E1386 – ウェブ時代の新しい書誌データモデル“BIBFRAME”

カレントアウェアネス-E

No.230 2013.01.24

 

 E1386

ウェブ時代の新しい書誌データモデル“BIBFRAME”

 

 米国議会図書館(LC)は,2012年11月21日付で,「『データのウェブ』としての書誌フレームワーク:Linked Dataモデルと支援サービス」と題した文書を公表した。LCでは,RDA(CA1767参照)導入テストの結果などを踏まえ,書誌フレームワークの変革に向けた取り組み“Bibliographic Framework Transition Initiative”を2011年5月に開始し,同年10月に計画文書を公表していた(E1246参照)。この取り組みの新たなステップとして,半世紀近くにわたって用いられてきたMARCに替わる,ウェブ時代にふさわしい新たなフォーマットのためのデータモデル“BIBFRAME”を提案したものである。

 本文書は,モデルを提示する中心部分の前に序論を,後にLinked Data(CA1746参照)に関わる背景説明,関係機関の活動紹介,今後の見通し,用語集を配した構成となっている。背景説明に一章を割いていることでもわかる通り,ここ数年図書館界でも注目されているLinked Dataの潮流を強く意識している(E1240参照)。単にMARCを代替するだけではなく,ウェブ世界において,より広い情報コミュニティとの関わりの中で書誌情報を活用していく基盤となることが目指されている。LCでは2012年5月に,かつてW3Cで初期のセマンティックウェブ活動を主導したミラー(Eric Miller)氏が代表を務めるZepheira社と契約を結んでおり,本文書及びBIBFRAMEモデルは同社の作成による。

 BIBFRAMEのデータモデルは,FRBR(書誌レコードの機能要件)等と同様にE-R(実体関連)モデルに沿っている。また,Linked Dataの一般的な表現方式であるRDF(Resource Description Framework)の考え方に従い,実体・属性・関連はURIによって識別されることが企図されている。ただし,今回明確に提案されたのは最上位の実体(メインクラス)設定のみで,実体・属性・関連の具体的設定や語彙,XMLを用いた構文表現は断片的な例示が行われるにとどまっている。

 本モデルを構成するのは,「著作(Creative Work)」「インスタンス(Instance)」「典拠(Authority)」「アノテーション(Annotation)」の4つの実体である。このうち,「インスタンス」がFRBRでいうところの「体現形」,すなわち現在の書誌レコードの作成単位に相当する実体である。「著作」は対象資料の概念的・抽象的な側面に相当する実体である。FRBRの「著作」に加え,本文書に明記はないが「表現形」をも包含していると思われる。「典拠」は,著者・主題典拠データの対象(個人,場所,主題,団体等)に相当するが,既存の典拠コントロール活動のみではなく,ウェブベースの同種の試みをも含めうる「共通で軽量の抽象レイヤー」を志向している。

 「アノテーション」は,他の実体に対する追加的な情報であり,図書館の所蔵情報や,資料の表紙画像,資料に対するレビュー・コメント等が想定されている。このうち所蔵情報は,「インスタンス」自体の情報ではなく個別の図書館での取り扱いであるとの認識から,「アノテーション」と扱われる。その他,当該資料に対する利用統計データやアクセスポリシー等も,図書館から「アノテーション」として提供されうる。一方で,利用者が資料に対して画像をリンク付ける例なども示されている。図書館によるもの,外部で生成されるものを問わず,メタデータ生成後に様々な情報がリンクされていくことで生まれる可能性を重視し,柔軟性を重視したモデルとなっている。

 本文書で明確に提案されたのは最上位の実体設定のみであり,またあくまで草案であって今後変更されうることが強調されてもいる。発表後,LCの運営するメーリングリスト“BIBFRAME”に寄せられたメールを通覧すると,「表現形」や「個別資料」の扱いがFRBRと大きく異なること等に戸惑いや疑義も見られる。書誌的世界の「概念モデル」であるFRBRと,MARCに替わるフォーマットのためのデータモデルであるBIBFRAMEとは役割が同列でないと思われるが,それが本文書で明確に示されているとはいえない点に一因があるかもしれない。

 今後に向けた具体的なスケジュールは明らかでないが,本文書の公表と並行してLCは,英国,ドイツの国立図書館やOCLCなど6機関の参加によるBIBFRAMEのテストプロジェクトを開始したことを発表した。MARC/XMLからBIBFRAMEへの変換プログラムも公開されるなど,さらなる具体化に向けた動きが進められている。

(帝塚山学院大学人間科学部・渡邊隆弘)

Ref:
http://www.loc.gov/marc/transition/news/bibframe-112312.html
http://www.loc.gov/marc/transition/pdf/marcld-report-11-21-2012.pdf
http://www.loc.gov/marc/transition/index.html
http://www.loc.gov/marc/transition/news/modeling-052212.html
http://listserv.loc.gov/cgi-bin/wa?A0=bibframe&D=0&T=0
https://github.com/lcnetdev/marc2bibframe
http://3windmills.com/kefo-swib12-bfi/kefo-swib12.pdf
http://www.kcoyle.net/bibframe/
http://www.thedigitalshift.com/2012/12/roy-tennant-digital-libraries/library-of-congress-bibframe-initiative-part-1/
http://www.thedigitalshift.com/2013/01/roy-tennant-digital-libraries/library-of-congress-bibframe-initiative-part-2/
CA1746
CA1767
E1240
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