カレントアウェアネス-E
No.277 2015.03.05
E1659
第11回レファレンス協同データベース事業フォーラム<報告>
2015年2月19日,第11回レファレンス協同データベース事業(レファ協)フォーラム「つながる図書館の情報サービス:『調べる方法』の公共性」が国立国会図書館関西館で開催された。本フォーラムは,専門家の講演,参加館の実践報告等を通じて事業への認識を深め,併せて関係者相互の情報交換,交流の場とすることを目的として毎年開催されているものである。今年のフォーラムはインターナショナルオープンデータデイ2015の関連イベントに登録されており,これまでのフォーラムで議論されてきたデータの公開だけでなく,二次利用可能な形でのデータ提供(オープンデータ化)も視野に入れた議論が行われた。
第1部では,猪谷千香氏(ザ・ハフィントン・ポスト・ジャパン記者),大向一輝氏(国立情報学研究所准教授),そして小田光宏氏(青山学院大学教授)による,それぞれの専門分野から見た図書館やレファレンス協同データベース事業についての提言があった。
猪谷氏からは「図書館における情報発信」と題して,2000年代以降のソーシャルネットワーキングサービスについて,その発展の概略や,図書館における情報発信への活用事例が紹介された。図書館の情報を広範囲の利用者へ届けるには「BUZZ」(注)が必要であり,その条件として,予想を超える「サプライズ」,“中の人”の情熱が伝わる「パッション」,素早く対応する「アジリティ」,ユーザーの反応に対する「リスペクト」,最後に,継続は力なりとして「コンティニュイティ」などが挙げられた。
大向氏からは「オープンデータと図書館」と題して,諸外国,日本政府,そして各自治体や民間団体のオープンデータに関する多様な取り組みが紹介された。図書館が情報源としてオープンデータを活用したり,自身が持つデータをオープンデータとして提供したりすることはこれまでも行われてきた。今後はもう一歩進め,データを作り出すこと,あるいはそれを支援することが図書館の仕事になるのではないか,との考えが示された。
小田氏からは「図書館知の共有:レファ協の公共性」と題して,レファ協,あるいはレファレンスサービス自体を再考するための視点が提示された。図書館には目録法や検索法などの「方法的な知」,そしてレファレンス事例など「活動の成果としての知」の両方がある。レファ協やレファレンスサービスが公共性を持つためには,利用者の質問に答える直接的なサービスを実施するだけでなく,図書館の持つ知を社会的な利益に結びつけていく必要があるのではないか,と述べられた。
第2部では片岡則夫氏(清教学園中・高等学校),中山美由紀氏(東京学芸大学学校図書館運営専門委員会/東京学芸大学附属小金井小学校),岡崎聡志氏(山口大学図書館),余野桃子氏(東京都立中央図書館)をパネリストに招いて,パネルディスカッションが行われた。ディスカッションの中では岡崎氏から「公開するデータを選ぶのではなく,まずはデータを公開し,その後問題のあるものを取り除いていくやり方にすべき」といった積極的な意見が提示された一方,質問が公開されることへの利用者の抵抗感という課題が余野氏から提起された。フロアからは「レファレンスサービスの成果は図書館と利用者の共同生産物ではないか。オープンデータ化するに当たっては,『調べる方法』とレファレンスサービスのプロセスは分けて考えるべきではないのか」といった意見も出された。
コーディネーターの山崎博樹氏(秋田県立図書館副館長)によるまとめでは,レファ協データのオープンデータ化は一律にすぐに実現するようなものではないと述べられ,事業の参加館がデータ毎に利用条件を設定できるようにするといった方法など,どのようにデータを提供していくのか時間をかけて議論をしていく必要があるとの考えが示された。
なお,本フォーラムはインターネットを通じて中継されたほか,Twitterでも中継を行ない(ハッシュタグは“#crdf2015”)活発な意見交換が行われた。
関西館図書館協力課・レファレンス協同データベース事業事務局
注:BUZZとは,口コミで情報が爆発的に広まる事である。
Ref:
http://crd.ndl.go.jp/jp/library/forum_11.html
http://togetter.com/li/785561
http://odd15.okfn.jp/