E1241 – ハイブリッドOAを巡る高等教育機関・出版社・助成機関の問題

カレントアウェアネス-E

No.205 2011.11.25

 

 E1241

ハイブリッドOAを巡る高等教育機関・出版社・助成機関の問題

 

 英国情報システム合同委員会(JISC)傘下のJISC Collectionsは,2009年から2011年にかけて学術ジャーナル出版の新たなビジネスモデルとしてのオープンアクセス(OA)出版をテーマに据えた,3フェーズから成る研究プロジェクトを実施した。2011年3月に開始されたフェーズ3では「ハイブリッドOA」モデルに焦点を当て,高等教育機関の図書館員や機関リポジトリ担当者,助成機関や出版社の関係者へのインタビュー等を行った。その結果が2011年9月付けで発表された報告書“JISC Collections Open Access Fees Project: Final Report”にまとめられている。

 ハイブリッドOAとは,ジャーナル自体はOAではないが,著者がジャーナル投稿時に出版社に費用(Article-Processing Charge:APC)を支払うことで自著論文をOAにすることができるというものである。ハイブリッドOAプログラムの例として,Springer社のOpen Choice等がある。

 報告書は,まず,2011年現在の状況について触れ,研究プロジェクトが開始された2009年と比較すると,学術出版のビジネスモデルとしてのOAは出版社,図書館,助成機関の間に定着した感があるとしている。また,2011年6月に発表されたビョーク(Bo-Christer Bjork)氏らの論文を引用し,2000年以降,OAジャーナルの数は年平均18%,掲載論文の数は年平均30%の割合で増加していると述べている。

 続いて,助成機関と助成の在り方,高等教育機関,出版社と透明性,購読モデルからOAへの移行,標準とメタデータ,仲介者とサービスプロバイダといった領域に存在する問題点や推奨事項等がまとめられている。以下,その中からハイブリッドOAに関するものを中心に紹介する。

  • APCに対して助成を得られない,もしくは助成を得る方法を知らない研究者がいるためにハイブリッドOAは現在マイナーな存在に止まっている。助成機関は助成プログラムが利用しやすいようにする必要がある。
  • 図書館員は出版社が透明性に欠けていることに不満をもっている。ジャーナル購読費用やAPCの価格設定について透明性が確保されるまでは「二重払い」であるという印象はぬぐえないと答えた図書館員もいる。一方で,出版社側には,自身の顧客に対しては透明でありたいが,競合他社に対してはそうではないという事情もある。
  • 図書館員はAPCの管理の複雑さに不満を持っている。
  • ハイブリッドOAモデルでは,1つのジャーナルの中にOA論文と有料論文が混在することになり,利用者が混乱しがちである。出版社側は互いに協力し,ジャーナルや出版社のウェブサイト上でOA論文を分かりやすく表示するための統一的な方法を決めることや,OA論文を示す標準的なシンボルマークを作ることを検討すべきである。
  • 学術コミュニティは,出版社はハイブリッドOAモデルを導入したものの取り組みに消極的であり,出版社が主導してこの問題に取り組む必要があると感じている。一方で出版社側は,OAへの移行には助成機関がAPCへの助成を行う必要があると主張している。
  • OA論文を容易に追跡できるようなメタデータが必要である。例えば,機関ID,研究助成番号,著者ID,DOI,ISSN,インボイスIDなどがある。
  • 図書館員からは,出版社の多くはOA出版の業務プロセスをうまく管理できておらず,インボイスの到着が遅れるといった問題が発生しているという意見が出た。出版社側もシステムの改良等に取り組んでいるが,伝統的な契約代理店がサポートを果たすことができると提案されている。英国の代表的な代理店にはEBSCO社やSwets社があり,Open Access Keyといった新しいプレイヤーも生まれている。

Ref:
http://open-access.org.uk/wp-content/uploads/2011/10/OAIG_OAFees_Oct2011.pdf
http://www.springer.jp/author/journal/openchoice.php
http://www.openaccesskey.com/