カレントアウェアネス-E
No.305 2016.06.16
E1809
クラウド目録:1つの目録にすべてを集約<文献紹介>
Steve Coffman. The Cloud Catalog: One Catalog to Serve Them All. Online Searcher: Information Discovery, Technology, Strategies. 2015, 39(6).
図書館目録は,ウェブにおける存在感が薄い。当文献は,米国の公共図書館は全体で約1億7,000万人の登録利用者を抱え,全米で読まれている本の約半数を所蔵しているにもかかわらず,検索エンジンで本のタイトルを検索すると,オンライン書店やソーシャル読書サービスのGoodreadsの方が,圧倒的上位に表示されるという現状を指摘する。サービスへのアクセス数を比較すると,Goodreadsは,1か月に2,140万人がアクセスし,米国におけるアクセス数ランキングが67位であるのに対して,WorldCatは,2015年4月のアクセス数がわずか49万人でランキングは3,748位とのことである。
Steve Coffman氏は,図書館目録の存在感を高める方法として「クラウド目録」の構築を提案する。これは,図書館が主体となって,書誌,書評,入手手段等の情報を1つに集めたウェブサービスを提供することで,現在は各図書館の目録に分散している利用者のアクセスを集約し,検索結果の上位に表示されるようにするというアイデアである。本稿ではその概要を紹介する。
クラウド目録が目指すべき要件は以下の通りである。
- 1つのウェブサイトに,出版物に関係する情報を集約する
- 全ての図書館の参加が困難でも,できるだけ多数の図書館が参加する
- 統合検索のための階層を新たに構築し,各図書館でシステムを入れ替えずに済むようにする
- 図書館員が利用者の要望も汲み自由にカスタマイズすることを可能にする
- 図書館の書誌と所蔵のみでなく,未所蔵資料の販売情報,刊行予定資料の情報(同じシリーズや同じ著者の刊行予定資料へのリンクを含む),商用の電子書籍へのリンク,HathiTrust(CA1760参照),プロジェクト・グーテンベルグ,Google Books等へのリンクも提供する
- タブの切り替えによって,前項の様々な情報への画面遷移を容易にする
- 図書館からの貸出しのみならず,オンライン書店からの購入や電子書籍のダウンロードなど,好きな方法での資料入手を可能にする
- 書評を書き込み,読む予定/読了した本などを分類する「本棚」を作成でき,それを他者と共有できるといったソーシャル機能を実装する
- 資料1タイトルについて作成する書誌は1レコードのみとし,その書誌を同じタイトルを所蔵する図書館で共有する
- 書誌をBIBFRAME(E1386参照)などのウェブ上の情報とリンクしやすい新たなフォーマットで提供することで,検索エンジンでの表示順位を上げる
- 図書館員がその知識や経験を生かして書誌等のデータを作成・管理し,レコードの一貫性を保つ
- ワンクリックで書店に資料を発注し,書誌をダウンロードできるようにすることで,収集,書誌作成業務の簡略化に資する
- 世界の各言語や,各国の全国書誌に対応したグローバルなウェブサービスにする
クラウド目録に取り組むことによる図書館の大きなメリットとしては,コストの削減が挙げられる。クラウド目録のシステム構築とメンテナンス,書誌作成やデータ管理を少数の管理者とスタッフで請け負い,各図書館での業務の大部分がクラウド目録のデータと同期化する作業に取って代わられれば,大幅にコストを削減できる。
一方で,システム構築とメンテナンスにはそれほど費用がかからないと予想する。例えば,Goodreadsの構築にかかった費用は約280万ドルで,仮に全米9,082の公共図書館で負担すると想定すると,1館の負担額はたったの308ドルですむ。クラウド目録の要件を実現するにはより複雑なシステムが必要だが,個別の機能はすでにオープンソースで開発されているため,コストが高額になることはないはずである,とCoffman氏は述べる。
コストについては,さらに,以下のような提案や事例紹介をしている。
- 広告導入の提案
- 書誌画面経由でオンライン書店から資料が購入された場合,その資料の売り上げから紹介料を徴収するという提案
- 相互貸借(ILL)による配送料を削減するための代替手段として,費用等に応じてオンライン書店から直接資料を利用者に配送し,利用後は図書館へ返却してもらう,米国カリフォルニア州の図書館による“Zip Books”という取組
- 一定の費用を支払うことで,利用者が刊行後一番初めに資料を借りられるというサービスの事例
また,クラウド目録を実現できそうな機関の1つとしてWorldCatやその関連サービスWorldShare Management Services(E1250参照)等を構築しているOCLCを挙げる。しかし,現状では,OCLCはSchema(E1192参照)というウェブ上の情報に意味を記述する手法も駆使して検索エンジンにデータを提供しているにもかかわらず,Googleの検索結果の1ページ目にWorldCatの書誌が表示されることはほとんどない。さらに改善が必要な点として,各図書館のシステムの所蔵情報が随時反映されないことや,システムにソーシャル機能も備わっているもののほとんど活用されていないことも挙げている。
当文献では,クラウド目録というアイデアについて,主に,利用者と図書館のメリットに注目して紹介しているが,オンライン書店やSNS運営機関にとって,図書館利用者のアクセスを集めることがどの程度メリットとなり得るかが,実現の鍵を握ると思われる。
総務部総務課・小笠原綾
Ref:
http://www.infotoday.com/OnlineSearcher/Articles/Features/The-Cloud-Catalog-One-Catalog-to-Serve-Them-All-106464.shtml
http://www.oclc.org/go/goodreads
https://www.oclc.org/worldshare-management-services.en.html
E1386
E1250
E1192
CA1760