E1240 – 図書館によるLinked Dataの活用へ向けたW3Cのグループの提言

カレントアウェアネス-E

No.205 2011.11.25

 

 E1240

図書館によるLinked Dataの活用へ向けたW3Cのグループの提言

 

 2011年10月25日に,ウェブ技術の標準化を推進する団体W3C(World Wide Web Consortium)のLibrary Linked Dataインキュベーターグループが,図書館におけるLinked Data(CA1746参照)の活用に向けた最終報告書を公表した。同グループは,図書館データのウェブでの相互運用性の向上の支援を目的に,2010年5月から2011年8月まで設置されていたものである。なお,この報告書において“Library”という用語は博物館・美術館や文書館等も含む用語として使用されており,本稿においても,「図書館」をそのような意味で用いる。

 報告書では,まず,Linked Data活用の利点が挙げられている。図書館組織にとっての利点としては,資料の詳細なデータを一機関で作成するのではなく複数の機関や個人が作成したデータを統合できることや,デジタル資料の管理等の作業が改善できること等が挙げられている。そして,図書館は,Linked Dataにより,多くの人が情報を探すウェブという場での存在感を高めることができるとしている。その他の利点として,図書館利用者は資料発見やデータ利用がしやすくなること,図書館職員は共有データの使用で労力を削減できること,図書館システムの開発者は図書館特有のデータフォーマットに合わせなくてもよくなること等が挙げられている。

 次に,現状での図書館データの問題点として,図書館データはウェブ上の情報資源と統合されていないこと,MARCやZ39.50等の標準は図書館コミュニティに合わせて設計されていること,図書館データはコード化された値ではなく自然言語テキストによるものが多いこと,図書館のコミュニティとセマンティックウェブのコミュニティでは用語が異なること,図書館の技術変化はベンダーのシステム開発に依存していること等が指摘されている。

 最終章では,図書館は,利用・保存等の資源管理,共通ルールに基づく資源の記述,利用者ニーズへの対応という伝統的な活動に基づき,Linked Dataへの関わりにおいて主導的な役割を担うことができるとした上で,次のような提言を示している。

  • 図書館は,Linked Dataとして早期に公開できそうなデータを選び出し,オープン性や権利の問題についての議論を促進する。
  • 図書館の各種標準に関わる機関は,セマンティックウェブの標準化への図書館の参加の促進,Linked Dataと互換性のある図書館データの標準の開発,図書館のLinked Dataの設計ノウハウ等の普及活動を行う。
  • データやシステムの設計者は,Linked Dataを活用した利用者サービスの設計,図書館のデータセットに含まれるアイテムへのURI付与,Linked Dataの語彙とURIの管理方針の構築,Linked Dataの語彙による図書館のデータの表現を行う。
  • 図書館職員は,キュレーションや長期保存の経験を適用して,Linked Dataのデータセットを保存する。

 なお,報告書と同時に,Linked Dataの活用事例をまとめたレポートと,図書館に関連するデータセット等を一覧にまとめたレポートが公表されている。

Ref:
http://www.w3.org/2005/Incubator/lld/XGR-lld-20111025/
http://www.w3.org/2005/Incubator/lld/XGR-lld-usecase-20111025/
http://www.w3.org/2005/Incubator/lld/XGR-lld-vocabdataset-20111025/
CA1746