E1387 – 図書館・情報発見・目録について考えるための13の視点

カレントアウェアネス-E

No.230 2013.01.24

 

 E1387

図書館・情報発見・目録について考えるための13の視点

 

 OCLCの研究部門担当副会長兼最高戦略責任者であるデンプシー(Lorcan Dempsey)氏が,“Thirteen Ways of Looking at Libraries, Discovery, and the Catalog: Scale, Workflow, Attention”という記事を,EDUCAUSE review誌(2012年11・12月号)で発表した。

 従来のように図書館サービスのなかで独立した存在としての図書館目録は存在感を薄めつつあり,情報発見(ディスカバリー)のためのより大きな環境のなかに取り込まれ,目録データは様々なサービスへと流れ込んでいっている。デンプシー氏はそのような状況にある図書館,目録,ディスカバリーの動向を13の視点から整理し,今後の方向性について予測を行っている。

 序論では,議論の土台として,人々の利用する情報が紙からデジタルへ,その関心がローカルレベルからネットワークレベルへと移っていくにつれて変化が起こっている二つの要素に注目している。すなわち“アテンション”と“ワークフロー”である。情報量が少なくアテンションが豊富だった時代には,人々は書籍や雑誌を参照したい場合には図書館へと出かけていたが,現在は情報量が豊富でアテンションが希少という逆転した状況にあり,ネットワーク上で人々は網羅的な情報を求めてまずはGoogleに代表されるハブへと向かう。他方で,人々は従来図書館を中心としたワークフローを組み立てていたが(大学や地域の中心部に図書館が設置されたことに象徴される),ネットワーク上ではサービスが人々のワークフローに寄り添うことが期待され,結果,情報の提供方法が多様化してきていると分析する。

 続いて,目録や情報発見をめぐる動向について,13の視点から幅広くまとめている。これらは大きく三つ―ネットワーク上の図書館,単体の図書館,図書館の協働―に分けられている。ここでは,それぞれのカテゴリーから視点を一つずつ紹介したい。

 第一の視点は,ウェブスケールへの移行である。図書館目録はローカルで入手できる資料を対象としたもので,インスティテューションスケール(CA1772参照)と表すことができる。一方で,人々による情報の発見やアクセスはネットワークレベル,すなわちウェブスケールへと移行しており,この不一致などを理由として,図書館は“ゲートウェイ”としての役割をGoogleをはじめとするサービスに譲り渡しつつあると分析している。このように情報の発見は図書館の外部で行われるようになってきているが,発見したものを入手するため,それらのサービスから図書館へのリンクがなされることがあるとも指摘している。

 第七の視点では,人々の多様なワークフローのなかに書誌データを届けるための様々な方法を三種類に整理している。一つ目は機関や個人による書誌データのキュレーションである。文献リストや研究者のウェブページ,文献管理ツール,LibGuidesなどの研究ガイド,Symplecticのような研究情報管理システムなどを紹介している。これらからは関連する図書館リソースにリンクされていることがある。二つ目は書誌データの配信で,RSSやFacebookなどの手段を挙げるほか,Google BooksとGoogle Scholarにおける露出が特に重要であるとしている。三つ目は図書館外部の情報発見環境から図書館へと人々を誘導することである。ウェブブラウザの拡張機能LibXや,Google Scholarでのリンクリゾルバの設定などを挙げている。

 第九の視点は,図書館内でバラバラに扱われていた様々なフォーマットの資料を一括して検索できるディスカバリーレイヤーの登場である。但し,これによって別個に目録が存在する必要がなくなったかどうかは議論の余地があるとしている。また,図書館のコレクション全体ではなく,図書館の提供するもの全体を検索できるようにするというアイディアに触れ,その好例としてミシガン大学図書館を紹介している。同館では,図書館のウェブサイトやLibGuidesのコンテンツだけでなく,キーワードに関連する主題分野の図書館員の情報もを一括して検索できるようになっている。図書館のウェブサイトは顔の見えないものになりがちだが,専門家として認められたいならばその専門性を見えるようにしなければならないとデンプシー氏は言う。

 最終節では,今後数年間における展望について氏自身の考えを述べている。例えば,情報発見のネットワークレベルへの移行や,前述のようなキュレーションサービスの利用については,今後も進んでいくとしている。そのような中で図書館については,ディスカバリーについても図書館間の協働が広まっていくことや,研究者に対して研究成果のネットワーク上でのインパクトを最大化するための支援を行う可能性などの五点について述べている。

 デンプシー氏が示している視点は抽象的なものも多いが,具体的な例示によって理解が助けられる。図書館目録やディスカバリーのこれからについて考えるための大きな枠組みを与えてくれる論考であると言える。

(関西館図書館協力課・林豊)

Ref:
http://www.educause.edu/ero/article/thirteen-ways-looking-libraries-discovery-and-catalog-scale-workflow-attention
CA1772