次第に高いレベルの能力を身に付けることになる。

◯『情報リテラシー基準』の使い方
 この基準は,図書館が独自に行う講習会において活用されるだけでなく,大学の教育課程と連携した教育学習支援を実現するために,教育支援における図書館のパフォーマンスを具体的に提示するものとして策定された。教員や学内他部署との連携においても活用していただきたい。

 4章には,想定した図書館職員による使い方を以下のように記した。 

  • 図書館職員が学生への体系的な情報リテラシー教育を企画・実施し,その成果を評価する手がかりとして利用する
  • 図書館職員が情報リテラシー教育を行う際の学習目標の設定に利用する
  • 教員との連携において情報リテラシー教育の学習目標の共有を図るために利用する
  • 部署を超えた学内職員との連携による人的支援や図書館の持つコンテンツの活用など,図書館を含む学習支援部門の持つ機能をさらに活かすために利用する 

◯教育学習支援検討特別委員会での今後の取り組み
 教育学習支援検討特別委員会の活動は『情報リテラシー基準』の策定で終わりではない。これを大学教育の場で実際に使ってもらうことこそが大切であり,今年度は利用シーンに合わせた活用ガイドを作成するなどの取り組みを行っていく。そして,各館での活用事例を寄せてもらう過程で,図書館員同士のつながりを生み出し,教育学習支援活動を支えるコミュニティを作っていくことが必要だと考えている。

東京大学附属図書館・岡部幸祐

Ref:
http://www.janul.jp/j/projects/sftl/sftl201503b.pdf
http://www.janul.jp/j/projects/sftl/index.html
http://www.janul.jp/j/projects/sftl/establish.pdf
http://www.ala.org/acrl/standards/informationliteracycompetency
http://www.sconul.ac.uk/tags/7-pillars
E1713
CA1445
CA1514
CA1703