カレントアウェアネス-E
No.301 2016.04.14
E1784
近畿病院図書室協議会共同リポジトリ「KINTORE」の構築
近畿病院図書室協議会(以下病図協)は,2016年1月28日,会員機関の職員の研究成果を無償公開する共同リポジトリ「KINTORE」(キントレ)を公開した。
病図協は,名称に近畿と付くが,北は埼玉から南は鹿児島まで幅広い地域から114機関(内訳は病院が107,大学が3,専門学校が2,研究機関等が2)の図書館・図書室(以下,病院図書館)が加盟している。資料の相互利用,会員の教育・研修,出版・広報活動,統計調査,関連団体との交流を行っており,リポジトリ事業には2014年から取り組んでいる。
KINTOREという名称は「近畿病院図書室協議会リポジトリ」の「”Kin”ki Byoin “To”shoshitsu Kyogikai “Re”pository」に因む。筋肉トレーニングの「筋トレ」ともかけており,リポジトリを通して病院図書館員の資質を強く鍛え,病院図書館の存在意義を向上させていきたいという想いを込めている。
KINTOREはシステムにDspace(CA1527参照)を使用し,SaaS(Software as a Service)型サービスによるクラウド環境で運用している。協議会での共同運用という性質上,サーバの設置場所を固定できず,クラウドでの運用を選択した。システム構築は株式会社アグレックスに委託した。リポジトリの開設準備は,病図協のリポジトリ部員が担った(2014年度は6名,2015年度は4名)。公開時のコンテンツは,病図協会誌『病院図書館』20巻1・2号(2000年)~33巻2号(2014年)の記事と『三菱京都病院医学総合雑誌』『洛和会病院医学雑誌』といった加盟機関の刊行物とした。
KINTOREには,病図協加盟機関であれば無料で参加でき,2016年3月現在,12機関が参加している。『病院図書館』など病図協の刊行物はリポジトリ部で登録し,各機関の刊行物は,各病院図書館の担当者が登録する。
大学や研究機関では機関リポジトリが発展してきたが,大学に属さない病院は人員面,資金面でリポジトリを単独で構築することが難しい。共同リポジトリであるKINTOREは,病院の設置母体を選ばず,かつ機関リポジトリを構築するのに比べ,安価で少ない労力で参加することができる。
KINTOREは構築まで2年を要した。開設のきっかけは,2012年の第29回医学情報サービス研究大会の中で開催されたデジタルリポジトリ連合(DRF)主題ワークショップ「リポジトリで発信する医療情報・病院図書館との連携」に病図協からパネリストが参加し,病院図書館を対象として実施した,リポジトリへの意識調査アンケート結果を報告したことである。その後,病図協内でリポジトリの意義を検討して可能性を模索し,2014年には「病院図書室における機関リポジトリの可能性」をテーマに研修会を行った。この研修会では事前にメーリングリストを開設し,大学図書館員や企業の講師からリポジトリの意義や著作権許諾,メタデータなどの知識をレクチャーいただき,細かな疑問を解消することができた。病院図書館は担当者が一人の機関が多いため,担当者教育として研修会や会員サイトでの教育に力を注ぎ,詳しい実務マニュアルの作成などにも取り組んだ。
病院図書館のリポジトリは,自機関の職員(医師,看護師,技師や事務などのコメディカル職員)はもちろん,世界中の研究者,学生,市民に利益をもたらすと考えている。自機関の職員にとっては,自身が執筆した論文や研究成果をリポジトリに登録することによって,より多くの人に研究成果を知ってもらい,職員自身を世界にアピールできるようになる。また,患者をはじめとする一般の人々はより簡単に医療情報にアクセスでき,主治医や病院の研究成果を見て安心して治療をうけられるようになる。そして,病院や研究機関等にとっては,職員や機関の研究成果を公開することで社会への説明責任を果たすことになり,信頼性の向上につながる。最後に,病院図書館にとっては,リポジトリが新たな研究支援の手段となる。病院の研究者の間では一般に図書よりも雑誌の需要が高く,電子ジャーナルやデータベースの普及に伴い,病院図書館員の仕事は大きく変わりつつある。リポジトリが病院図書館にも普及し,研究者を支援できるようになれば,病院図書館員の存在意義はより向上する。
病院図書館がリポジトリの構築によりオープンアクセス(OA)を推進する要因は大きく2つある。
1つめは,多くの病院が刊行する紀要や雑誌が灰色文献化していることである。これらの資料は流通範囲が狭く,また所蔵資料を公開している病院図書館は少ない。病院は研究成果報告のために無料で紀要や雑誌を刊行しているが,研究者や学生は費用を負担して複写物を取り寄せている現状があり,これらの問題点を解消したいと考えている。
2つめは,学術情報流通の望ましいあり方への働きかけである。各病院で購読している学術雑誌は,海外大手出版社のものも多く,パッケージの肥大化や出版社主導の値上がりに悩まされている。グリーンOA(E1287参照)の普及と,研究者のための望ましい学術情報流通の実現に貢献したいと考えている。
今後は,『病院図書館』創刊号からのバックナンバーや,各病院の刊行物の公開のほか,学術雑誌掲載論文など更なるコンテンツの充実と,会員の教育と支援に取り組んでいきたい。
近畿病院図書室協議会リポジトリ部
Ref:
http://kintore.hosplib.info/
http://www.hosplib.info/
http://mis.umin.jp/29/
http://www8.cao.go.jp/cstp/kihonkeikaku/index5.html
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/036/houkoku/1368803.htm
E1287
CA1527