カレントアウェアネス-E
No.291 2015.10.29
E1724
『IFLA学校図書館ガイドライン』改定される
●実現可能で多くの示唆を与えるIFLA学校図書館ガイドライン
2015年8月,国際図書館連盟(IFLA)より『IFLA学校図書館ガイドライン』“IFLA School Library Guidelines”が公表された。2002年に出された『IFLA/ユネスコ学校図書館ガイドライン』(E003参照)の改訂版にあたる。学校図書館の目標を「社会に参加する責任感と倫理感を持ち,リテラシーを身に付けた児童生徒の育成」とし,「すべての児童生徒と教師が,効果的な学校図書館プログラムとサービスを利用できるよう」に作成された。日本からは岩崎れい氏(京都ノートルダム女子大学)がIFLA学校図書館分科会のメンバーとして関わっている。
本文に「理想と現実の妥協」とあるように,このガイドラインは将来を予測したり,ただ理想を表したりしたものではない。ここに書かれていることが全て実現してもおかしくないであろう。
このガイドラインは「学校図書館専門職や,教育に関する意思決定者を支援するために作成」された。しかし,多くの他館種の関係者にとっても,学校図書館を理解するだけでなく,自らが行う実践への気づきが得られる。日本語へ翻訳されるべきものである。
●内容
ガイドラインは全6章の本文に加え,提言と用語集で構成されている。以下,後述の第3章を除いて内容を大きくまとめる。
第1章 学校図書館の使命と目的
学校図書館は,「学校図書館員」「学習を支援する資料」「明確なポリシー」の3つが柱となる。ポリシーは,各国の法律や各学校の目標に応じて定められるべきである。
第2章 学校図書館の法的・財政的枠組み
学校図書館は,地方・地域・国における法令の整備や継続的な予算配分が必要である。学校図書館支援センター(CA1755参照)が必要であり,学校図書館員が教師や管理職と協働して作成した明確なポリシーや計画も必要である。
第4章 学校図書館の物理的な資料・デジタルリソース
ポリシーとカリキュラム・学校経営・児童生徒・教職員・地域の特徴に基づいて,紙の資料・デジタル資料にかかわらず蔵書構築をする。ラーニング・コモンズやメイカースペース(E1378参照)の導入を検討すべきである。
第5章 学校図書館のプログラムと活動
読書推進・メディア情報リテラシーの育成・探究学習だけではなく,教師の専門性の向上などのプログラムを学校内外の様々な人と協力して行う。図書館の使い方のみを取り出して教えるのではなく,一連の探究学習のなかで図書館の活用を伝える「プロセスアプローチ」が現在の主流である。
第6章 学校図書館の評価と広報
学校図書館の評価は,サービスやプログラムの改善に役立ち,「証拠に基づく実践」(Evidence-based practice)につながる。広報としては,学校図書館が提供するものを利用者に伝える「プロモーション」と,時間をかけて意思決定者の理解と支援を促す「アドボカシー」の両方が必要である。
以上の章は,日本の学校図書館関係者にとっては,違和感なく受け入れられると考える。
- 相互貸借や資料の共有は,学校図書館にとって従来の機能ではない(第4章)
- 資料の延滞や紛失に対する罰金や罰則はできる限り避けるべき(第5章)
など,日本の学校図書館ではすでに達成されていることも多い。
●学校図書館員への高い要求と期待されるものの大きさ
第3章では,「学校の規模と学校それぞれのニーズに応じた,十分な教育を受けた意欲の高い職員が十分に配置されていることが不可欠である」とされる。「学校図書館員」(school librarian)は,「図書館員としての教育を受けた教師」とされ,「学校図書館のサービスやプログラムは,学校図書館員の下で行われるべきである」と学校図書館の中心的存在とされている。
国際的な50年以上にわたる研究から,学校図書館員は,
- 担任・教科の先生と同程度の学歴と経歴
- 学校図書館に関することと教室での授業方法の両方を学ぶこと
が必要とされている。職務の内容も,教育・図書館経営だけでなく,文化・言語・エスニシティなどのさまざまな価値を学校図書館に迎え入れるコミュニティエンゲージメントまで幅広い。
このガイドラインで学校図書館員に期待されているものは相当大きい。世界の学校図書館で,このようなことが満足に行われている例はとても少ないであろう。
●学校図書館員の部下である「学校図書館員専門職助手」
さらに,「学校図書館員は専門的な役割を果たす時間が必要なため」,学校図書館員の指揮の下に「配架・貸出・返却や,技術サービスなどのルーチン業務を行う」「学校図書館専門職助手」(paraprofessional school library staff)が必要とされている。
また,「図書委員やボランティアの活用」も考えられるが,「賃金が支払われている職員の代わりではない」とされ,学校図書館のポリシーの下で学校図書館活動を支援する。また,学校図書館専門職助手はもちろん,ボランティアにも,個人的な態度や信念でバイアスがかからないよう,また,プライバシー権と知る権利が保証されるよう,高い倫理基準が求められる。
●貸出記録を用いるとされているが
気づくこととして,学校図書館の実践の改善の評価に「貸出目録システムの記録」を,選書や探究学習の計画をたてるため「貸出記録」を用いることが考えられている。記録の分析の方法は書かれていない。
●新たな視点から考え直すチャンス
もちろん,このガイドラインを金科玉条とし,思考停止してはいけない。本文にも,「学校図書館の職員配置は,地域社会の状況に応じて変化する」とある。現在の日本のように,司書教諭と学校司書の2つの職種がある場合,ガイドラインのこの業務を行う場合どう分担するのかと問うことで,「学校図書館の専門職とは」などの大きな課題を考えるきっかけとなる。個人がそれぞれ考えることは,日本や世界のために有意義である。
長崎大学・岡田大輔
Ref:
http://www.ifla.org/files/assets/school-libraries-resource-centers/publications/ifla-school-library-guidelines.pdf
E003
E1378
CA1755