E1711 – 課題解決支援サービスに関する実態調査報告書について

カレントアウェアネス-E

No.289 2015.10.01

 

 E1711

課題解決支援サービスに関する実態調査報告書について

 

◯はじめに
 全国公共図書館協議会(事務局:東京都立中央図書館)では,2014・15年度の2か年で,「公立図書館における課題解決支援サービス」についての調査研究に取り組んでおり,2014年度は全国の公立図書館を対象に実態調査を行った。課題解決支援サービスについては,これまで先進的な事例紹介や,テーマをしぼった調査等が行われてきたが,全国の公立図書館を対象とした,サービス全体をとらえる調査は実施されていない。今回の調査で,サービスの全体像や実態を明確にすることにより,公立図書館の課題解決支援サービスの一層の充実に寄与できればと考えている。

 ・調査内容
 課題解決サービス全般,及び(1)ビジネス情報,(2)健康・医療情報,(3)法律情報,(4)行政支援の実施状況等について調査した。

 なお,調査では,「図書館の設置及び運営上の望ましい基準」(2012年12月19日文部科学省告示第172号)を参考に,課題解決支援サービスを「住民の生活や仕事に関する課題や,地域の課題の解決に向けた活動を支援するため,住民の要望並びに地域の実情を踏まえて実施されるサービス」と定義した。

 ・調査対象館
 図書館法第2条第2項に定められる図書館を対象とした。回答館数及び回収率は都道府県立図書館(以下都道府県立)が47館(100%),市区町村立図書館(以下市区町村立)が1,295館(98.8%)であった。設問で特別な指示がある場合を除き,2014年4月1日現在の状況,実績とした。

 以下に調査結果の概要を紹介する。概要で紹介する設問以外にも,「サービスを支える体制」「他機関等との連携」「サービスを継続していく上での課題」「都道府県立図書館による研修」等,多様な観点から調査を行った。報告書の全文及び調査に用いた調査票は,文末の全国公共図書館協議会のウェブサイトをご参照いただきたい。なお,一部複数回答可とした設問もある。

◯課題解決支援サービス全般
 課題解決支援サービスの近年の利用状況については,「大変増加している」または「増加している」と回答したのは都道府県立が31館(66.0%),市区町村立が592館(45.7%)であり,いずれも増加傾向にある図書館が多い。

(1)ビジネス情報
 サービスを実施しているのは,都道府県立が45館(95.7%),市区町村立が525館(40.9%)である。具体的なサービスは,都道府県立では「オンラインデータベースを提供」「特別のコーナーを設置」が多く,市区町村立では「特別のコーナーを設置」「関係機関の利用案内,イベント情報等を提供」が多い。都道府県立が提供しているサービスの種類数は1館あたり5.3で, 他の(2)~(4)において,都道府県立では,3.5前後,市区町村立では2.0前後であるのに比べ,格段に多く,多様な方法でサービスを実施していることがわかる。

(2)健康・医療情報
 サービスを実施しているのは,都道府県立では42館(89.4%),市区町村立では552館(42.6%)である。(1),(3),(4)と比べて,市区町村立の実施率が最も高い。具体的なサービスとして都道府県立では「資料リスト,パスファインダー,リンク集を提供」「特別のコーナーを設置」が多く,市区町村立では「特別のコーナーを設置」「関連資料を他分野より積極的に収集」が多い。

(3)法律情報
 サービスを実施しているのは,都道府県立では44館(93.6%),市区町村立では370館(28.9%)である。市区町村立の実施率は(1),(2),(4)と比べて最も低い。具体的なサービスは,都道府県立では「オンラインデータベースを提供」「資料リスト,パスファインダー,リンク集を提供」が多く,市区町村立では「オンラインデータベースを提供」「関係機関の利用案内,イベント情報等を提供」が多い。都道府県立,市区町村立とも特別なコーナーを設置している館が,ビジネス情報や健康・医療情報に比べて少ない。

(4)行政支援
 サービスを実施しているのは,都道府県立では36館(76.6%),市区町村立では541館(42.0%)で,他のサービスと比べて都道府県立の実施率が最も低いのに対し,市区町村立の実施率は健康・医療情報に次いで高い。具体的なサービスは,都道府県立,市区町村立とも「行政職員対象の貸出」,「行政職員対象の複写」「行政職員対象のレファレンス」の順に多く,サービス対象者は「自治体職員」「地方議会議員」等となっている。

◯課題解決支援サービスを実施していない理由
 都道府県立はほとんどサービスを実施しているため,ここでは除外し,市区町村立が実施していない理由を見てみると,全てのサービスで「職員の不足」「予算の不足」が多く挙げられている。「利用者(行政支援は「行政機関・職員」)のニーズがない」という理由を挙げる館も多いが,(1)~(4)のサービスごとに見ると,ビジネス情報では290館(38.2%),法律情報では302館(33.1%),行政情報では362館(48.5%)が当該理由を挙げている一方,健康・医療情報では140館(19.0%)にとどまる。また,「サービスを提供する環境に制約がある」「従来のサービスで対応できている」という理由は,どのサービスでも一定数見られる。

◯おわりに
 課題解決支援サービスが提起されてから,これまで多くの実践が積み重ねられてきた。その実態について,今回は公立図書館を対象に,網羅的に調査を行った。調査では主に4つのサービスを調査したが,それ以外の課題解決支援サービスについても調査を行っている。2015年度の調査では,それらのサービスの進展の状況を含めて,より分析を深めていく予定である。

東京都立中央図書館・余野桃子

Ref:
http://www.library.metro.tokyo.jp/zenkoutou/tabid/4053/Default.aspx
http://www.mext.go.jp/a_menu/01_l/08052911/1282451.htm
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S25/S25HO118.html