E1713 – 『ラーニング・コモンズの在り方に関する提言』

カレントアウェアネス-E

No.289 2015.10.01

 

 E1713

『ラーニング・コモンズの在り方に関する提言』

 

 国立大学図書館協会は2012年に,「大学図書館における教育学習支援機能充実についての諸方策の調査・検討」を行うために,教育学習支援検討特別委員会を3年間の時限付きで設置した。同委員会には情報リテラシー基準を検討・策定する情報リテラシー教育検討小委員会(E1712参照)と,ラーニング・コモンズ(以下LC)を活用した学習支援活動の普遍化を検討する実践事例普遍化小委員会(以下LC小委員会)の2つの小委員会が設置された。今回報告する『ラーニング・コモンズの在り方に関する提言 実践事例普遍化小委員会報告』(以下『提言』)はLC小委員会によって作成された文書である。

 LC小委員会は,「学習支援に係る先行大学における実践事例の調査とその普遍化のための検討」を行うことを目的として,(1)「LCの学習環境デザインについての事例調査及び普遍化」と(2)「学内教育関連組織と連携した情報リテラシー教育に関する事例調査及び普遍化」の2つの課題を検討することを目的として設置された。 

 LC小委員会は(1)を検討するため,北海道大学をはじめとする国内14大学のLC及びLCを活用した学習支援活動について,アンケートとインタビューによる調査を行った。これらの調査結果から普遍的要素の抽出を行い,それらを「場所」「アカデミックリソース」「人的支援」の3つの構成要素に沿って整理した。併せて中央教育審議会答申(2012年)や科学技術・学術審議会の報告のまとめ(2010年,2013年)などの政府文書に現れた理念や提案,北米のLCの動向や,ビーグル(Donald Beagle)氏を始めとする国内外の識者によるLCの定義や論議なども踏まえて,これらの普遍的要素を共有できるように,LCの理念,目的,基本的な構成要素として11項目にまとめ,「ラーニング・コモンズ(LC)の在り方―共通理解のために」(『提言』第5章)として公開した。 

 『提言』では,LCを「学生の主体的な学習を促す仕組みの総体」と定義している。この定義に従えば,それ自体が目的と考えられがちな場所・施設の整備はあくまでもLCの出発点でしかない。大学の授業や教育課程との密接な関連の下,大学図書館がコンテンツや人的支援の仕組みを併せ持つことによって,主体的な学び(自ら課題を認識しその解決を図る学習姿勢)に必要な学生のスキルの養成を担うところにLCの本質的機能はある。そして,LCが学習者中心の大学教育の実施に直接寄与することを最終的な目的としている。

 このような定義と目的に合わせて,主体的な学習に必要なスキル,LCで行われる代表的な学習活動のタイプ,LCの3つの構成要素(「場所」「アカデミックリソース」「人的支援」),LCを構成する建物・場所及び組織の単位,LCの拡張と進化,LCの運用方針などについて記述している。 

 LCの3つの構成要素について例示すると,まず「場所」としてはLCの建物・施設,什器やPC等の設備などが挙げられる。「アカデミックリソース」は学生等が情報を入手・加工・発信するために必要なコンテンツを意味しており,図書館が提供するデータベースや電子ジャーナル,蔵書検索システムやDiscovery Service,紙媒体の学術情報などの他に,ワードやエクセル等のソフトウエア,インターネット上の電子資源など,多様なリソースが挙げられる。「人的支援」は,図書館職員によるレファレンスや情報リテラシー講習,学生や大学院生等による学習・生活サポート等が想定される。ただし,これらの要素はあくまでも例示であり,個々の大学がそれぞれの教育環境や利用者ニーズに対応した多種多様な工夫や整備を行うことが重要である。

 巻末には,LCの整備状況が,目的達成の過程においてどの段階にあるのか,自己点検するためのチェックリストとテンプレートを付しており,大学図書館での実践的な活用が可能である。『提言』は従うべきLCの標準ではなく,LCの在り方を議論するための提案である。『提言』をきっかけに,各大学での実践を踏まえて,LCをめぐる実りある提案や議論が期待される。

 なお,教育学習支援検討特別委員会は,2015年度の国立大学図書館協会総会において,成果の活用を促進するため,設置期限を1年延長することが決定している。小委員会では残された(2)の課題にも取り組むこととしている。『提言』の本文と14大学の調査結果の詳細なまとめは,同協会のホームページで公開されているので,下記を参照されたい。

神戸大学附属図書館・内島秀樹

Ref:
http://www.janul.jp/j/projects/sftl/
http://www.janul.jp/j/projects/sftl/seminar2013/seminar201401.html
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/toushin/1301602.htm
http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2012/10/04/1325048_1.pdf
http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2013/05/13/1212958_001.pdf
E1712
CA1804